ライターズルーム・シーズンベスト1(2025/6-9月)

ライターズルームメンバーから提出されている「10分脚本課題」のうち、シーズン(3ヶ月)内で1人1本、エントリーされたものをイルカが採点・講評し「ジーズンベスト」を決めていきます。

エントリー作品

※作品の並びはエントリー順です(イルカが読む順でもある)。

※エントリーはすべて修正稿のもので評価。

※選考してみたい方は、結果を読む前にリンク先から作品を読んでみてください。

山極瞭一朗『告白の続き』
https://irukauma.site/writersroom/study/45050/

さいの『安藤先生』
https://irukauma.site/writersroom/study/44783/

雨森れに『マゲと龍』
https://irukauma.site/writersroom/study/44829/

脚本太郎『家族(仮)』前後編
記事準備中
※10月以降、前後編のようなシリーズものは禁止となりましたが、今回まではエントリー可能となっています。

しののめののの『ウグイス嬢の困惑』
https://irukauma.site/writersroom/study/44842/

採点方式

通常の採点ルールに基づく「好き」の5点満点評価と、ストーリーサークルに基づく「題材」「人物(キャラ)」「視点」「テーマ」「構成」「描写」の6項目の各5点満点評価の平均値を「脚本」の点数として、合計10点満点にて評価。なお、脚本上で目立つ以下の要素は下記のに説明した項目に含めて採点する。3点は商業ベースに乗ってもギリギリ許されるライン。

設定の面白さ、アイデアなどは「題材」に含まれる。設定にオリジナリティがあるということは「題材」の加点材料となるが、説明ばかりしていると(説明シーン、説明セリフ)は「構成」や「描写」での減点材料となる。

セリフの巧拙は「描写」に含める。コピーライトのようなキャッチーなセリフなどは、それだけで加点される可能性は高いが、シーンに合致していない場合、減点もされる。逆に日常的なセリフでも感情がしっかりと伝わってくるセリフは加点要素。その他、ト書きでの雰囲気や感情描写も「描写」に含む。また、シーンがクリシェにならず、オリジナリティのある場所や状況を採用していることも「描写」の加点材料となる。

タイトルの魅力さは「題材」「人物」「テーマ」など、関連する項目への加点材料とする。例えば、ストーリーの「題材」としているものに魅力がある場合、それをタイトルでもうまく表現できていれば加点されるが、せっかくの魅力がタイトルから伝わってこない場合、減点されかねない。「人物」が魅力的な作品であれば、タイトルからもその人物が連想されることが効果的になる。題材、ジャンル、テーマといった作品の魅力を伝える第一印象に当たるのがタイトルである。読者はタイトルの一行で興味を惹かれるかどうかの選別をしている。そこで「読んでみたい」と引き込むことが出来れば、よいタイトルといえる。

脚本では映像的に読めることが重要で、読み心地は読者の印象を左右してしまう。これはシーンの繋ぎ方(トランジションなど)の下位要素と考えられるため「構成」に含める。ワンショットの連続がシーンとなるように、一行一行の繋がりが、読み心地の良さに繋がっていく。

また、読み始めた読者がワクワクするか、ストーリーに引き込まれていくかというポイントは「ストーリーエンジン」が駆動しているかどうかが重要なポイントとなる。これは内容によって「構成」「テーマ」などに含める。

採点と講評

※以下、合計点の昇順

山極瞭一朗『告白の続き』(★3.7)

https://irukauma.site/writersroom/study/45050/

合計点 好き 脚本平均 題材 人物 視点 テーマ 構成 描写
3.7 2.5 1.17 1 1 1.5 1 1 1.5

主人公の女子高校生が男性教師に恋をしていると思わせて、実は男性教師は相談相手で、主人公が恋をしていた相手は女性教師であったという面白みのある作品です。「男性教師に恋をしている」と思わせるミスリードは巧くいっていますが、そこからの返しにあたる「女性同士だから?」のセリフが唐突で混乱してしまいました。こちらが読み間違えているのかと読み直しをしてしまいました(なお、僕は観客と同じ立場で読むよう人物表やログラインは読まないようにしています)。この、どんでん返しがうまくいったとしても面白みにはなれど、ラブストーリーというジャンルは、本質は主人公の恋する気持ちに共感したり、応援したり、ときにもどかしさを感じたりして、恋愛感情を楽しむものなので、描くべきことからズレてしまっているように感じるのが残念です。同級生の一心は、この長さではノイズになってしまっているので、しっかりとバックストーリーを踏まえて、主人公にもっと影響を与えるシーンを作るか、カットして主人公に時間を使う方が効果的かもしれません。「刺すね」というセリフは小気味よい。ト書きの書き方が脚本的でルールなどの間違いは何もないのですが、リズムの単調すぎるので、ここぞという描写をしっかり描き込むと、観客に感情が伝わってくると思います。

さいの『安藤先生』(★4.3)
https://irukauma.site/writersroom/study/44783/

合計点 好き 脚本平均 題材 人物 視点 テーマ 構成 描写
4.3 3 1.33 1 2 1 1 1.5 1.5

教師の髪型が気になって勉強にも集中できなくなってします女子高校生の話で、大きな事件や意外性はありませんが、日常系アニメ(あるいは4コマ漫画)のような心地良さがあります。文章の読み心地がよいせいかもしれませんが、安藤先生というキャラが気になるので会話を読み進めたくなる魅力があります。しかし、キャラクター設定としては「髪型が撥ねているだけ」というのが、物語として観客の興味を惹くには弱い印象があります。数学教師という設定も変わり者の設定としてクリシェに見えますが、数学の知識などを活かしたセリフや髪型への拘りなどがあれば、オリジナリティとして昇華できたかもしれません。新任という設定だと思いますが、時間経過が飛びすぎているようにも感じるので、ある日、急に髪型を変えてきたなどの選択もありえたかもしれませんが。「髪が撥ねているだけ」なら、主人公が「なぜ、そこまで気になるのか?」のセットアップも欲しかったところ(髪型とか、教師の特徴が奇抜で、それだけで観客の興味をひけるならなくてもいける)。

雨森れに『マゲと龍』(★4.7)
https://irukauma.site/writersroom/study/44829/

合計点 好き 脚本平均 題材 人物 視点 テーマ 構成 描写
4.7 3 1.65 2.5 2 1 2 0.9 1.5

髪結をしながら、本当は絵師になりたい主人公の文吉と、その夢を応援するように津軽へ誘う治三郎。常連の宗吉に惜しまれながらも旅立ちを決意するドラマが魅力的な話です。この脚本の一番の問題点は読みづらさです。小説のようなト書きが、江戸時代の雰囲気を作ることに寄与していますが、反面、情報過多でノイズになっているように見えて肝心の感情ドラマが紛れてしまっています(ちなみにト書きの用語にも気をつけるとよいかもしれません。テーブルやベンチといった用語は観客の江戸時代を想像していた気持ちに水を差します)。ストーリーの始まるシーン3では「髪結でありながら絵師を目指している」という設定が、前提のようの会話が進んでいき「髪結? 絵心?」と混乱しました。観客に「髪結ながら、本当は絵師をしたいんだ」という感情を見せる「主人公のセットアップ」が足りていないため、主人公の気持ちに乗り切れず、共感ができていないのでラストの決断にも読者としては心動かされません。シーン1が治三郎から始まっていますが、素直に主人公からシーンを始める「視点」をもつことで、読者の印象は変わるように感じます(第三者視点から主人公を浮き彫りにしていくという手法もあるがテクニカル)。「題材」としては決して悪くありませんが、まだ設定を考えたレベルで、江戸時代ならではの事情や、「やりたいけど、やれない」感情の現代へのリンク、北斎との対比によって天才と凡人の比較(『アマデウス』のような)とか、何らかの独自の「視点」が加わると「テーマ」が生まれてくると思います。

しののめののの『ウグイス嬢の困惑』
https://irukauma.site/writersroom/study/44842/

合計点 好き 脚本平均 題材 人物 視点 テーマ 構成 描写
5.0 3.5 1.50 2 1 2 2 1 1

選挙カーのウグイス嬢が、公約を読み上げることで感じていく違和感。そこに目を向けた「視点」に面白みのある作品です。「テーマ」はもっと深掘りしていくことができそうで、それに伴って主人公が違和感をもっていく過程や、怖さなども変わってくると思います。読み心地も良く、すらすらと読み進めていけますが、ビートが弱く「違和感」から深みに入っていく取っ掛かりなどが、明確だとメリハリがついて、より読者の気持ちを掴んで、ストーリーを進められたと思います。

シーズンベスト

脚本太郎『家族(仮)』前後編(★5.2)
記事準備中

合計点 好き 脚本平均 題材 人物 視点 テーマ 構成 描写
5.2 3.5 1.67 1.5 2 2 2 0.5 2

家庭内暴力の問題を抱えた子連れ同士の再婚前家族。どこへ向かっていたのかは不明だが、車両トラブルに襲われ車は停止。中学生サトシは、義理の妹になるかもしれないヒトミに一時的にでも「お兄ちゃんでいてくれない?」と言われる前編。後編では熊に襲われたことをきっかけに、サトシが車を運転して、妹達を乗せたまま、二人の毒親を捨てて走り去っていく爽快なラスト。ショートフィルムのような魅力的な作品です。ただし、リアリティ、文章の書き方に大きな問題があり、作品の評価を大幅に下げています。少年少女のセリフやシーンにも魅力的なものもあり、それ自体は評価に値しますが、リアリティの問題を解消していくとシーン自体が成立しなくなってしまいそうな点も多く、作者のやりたいことを都合よくやっているだけの、ある種のファンタジー作品になってしまっていると言えます。作家性の片鱗は明らかに見えているので、それを読者にきちんと伝えて共感してもらうという課題と、どう向き合っていくのか(それが作者が現実社会とどう向き合うかとも言い換えられる)。この作品はかなり推敲を重ねれば、ショートフィルム系のコンクールなどで良い線にいきそうだと感じますが、作者の技量を考えると相当な推敲が必要であり、1回や2回の直しでは、そこまで到達できなそうな気がするので、今後に期待したいところです。

総評

合計点 好き 脚本平均 題材 人物 視点 テーマ 構成 描写
告白の続き 3.7 2.5 1.17 1 1 1.5 1 1 1.5
安藤先生 4.3 3 1.33 1 2 1 1 1.5 1.5
マゲと龍 4.7 3 1.65 2.5 2 1 2 0.9 1.5
ウグイス嬢の困惑 5.0 3.5 1.50 2 1 2 2 1 1
家族(仮) 5.2 3.5 1.67 1.5 2 2 2 0.5 2

今回、このような取り組みを初めてやり、いつもとは違う基準で評価をしました。「採点方式」の項目には、いろいろと書きましたが、とはいえ、僕の主観的・直感的な判断によるところは大きく、他の作品との比較して点数を調整している訳でもないので、どうしてこれが2点で、こっちは1点なのかなど問われると答えがたいものはあります。ただ、2点を付けた部分は明らかに「ここは良さそう」というものがあったり、逆に1点以下を付けた部分は「もう少し、どうにかしないと損だよ?」という感覚があります。もっと明確に「ここは良い!」というものがあれば文句なく3点以上をつけると思います。3点ぐらいは仕事としてこなす最低限ライン(商業ベースにのれる可能性はあるが、高評価はとれなそう程度)なので、それ未満の1点と2点の違いなどは僅差といえます。コンクールで、受賞しなければ1次通過も2次通過も大差ないように、3点未満は1でも2でも大差ないです。次回は今シーズン(10-12月)の後、来年1月の開催になるかと思いますが、続けていこうと思うので、採点基準についても、もっとシャープになっていくかと思います。エントリー作品は作者の自己推薦で選んでもらっていますが、エントリーしていないけど、もっと良い作品があった可能性もありますし、ましてや作品一つの評価が、その作家の評価になる訳ではありませんので、結果にあまり一喜一憂する必要はありません。僕からのフィードバックの一例ぐらいに捉えてもらえればと思います。僕が作品の講評に書いたようなことは、言い方が違うだけで、おそらくメンバー同士のフィードバックの中でも言われていることなので「改善できる点」は、たくさんあると考えて、成長していっていただければと思います。これからも、メンバーの成長、さしあたってはコンクール受賞を応援、サポートしていきます。がんばりましょう。

イルカ 2025.10.8

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