タイトルも忘れましたがテレビドラマで女子高校生の「~だわ」というセリフに遭遇して、脚本家の年齢を調べたら案の定、60過ぎのおばさんが書いていました。
「演出で直せよ」と思うところもありますが、ともかく、こういった作り手の年代が、知らず知らずと作品に滲み出てしまっていることはよくあります。
具体例として川尻さんの『クリスマスプレゼント』をお借りします。
この作品に対して「勝手に80年代ぐらいの話だと思って読んでました」「仮面ライダーとかもそれぐらいの時代背景を現しているのかと思ってました」といった意見がありました。
この読み違いは読者のせいだけではなく、作品の方に滲み出ているものがあるからではないかと思います。
セリフで「コロナ」の話が出てきているので2020年以降と特定はできます。
しかし、言葉による「一情報」より全体の雰囲気の方に読者=観客は引っ張られやすいということを作者は意識しなくてはいけません。
問題は、どこから、それが滲み出てしまっているのか?
年代漏れの原因
作者の年代が、作品に意図せず滲み出てしまうのは、物語創作ではアルアルです。
「水漏れ」みたいに「年代漏れ」と呼んでみても良いかも知れません。
『クリスマスプレゼント』では、
「仮面ライダー」という意見がありますが、現代でも仮面ライダーシリーズは人気です。
「ベルトを欲しい」というのが少しだけ昭和臭を感じます。
デジタルネイティブな子供が欲しがるか?という疑問が少しあるのです。
オモチャとしては今でもありますし、欲しがる子供がいるから商品があるのです。
ちなみに数年前、僕の甥っ子も買ってもらってました。
売上げはどうでしょうか? 昭和の頃よりは落ちているのではないかと感じます。
現代の子供は、全体として、もっと別のものを欲しがるのではないか?という感じがするのです。
データはありませんが、一般の人もそんなかんじがするのではないか?と思います。
僕の感覚ですが、実際のデータよりも「一般の人がそんなかんじがする」という雰囲気が、物語では大事です。
観客はわざわざデータを調べて、自分の認識を修正してくれたりはしないからです。
『クリスマスプレゼント』では、子供が「特別にベルトが欲しい」というセットアップがないまま、ベタな「子供が欲しいもの」という扱いをされているところにも違和感があると思います。
次に、それを「パチンコの景品としてとろう」という父親の発想です。
僕はパチンコをしないので、今のリアルがわかりませんが「子供のオモチャを景品としておいて、それをとるためにパパがパチンコをするように誘導する」という店の発想に昭和臭を感じます。
その発想には「両親と子供がいる」という昭和~平成の家族像や、パチンコをするのはパパというバイアスが見えます。
今では、もっと大人の男性や女性が欲しがりそうな実用的なものも景品として置かれているのではないでしょうか?
僕はわかりませんが、調べればすぐ出てくると思います。
オモチャを入手するのに、現代的なのはアマゾンなどネット注文でしょう。トイザらスも店舗が減ってる気がしますし、デパートのオモチャ売り場も古い感じがします。
いずれも、現存するものなので、絶対にNGといったことではありません。
意図的に、狙ってやっているなら一向に構いません。
意図的に昭和臭を出しているなら、意図的だとわかるように書かないといけません。
「偽装テクニック」レベル1:自覚
では、テクニックとして作者自身の年代を偽装するにはどうしたらいいかと考えてみます。
基本的にはバックストーリーとか設定描写の範疇なので、慣れてくれば自然に出来るようになると思いますが、思考方法のヒントを提示します。
たとえば「プロポーズ」するのに「クリスマスに高級ホテルでシャンパン付きで」というシーンはどうでしょう?
もちろん主人公の職業や年代にもよりますが、バブリーな香りがしますね。
その「プロポーズ」をされた主人公のリアクションを描くためのシーンであれば、意図的でしょう。
主人公に「今どきね……」というリアクションをさせるのです。
ですが、これがラブストーリーの、いかにもクライマックスのシーンになっていたら、作者が魅力的なシーンとして書いていることになります。
作者自身の頭の中が「素敵なプロポーズ=高級ホテルでシャンパン」なのだと、滲み出てしまうのです。
まずは、自分の率直な発想が、時代に合っているかどうか、自覚することがテクニックのレベル1です。
物語が現代で、主人公の年齢が作者自身と近いのであれば、それほど気にすることはありません。
自分と違う年代性別を書くことには、常にこういった自覚が必要だと思います。
ときどき「主人公を異性にして書くのが好き」あるいは「得意」と自負している方がいます。
ですが、リアルな異性から見たらどうなのか?
一般の観客はリアルと思ってくれるとしても、異性の作者の方が、もっと繊細に描ける可能性があります。
むしろ、自分でないものには限界があると自覚して、リアルな相手から意見をもらって修正する方が、作品としてはリアルに仕上がります。
自分にないものを書けるなどというのは己惚れで、ないと自覚するところからテクニックが始まるのです。
「偽装テクニック」レベル2:リサーチ
「魅力的なプロポーズとはどんなシーンですか?」
バラエティ番組の街頭インタビューを浮かべてみてください。
原宿にいる10代が答えるのと、巣鴨にいる80代が答えるのでは絶対に違いますね。
自分に書けないと自覚したら、インタビューやリサーチすればいいのです。
ググるだけでも相当な情報が出てきます。
探し方や、情報の取捨選択にもテクニックがありますが、それも調べるという作業をしていれば、身につくはずです。
身近な人などインタビューしてみるのも参考になりますが、ここで一つ気をつけて欲しいのは、インタビューしたからといって安直にそれを「答え」にしないことです。
「今の時代はこうなんです」と調べたことを、正義のように考える人がいるのですが、調べた内容やインタビューに答えてくれた人の意見も、世の中の「ひとつの意見」に過ぎません。
面白いネタでも、特殊な内容であれば観客にとっての違和感が生まれてしまいます。
古臭いといったものとは違った、別の違和感です。
これは「子供が仮面ライダーベルトを欲しいことをセットアップすること」が足りていないのと同じです。
その作品内において、そのキャラクターが、それを欲しがるという雰囲気が出ていれば、ベタなものでも珍しいものでも、物語は成立します。
面白いのはもちろん「珍しいもの」の方でしょう。
ですが、「珍しいもの」を「現実にこうだから」という理由だけで、セットアップせずにぶち込んではいけないのです。
「偽装テクニック」レベル3:オリジナリティ
レベル1では、自分の発想にクセがあることを自覚しました。
レベル2では、リサーチして現代の雰囲気や傾向は調べました。
創作は、もう一段階上です。
リサーチした傾向に沿って、誰も見たことないようなシーンを創造するのです。
「素敵だな~」
「こんなプロポーズしたい(されたい)」
観客にそう感じさせて、現実でも真似する人が出てくるぐらいのシーン。
それこそが作家が目指すべきオリジナルな魅力的なシーンです。
緋片イルカ 2022.12.24
最近は自分の部屋でプロポーズする方も少なくないとか。
私の頃は「プロポーズされたらゼクシィ買う」のが一種のステイタス(あるいは女子の夢?)的になっていたのですが、今の女子もゼクシィ買っているのかななんて思いました。