脚本添削:『運命の女』(★2.00)

※作品は「脚本講習」の参加者によるもので、作者の了承を得た上で掲載しています。無断転載は禁止します。本ページへのリンクは可能です。

『運命の女』川尻佳司(結婚したい男と結婚したくない女)221202

※作者の励みになりますのでコメント欄に感想を頂けましたら嬉しく思います。

本文への添削

赤字はイルカ。内容ではなく脚本の書き方への指摘です。

1. 北千住・千住マンション(15階建て)・7階千賀子の部屋(昼)
北千住の高層マンションの3LDKの8畳の千賀子の部屋。
前回はこういったト書きがなかったので入っていることは〇 次は情報量のバランスを考えていってください。何が必要で何が不要か? 情報が多すぎると読みにくくなります。情報が少なすぎると伝わらなくなります。また、LDKのようなアルファベットは全角英字を使ってください。英単語は横書きで可。
部屋に面したベランダに昼顔が咲いている。
部屋の扉が開いて、シャワーを浴びてきた岩上武(40)が入ってくる。
武を見る藤川千賀子(45)、ベッドに横たわって、
千賀子 「そろそろ帰ってくるから、急いで」
武 「誰が?」
(ワード入力時の注意ですが、名前と「の間はタブではなく全角スペースで調整してください。千賀子は3文字なのでスペース不要。武の後にはスペース2つ)
武、千賀子の隣に寝る。
千賀子 「今日は来ないでって言ったでしょ」
武 「好きな人の誕生日に会えないなんて、悲しいことだよね」
千賀子 「困らせないで」
武 「でも、もう好きでなかったら、悲しみも感じないだろうね」
千賀子 「あの人は、こういうことにはバカみたいにうるさいのよ」
武 「誕生日プレゼントがあるんだ」
千賀子 「え?」
武、鞄を取りに行き、中から指輪の箱を取り出して、千賀子の前に出し、開けて見せる。
人間が動作する時間を想像しながら、会話をさせながら、動かすと良いでしょう。この書き方だと「え?」の後、武の動作を無言で映すような印象があります(さすがに演出家が変えると思いますが)。
千賀子 「どういうつもり?」
武 「好きなら一緒にいたいと思うのは当然だろう?」
千賀子 「本気で言ってるの?」
武 「給料の3か月分じゃないけど、2・5か月くらいかな」
千賀子 「ちょっと、どうして? できないよ」
武 「もう愛なんてないのに?」
千賀子 「別れることはできない、そういう約束だったじゃない」
武、椅子に腰かけ、窓から外を見る。
武 「いつまで、このバカげたことを続けるつもりなの?」
千賀子 「自分でも思ってる、でも愛があるから結婚生活を続けるわけじゃないの」
武 「世間体や経済的なことのために?」
千賀子 「あなたにはわからない、(指輪を見て)ロマンチストさんにはね」
武 「君はロマンチストではないと」
千賀子 「どちらか一つだけを選べないのよ」
武 「本当かな、どうしてボクとつきあったの?」
千賀子 「もういいでしょ、バカね、こんなことして、気持ちだけでも嬉しいよ、(指輪を武に渡して)さ、これはしまって早く帰って、また連絡する」
武 「あんまりこういうことはしたくなかったんだけど」
武、携帯をとり、千賀子に見せる。千賀子の夫と女性が抱き合って歩く携帯画像、二人がキスしている画像。固まる千賀子。
ト書きに「夫」と書いてあっても、夫はここまでに映像として登場していないので観客は「夫である」と認識できません。こういうときは、次の武のセリフや、千賀子のリアクションなどを工夫して、夫であると観客に伝わるようにフォローを入れましょう。
武 「偶然、六本木でバッタリ会ったんだよね、お仕事の人かなあと思ったんだけど、歩いていく方向がお店と違うから……」
千賀子 「やめて」
武 「ごめん」
千賀子 「(笑う)おかしいよね、こんなふうに見せつけられると……」
武 「千賀子、一緒に出よう、君は幸せに生きていけるんだよ」
千賀子 「できない」
武 「……まだ信じられないの」
千賀子 「ちがうの、あの人が浮気してることが信じられないわけじゃない」
武 「そんなに世間体や今の暮らしが大切なの?」
千賀子 「あっ」
玄関の扉が閉まる音。
邦弘の声「ただいま、ん、誰か来てるのか?」
千賀子 「どうして? いつも夕方まで帰ってこないのに」
武 「千賀子、わかるだろ、もう終わらせる時なんだ」
千賀子 「いい加減にして、どうなるかわからないよ」
武 「僕は覚悟できてる」
千賀子 「私はそうさせない、お願いだから、ベランダに出ていて」
邦弘の声「千賀子?」
千賀子 「はーい」
邦弘の声「誰か来てるのか?」
千賀子 「頼むから、ここから出ないでよ」
千賀子、部屋の扉から出ていく。
千賀子の声「今、消防設備点検の人が来てるの、ベランダを見てくれてる」
千賀子の声となっていることから、千賀子が隣の部屋で話していて、映像としては武が部屋に残っているのだと思いますが、武のト書きがないので混乱しやすく、また武が何をしているのかもわからないため、武の感情が伝わりません。選択肢として「武を見せることで本当に良いのか?」ということも検討してください。文字情報(脚本上)では、邦宏と千賀子の会話でストーリーが展開しているように見えますが、映像には武が映っているので、武のシーンとなります(※だから、武のト書きがないのはあり得ない)。観客に何を伝えたいかで、何を見せるかが決まります。とはいえ、複雑な演出を考えるほどではなく、迷うときは主人公を見せる。感情を見せるという意識で考えてください。
邦弘の声「あれ、そうだったか、なあ見てくれ、3位の商品は洗剤だって、ったくセンスがないよなあ」
千賀子の声「すごいじゃん、今日は随分早かったね」
邦弘の声「おお、お前の誕生日だって言ったら、なんか気をつかわせたみたいで、早く帰されたよ、そうだ点検の人にこの洗剤もらってもらおう」
武、邦弘の声に反応する。
千賀子の声「いらないよ、そんなの、だいたい失礼でしょ、そんな」
邦弘の声「いや、こういう洗剤は喜ぶ人もいるんだ、聞いてみるだけいいだろ」
千賀子の声「やめてよ、恥ずかしいから」
邦弘の声「何も恥ずかしいことなんかない、いらなかったらそれまでのこと」
千賀子の声「やめてってば」
千賀子の部屋に藤川邦弘(48)と千賀子入ってくる。
邦弘 「あっどうも、ご苦労様です、異常ありませんでしたか?」
武 「異常?」
邦弘 「随分変わった格好だな?」
千賀子 「最近の作業着はこういうのが流行りよ」
武 「建物に異常はないようですが、住んでいる方には異常があるようだ」
邦弘 「あなたいったい何者なんですか?」
武 「僕は千賀子さんを愛している者です、ちょうどいま一緒になろうとプロポーズしてたところなんですよ」
武、邦弘に指輪を見せる。
邦弘、千賀子を見て、
邦弘 「おかしいと思ったんだ、最近変に機嫌がいいことが多いから、で、この男と出ていくのか?」
千賀子 「自分だって浮気してるくせに」
邦弘 「言いがかりはよせよ、みっともない」
武 「みっともないのはあなたも同じですよ」
武、携帯の画像を邦弘に見せる。
邦弘 「あっ」
武 「千賀子、一緒に行こう、もうはっきりしたじゃないか」
千賀子 「いい加減にしてよ」
武 「えっ?」
千賀子 「つけあがらないで、もう終わりよ、出て行って」
邦弘 「あんた、こいつのことをまだよくわかってないみたいだな」
武 「わからない、あんたたち、どうして一緒にいれるんだ」
邦弘 「もういいだろあんたも、こいつはあんたが思い入れるほどその愛ってやつをあんたに持ってはいないんだ」
武 「よくわかりましたよ、どうやら僕の方法が間違ってたみたいです」
武、千賀子の部屋から出ていく。
邦弘 「どうする? しばらく別居でもするか」
千賀子 「あなたが出て行ってよ」
邦弘 「はあ、また別居生活か、これで何度目だ?」
武、手に包丁を持って、千賀子の部屋に入ってくる。
武 「その必要はないですよ」
千賀子 「きゃあっ」
邦弘 「こいつ」
武 「千賀子、君には目を覚ましてもらうしかないみたいだね」
邦弘 「お前もとんでもないやつを連れ込んだな」
千賀子 「やめてっ、お願いだから」
武、邦弘に襲い掛かり、2人もみあう。
インターホンが鳴る。
千賀子 「誰か助けて」
千賀子、玄関へ駆ける。
邦弘 「痛てえ」
武の手から包丁が落ち、座り込む邦弘。
武、逃げようと千賀子の部屋から出ようとするが、入ってきた消防設備点検の2人に捕らえられる。
千賀子が邦弘に駆け寄る。
千賀子 「あなた」
ベランダの昼顔が風に揺れている。

イルカのコメント

今回は僕の方からいくつか条件を指定して課題を書いてもらいました。

・登場人物が2人

・名前と年齢、それぞれ「結婚したい」「結婚したくない」というwantを持たせるところ

・どちらかの部屋から物語が始まる

というところまで、前提条件として決めました。

川尻さんの作品では、途中から「藤川邦弘(48)会社経営者」という3人目が登場してルール違反をしています。

これは、裏を返せば、2人だけの会話が苦しくなって3人に逃げてしまったと言えるかもしれません。

2人の会話がもたないのはいくつかの原因が考えられますが、川尻さんの作品では「キャラクターのバックストーリーを考えられていない」ことが窺えます。

「男女が不倫関係で、女性の誕生日であり、夫がまもなく帰ってくる」

この辺りのことはわかりますが、それは「設定」や「状況」です。

バックストーリーとは、この武と千賀子が、

「何年前に、どこで出会い、どういうきっかけで不倫になり、どういう関係をつづけ、どういう思いから指輪をもってくるに至ったのか?」

といった、この「状況」になる原因や過去すべてがバックストーリーと言えます。

それらを、回想など使って説明することは絶対にしてはいけません。

もし、バックストーリーをすべて見せなくてはいけないという考えになると、主人公の誕生から描かないといけないという理屈になってしまいます(神話など超古典では、そういうストーリーが多いのですが。世界の始まりから説明しますからね)。

バックストーリーは、セリフや行動から見え隠れさせるものです。

適当に本文のセリフを1つとってみます。

武 「好きな人の誕生日に会えないなんて、悲しいことだよね」

このセリフは説明的で、情報は伝えていますが、バックストーリーを伝えていません。

二人の不倫関係は何年目でしょうか?

出逢ってから、女性の誕生日を迎えるのは何度目でしょうか? 初めてでしょうか?

それらを踏まえていたら、もっと色のついたセリフがでてくるのではないでしょうか?

その後の会話でも、バックストーリーを踏まえていれば、過去や未来や、相手の性格などについてのセリフが出てきて、それだけで400字10枚ほどの会話は展開できます。

「?」が多いキャッチボール会話になっていて、単調なやりとりが続いているのは、バックストーリーがないからが大きい原因に感じます。

一方で、上達している部分も多く見られます。

適当に拾ってみます。

武 「給料の3か月分じゃないけど、2・5か月くらいかな」

武の性格が垣間見えて、よいセリフです。個性的と呼ぶにはまだまだですが。

千賀子 「あなたにはわからない、(指輪を見て)ロマンチストさんにはね」

(指輪を見て)という動きは、映像的で、工夫が見られます。
(ただし、こういうところこそ、しっかりと「ト書き」で見せていくと読み手のイメージを刺激できます)

武 「君はロマンチストではないと」

ロマンチストという言葉が陳腐ですが、この返し方は良さげです。

構成上も、指輪や画像を見せることで変化をつけようという工夫はしています。

「状況の変化」ではなく、それによって「感情の変化」が起きているように描けると、魅力的な会話や展開にできたと思います。

武という人が、殺してしまうほどの思いはどんなものか?

それが見えないと、作者のご都合や、コントのような殺人に見えてしまいます。

まとめと次回へ
・バックストーリーをもっともっと考えましょう。
・バックストーリーを踏まえて、感情を考えましょう。
・状況を変化させるより、感情を変化させるのが人間ドラマです。

緋片イルカ 2022.12.4

評点

Iさん Sさん Kさん イルカ 平均
好き 2 2 3 2 2.25
脚本 2 3 2 1 2.00

他の方の感想
・構成はとても分かりやすかったです。そのせいか、強引な部分が少しあったかなと思いました。
洗剤のくだりなど、(旦那は気付いているという意味で)ワザトでしたらごめんなさい。
・昼顔を使用すると現存のドラマがチラついてしまうので、別の花が良いかなと思いました。
リンドウは「悲しんでいるあなたを愛する」といった花言葉もあるそうです。これを使ってサイコ的な主人公にしても面白そうだなと思いました。

・回を重ねる毎にセリフが朝ドラ・昼ドラ風になってきていて、川尻さんの作風はこれなんだなと思いました。
・昼顔×不倫もので現存のドラマがちらつきました。
・消防点検として武を隠そうとする千賀子、何か勘づいてて無理矢理洗剤を渡そうとする邦弘のあたりは人間臭くて好きです。このあたりをもう少し会話させたり、武を動かすとリアリティが出る気がしました。
・せっかく昼顔を出すなら、綺麗じゃない状態で出すのもいいかもしれません。少しハリがなくなってきてる昼顔→話の終わりには萎んでしまっている、とか。
・武の服装が気になりました。シャワーから出てきてそのままプロポーズ?変わった格好とは?
・邦弘が早く帰ってくることで時間がわかりにくくなっている気がしたので、時計出すとかセリフにもう少し混ぜるといいかもしれません。

※イルカ補足:実写ドラマは「時間感覚」と「リアリティ」は重要です。現実的に「そんなことある?」「できる?」みたいな表現は撮影段階で困り、嘘くさくなります。この辺り、マンガや小説とは大きく違います。

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