分析とディスり

分析と悪口やディスりというのは似て非なるものであることを確認しておきたいと思います。
誰かに向けてというより僕自身に向けて、分析しているつもりが、いつの間にか、ディスりにならないように注意したいと思うし、僕は分析をする能力を、最終的には自分の作品を改善するために使いたいと思っています。

【観客がお金を払って感想を言うのは自由】
これは基本だと思います。
井筒監督の『虎の門 井筒和幸のこちトラ自腹じゃ!101本斬り』じゃないけど、数千円のお金を払って、時間を使い、その体験に対して「良かった」「悪かった」と感想を言うのは自由だと思います。
レストランで考えてもわかりやすいと思います。「お店が汚かった」とSNSに書き込まれても、そう思った人がいるなら、それは仕方がないことだと思います。
店側が怒って言い返すのも自由だとは思いますが、営業的には逆効果です。

お金や時間をつかってもらうのですから、物語を提供するときも観客がどう思うかを考えて接客するように、メッセージを届けるべきなのです。

観客の側は、何を言っても自由だとしても、一生懸命に料理してくれたシェフに対する感謝の気持ちは持ってもいいと思います。
作品に対するリスペクトのようなもの。
気に食わなかったとはいえ、大声でクレームを言っている人間は、店内にいる他のお客さんにも迷惑をかけています。
店に言う権利はあっても、他の楽しんでいる観客の気分を害するやり方は、正しいとは言えない気がします。

また、辛い料理を出すという看板を掲げていて「辛すぎる」と文句を言われるような場合は、観客が入るレストランすなわち読むべき物語、見るべき映画を間違えたせいもあるので、気にする必要はありません。

ときどきアートやテーマ性の強い物語に対して、エンタメ的な楽しさを求めて、文句を言う人はいますし、逆にエンタメ作品に浅いとか薄っぺらいと顔をしかめる人もいます。
味覚が人それぞれのように、感性は人それぞれなので、お門違いといえます。

【作り手へのブーメラン】
ある作品に対して文句を言ったとき、自分も物語を書く人間である場合、その言葉はブーメランとなって自分へ返ってきます。
それを恐れて、作品を悪く言わない人もいますが、個人的には言った方が勉強にはなると思います(もちろんTPOを考えて、この人の前で言うと面倒なことになるからというのは別です笑)。

他人の作品に対して、つまらないと思ったときはつまらないと認めて、じゃあ、どこがつまらないのか?
また、同じぐらいに、いいと思ったところを見つけて、どこがいいのか?

このあたりから分析のはじまりです。

好きな作品の悪いところ、嫌いな作品のいいところを平等に探すべきです。
それは分析であり、物語作りの勉強の一貫でもあります。

客観的にあらいざらい分析して、結果的には「わたしは好き」「わたしは嫌い」という主観的な感情に落とし込むのは自由です。

【ビートシートという分析ツール】
三幕構成のビートシート分析は、かれこれ10年以上300作品ぐらいやっていると思いますが、ビートで分析して面白いのはとにかく客観的にみえてくるところです。
好きな作品でも分析してみると欠点が見えてきたり、嫌いな作品でも、不自然や足りないところから、こうすればもっといい作品になったなとか、題材自体はとてもいいものだったのだなと見えてきたりします。(ビートシートについてはこちらからお読み下さい。)

この視点は自分の作品を推敲するときに、とても役に立ちます。
「もう、ぐちゃぐちゃだ~」と諦めていた作品のいいところが見えてきたりします。ビートのテクニックが身につくと解決方法もすぐに見つかります。

分析は受験でいう模試の結果に似ている気がします。
ただ点数と合格率だけみて「よかった」「わるかった」と言っているだけでは、「面白かった」「つまらなかった」と観客としての感想を言っているのと同じです。
模試の結果はデータをよく見れば、自分がどの分野に強い弱いとか、他の受験生の正答率からとるべき問題と、捨てていい難問を見分けたりもできます。
その結果を活かして次のテスト(次の作品)につなげたときに役に立ちます。
役に立てないのであれば、分析とディスりはあまり変わらないように思います。

【作品は作者のもの】
他人の作品に対して、こうすればよかった、ああすればよかったと言う人はたくさんいます。
ネットの意見でも、その方が面白そうというような意見があります。
僕も分析の延長で、感じてしまうことはよくあります。

だけど、作品は作者のものでもあると思います。

「あんな辛いものを出さずにもう少し抑えてくれれば食べやすいのに」と、9割ぐらいの人が言ったとしても、残りの常連客は「この辛さが好き」なのです。
作者が「この味」で出したいなら、それでいいのです。

他人を見て「自分の店(作品)はもう少し、食べやすくしよう」としてもいいし「もっと辛いものを出してやる!」と思ってもいいのです。

分析するときには「良いところ」も「悪いところ」も徹底的に考える。
あとは、うだうだ言わず、別の作品を分析したり、自分の作品に活かせばいいのだと思います。

いつまでも悪口を言っているのはディスりになってしまうのでしょう。

緋片イルカ 2019/09/14

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『分析とディスり』へのコメント

  1. 名前:ヤスタニアーリオオーリオ 投稿日:2019/12/29(日) 23:45:43 ID:d98eab597 返信

    この文章、以前に読んで心に響き、また読みに来ました。「作品は作者のものでもある」この一文に励まされる書き手も多くいると思います。素晴らしい文章を読ませて頂きありがとうございます。

    • 名前:緋片 イルカ 投稿日:2019/12/30(月) 13:49:10 ID:47ee01cc9 返信

      コメントありがとうございます。書き手としても読み手としても、自戒の意味を込めて書きました。