情動レベルと感情描写②声に出る/独り言(キャラ#52)

この記事は連載記事です。

目次:
①注意を向ける
②声に出る/独り言←NOW
③二人会話
④複数人会話
⑤その他

情動レベル2:声に出る/独り言

人間は激しい情動を感じたとき、思わず声に出してしまいます。

脚本例:
〇路地(夜)
  太郎が歩いている。
  銃声のような音。
  太郎、足を止めて辺りを見まわす。
  視線を止めて、
太郎「え……」
  倒れている人と、拳銃を持った男がいる。

一方で、激しい情動を感じてもいないのに発話をさせると違和感がでます。

脚本例:
〇路地(夜)
  太郎が歩いている。
  銃声のような音。
  太郎、足を止めて辺りを見まわす。
太郎「え……」
  ゴミ箱を漁っている犬。
  太郎はまた歩き出す。

これだと「太郎は何で声出したの?」と変に気になってしまいます。

声を出すほどの(=ト書きではなく台詞にするほどの)驚きがあったのか?

「ゴミ箱を漁っている犬のショット」に何かあったのを見落とした?などと考えてしまうのです。

観客が余計なことを考え出すと次のシーンが頭に入ってこなくなります。

脚本を読んでいる段階であれば、読み直したりして、流れるように読めなくなります。

観客を考えさせる度に、物語から気持ちが離れてしまうのです。

脚本例:
〇路地(夜)
  太郎が歩いている。
  銃声のような音。
  太郎、足を止めて辺りを見まわす。
太郎「え……」
  ゴミ箱を漁っている犬。
太郎「なんだ犬か」
  太郎はまた歩き出す。

これだと太郎は犬を見て「何でもなかったと気づいた」描写があるので感情の動きはわかりますが説明的です。

現実社会の日常で「なんだ犬か」と言う人を見たことがあるでしょうか?

リアリティがなく、キャラクターが人形的・マンガ的になり、状況を説明しているように見えてしまうのです。

「え?」とか「え……」とか「ん?」は、初心者が使ってしまいがちですが、いざ役者さんに演技をしてもらうと、間が悪くなり会話のテンポを崩してしまうことが多くあります。

本当に声を出してリアクションするような情動を感じているのかを、しっかり掴んだ上で、効果的に使いましょう。

同様に「独り言」も都合よい説明に使ってしまいがちなので注意が必要です。

もちろん、現実社会で「独り言」を言う人はいます。

あえて、お喋りなキャラクターとして固めていくなら構いません。

脚本例:
〇路地(夜)
  太郎が歩いている。
  銃声のような音。
太郎「なんだ……」
  太郎、足を止めて辺りを見まわす。
  視線の先には……ゴミ箱を漁っている犬。
太郎「驚かせんな、犬公」
  太郎はまた歩き出す。

シチュエーションと相まって、太郎が酔っぱらってるようにも見えますが、「ふざけんな」と怒るあたり、最初の物音で「驚きや恐怖」を感じたのかもしれません。

何か隠しごととか、やましいことがあるのかもしれない。あるいはただのビビりな性格か?

こういう独り言を多用するキャラクターであるとセットアップしたなら、きちんと、全編通して、そのキャラクターで描かなくてはいけません。

作者の都合のいい説明のためだけに「独り言」を使うと、リアリティがなくなり、チープに見えるのです。

声に出す出さないに関わらず、物語ではキャラクターたちは一貫した感情や目的をもち、それが読者や観客がわかるように描写する必要があるのです。

それこそがキャラクターアークです。

全体の構成ばかり(プロットアーク)に目がいっていると、キャラクターの描写が粗雑になります。

とはいえ、キャクターアークばかり丁寧に描きすぎて、盛り上がり欠けるストーリーになってもいけません。

「プロットアーク」と「キャラクターアーク」をしっかり描くことが、面白い物語には不可欠です。(プロットアークとキャラクターアーク

ト書きや説明的なセリフを見るだけで、作者のレベルがわかります。

トップシーン、ワンシーンでレベルがわかれば、全体のアークが描けていないだろうことは容易に想像できます。

最初の数ページで面白くないと思うと、読むのをやめてしまう人もたくさんいます。

まずは、作者がキャラクターの情動の動きに注目すること。

次に「映像的に伝える」(セリフでなくト書きで伝える)センスを身につけることです。

それが出来れば、セリフの説明っぽさも抜けていきます。

それが出来なければ、いつまでたっても脚本は巧くならないでしょう。

目次:
①注意を向ける
②声に出る/独り言
③二人会話←NEXT
④複数人会話
⑤その他

イルカ 2023.3.22

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