「プレミス」再考(中級編10)

三幕構成 中級編(まえおき)

三幕構成の中級編と称して、より深い物語論を解説しています。

中級編の記事ではビートを含む用語の定義や、構成の基本、キャラクターに対する基本を理解していることを前提としています。しかし、応用にいたっては基本の定義とは変わることもあります。基本はあくまで「初心者が基本を掴むための説明」であって、応用では例外や、より深い概念を扱うので、初級での言葉の意味とは矛盾することもでてきます。

武道などで「守」「破」「離」という考え方があります。初心者は基本のルールを「守る」こと。基本を体得した中級者はときにルールを「破って」よい。上級者は免許皆伝してルールを「離れて」独自の流派をつくっていく。中級編は三幕構成の「破」にあたります。

以上を、ふまえた上で記事をお読み下さい。(参考記事:「三幕構成」初級・中級・上級について

超初心者の方は、初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」から、ある程度の知識がある方は三幕構成の作り方シリーズか、ログラインを考えるシリーズからお読みください。

テーマはどこで伝える?

SAVE THE CATの法則 』 では「プレミス」(Premise、テーマの提示)をひとつのビートして定義しています。

たいていは主人公に向かって語りかけられ、多くの場合、何を言われているのかわかっていないことが、彼がこの話のなかで生き残れるかどうかの鍵になる。君の映画が何に“ついて”語るのかを明らかにする。(『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 SAVE THE CATの法則』より)

とあります。

僕はこれをビートとするのは反対でした。

テーマの扱い方が安易になるからです。

「桃太郎」の話で考えてみます。あくまで「犬、猿、雉をつれて、悪い鬼を退治する」というベーシックな桃太郎とします。

ブレイク・スナイダーの定義に沿って「プレミス」を入れてみます。

鬼退治に出発する桃太郎に対して、おじいさんが「気をつけるんじゃぞ、本当の鬼は自分の心の中にいる」など語るとします。

もちろん、桃太郎は一瞬「?」という顔をして「心配しないでも大丈夫だよ。俺は鬼なんかに負けない!」とでも言って出発します。「何を言われているのかわかっていない」のです。

これで「プレミス」としては機能しそうです。

しかし、あくまでベーシックな桃太郎としましたのでストーリーに「自分の心の中の鬼」など出てきません。

意味深なこと言っていたわりに、最後まで見てみたら「あのセリフ何だったの?」となります。

さらに、おじいさんのキャラクターもブレます。いかにも「テーマ」っぽいことを言わせるためのセリフで、おじいさんって、そんな哲学をもったキャラだったけ?となります。

初心者が、こんな風に安易に「プレミス」を扱っていると、テーマを掘り下げるという作業(創作上、とても大変な作業)に向き合わず、とってつけたようなテーマの物語ばかり書くクセがついてしまうかもしれません。

実際、この程度のとってつけたような「プレミス」をつけただけの物語がたくさんあります(書籍の帯のコピーのようです)。

リンダシガーは「セントラル・クエスチョン」という言葉を使います。

すべてのストーリーは、ある意味、ミステリーといえる。クライマックスで回答がなされるであろう問いかけをセットアップで行う。問題ごとや解決が必要な状況が紹介され、ストーリーを通し我々に問いかけてくるのでだ。

「ジョン・ブックは殺人犯を捕まえるえことができるか」(『刑事ジョン・ブック/目撃者』)

「オールナットとローズは戦艦ルイーザを撃破することができるか」(『アフリカの女王

「マーティンは鮫を退治することができるか」(『ジョーズ』)

この問いかけはセントラル・クエスチョンと呼ばれる。このセントラル・クエスチョンは、設定されると共に、ストーリーで起こるすべての出来事と結びつけられる。ほとんどのセントラル・クエスチョンはストーリーのクライマックスで「イエス」という答えが導きだされるだろう。(『ハリウッド・リライティング・バイブル』より)

これはテーマを構成に組み込むという風にとらえられます。

リンダ・シガーは「ビートシート」という考え方は使わないので、物語の本質として「テーマ」が「構成」と合致しているべきだという立場です。

実はきちんと本質を理解すれば、ブレイク・スナイダーの「プレミス」も同じです。

「君の映画が何に“ついて”語るのかを明らかにする」というのは「テーマ」と「構成」が合致していることが前提で、その上でテーマを語らせろという意味です。

上の「桃太郎」の例では、

「心の中の鬼」(=テーマ)と、

「ベーシックな桃太郎のストーリー」(=構成)が合致していないのです。

では、合致させてみましょう。

まず、構成は変えずに、テーマに合った「プレミス」を入れてみます。

「悪い鬼を退治する」という桃太郎からテーマを読み取るとしたら「勧善懲悪」ぐらいしかありません。

そもそも、民話というのは繰り返し伝えられるうちに構造だけが残る傾向にあります。テーマは後付けできるとも言えます(だから物語論を語る題材に使いやすいのですが)。

「勧善懲悪」というテーマは、昔話として子どもに語るにつれて入ってきたテーマです(戦時中は士気昂揚の物語として「桃太郎」が教科書に入っていました)。

この「勧善懲悪」というテーマに沿った「プレミス」を入れてみましょう。シーンはさっきと同じで、おじいさんが出発する桃太郎に語るとします。

「正義は勝つ」

とか

「悪は滅ぼさなければならない」といった程度にしかなりそうにありません。あってもなくてもいいようなセリフです。つまらないプレミスですが、ストーリー自体が、そうなっているのだから仕方ありません。

(※細かいことですが、ブレイク・スナイダーの定義で厳密に「プレミス」を機能させるには「何を言われているのかわかっていない」桃太郎にしなくてはなりません。そのためには桃太郎は「悪を滅ぼす」とは正反対な価値観をもっているキャラクターになります)

では、今度は「テーマ」に合わせた構成にしていきましょう。

「本当の鬼は自分の心の中にいる」というテーマを出すにはストーリーをどう変えるべきでしょう?

一例ですが「鬼を退治した桃太郎の心の中に変化が起こります」(鬼が死に際に呪いをかけたのような展開でも良いかもしれません)

「村に帰った桃太郎を村人たちは歓迎しますが、日が経つにつれ疎ましくなります。

やがてイライラし始めた桃太郎にはツノが生えて、鬼のようになってしまいます。

こんな展開になれば、おじいさんは「だから言ったじゃろ」となるわけです。これでこそ「プレミス」は機能します。

(※ちなみに、桃太郎が鬼になっていくという展開が「どこかで見た事ある」と感じられた人がいたら、それはモノミスに沿っているからです。モーセでもダビデでも、ヒーローとして改革を起こした者は、やがて王となり、次の変化を押しとどめる側になるというのは、モノミスのパターンです。物語がハッピーエンドで終わっているのは、そこで止めているからです。おとぎ話の御姫様や王子様も、結婚した後に「いつまでも幸せに暮らしました」とは限らないのです。)

ここまでの話をまとめます。

「テーマ」と「構成」は合致してるべきで、「テーマ」が変われば「構成」も変わるし、「構成」が変われば「テーマ」も変わります。

たとえ、作者がインタビューなんかで「この作品のテーマは……」なんて語っていても、構成がそのように作られていなければ、「テーマ」を伝えているとは言えません。

反対に「構成」がしっかり出来ていれば「プレミス」など入れなくとも「テーマ」は伝わります。

これが、僕が「プレミス」をビートシートには入れない理由です。

けれど、以上をきちんと把握した上では「プレミス」を入れることは損ではない、というのは中級レベルでの考えです。

描写でテーマを伝える

もう一度、先程のリンダ・シガーの言葉をみてみます。

セントラル・クエスチョンは、設定されると共に、ストーリーで起こるすべての出来事と結びつけられる。(『ハリウッド・リライティング・バイブル』より)

「ストーリーで起こるすべての出来事と結び付けられる」という一文はとても大切です。

これは「構成」だけでなく「描写」においても「テーマ」を出すと言い替えられます。

さっきの、プレミス「本当の鬼は心の中にいる」バージョンの桃太郎で考えてみましょう。

「鬼を殺した後、桃太郎が自身が鬼になっていく」という展開をいれて、構成とテーマを合致させました。

つぎは「描写」レベルでも「テーマ」と合致させていくのです。

たとえばこのテーマにあまり関係のなさそうな、動物たちにきびだんごをあげて、家来にしていくシーンを考えてみます。

こういったシーンが、ベーシックな桃太郎の、むかし話的なのんびりしたテンションだったのに、「桃太郎自身が鬼になっていく」展開は唐突すぎます。

観客には「え? なんでいきなり?」という疑問が浮かぶし、下手をすると作者のご都合主義にも見えかねません(子どもにはトラウマかもしれません)。

だから、動物を家来にするシーンでも、その片鱗を見せておくべきです。

つまり「桃太郎の心に潜む鬼」を描写として暗示しておくべきなのです。

これがリンダ・シガーの言う「ストーリーで起こるすべての出来事と結び付けられる」です。

描写の仕方は作者次第なので、一例に過ぎませんが、きびだんごをあげるときにでも、内心で「こいつ、利用してやろう」という利己的なところがあるとか、動物たちに自分を持ち上げさせるプライドの高いやつとして見せておくとかです。

桃太郎が鬼になっていく心理をていねいに描いて「ああ、この男なら、鬼になってもおかしくない」と思えるように描写しておくのです。

「家来にする」という構成上で起きているイベントは同じでも、描き方によって印象は変わるのです。これが「描写」による違いです(三幕構成だけ勉強しても「描写」が未熟だと面白くなりません)。

これは、桃太郎というキャラクターを内面までしっかり作り込むこととも関連します。(※厳密には、キャラクター以外も、リンダ・シガーいうところの「すべての出来事と結びつけられる」べきですが)。

ストーリーサークルの確認

ここまでで説明した「構成」「テーマ」「描写」という要素はストーリーサークルの三要素です。

「構成」「テーマ」「描写」が合致するということは、これらが、うまく噛み合うということです。

アプローチはどこからでも可能です。

その中でも「プレミス」は創作する側としては安易に使うべきではないけれど、分析する上では「テーマ」と「構成」が合致しているかをチェックできるビートだと、思うにいたりました。

音声補足

「ほっこりトークS」でこの記事に関する内容をとりあげました。
【物語ラジオ】テーマと構成は関連する/死語の話/スクショを見ると……(#6)(2021/02/12公開)

緋片イルカ 2021/01/26

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