ドラマ『ブラック・ミラー』シーズン6(三幕構成分析#149)

分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

シリーズ全体の感想

シーズン6がやると知って楽しみにしていたたが見てみると、かなり平凡なドラマになってしまった印象。前シリーズはすべて分析していたので欠点を探る意味でも分析したが、やはりヴォルテクスでアクト3に突入しているものがない。

「ブラック・ミラー」新エピソード脚本をChat GPTに書かせてみると……
https://eiga.com/news/20230609/13/

※上級編の内容を含みますが解説はしません。

作品情報はIMDbより
公開はすべて:2023年6月15日。

【ビートシート】


MP機能が明確ではない場合があるため、ビートシートではフォールを黄色マーク。

“ジョーンはひどい人” ”Joan Is Awful”

監督:Ally Pankiw
脚本:Charlie Brooker

●感想・解説
「好き」3点 「作品」3点 「脚本」3点

四年振りの新シリーズで力を入れているはずの一話目がこれかという印象。全体の予算も落ちたのか? 前シリーズでもアタリ回、ハズレ回があったが、シリーズの中盤ぐらいに置かれるハズレ回が一話目にきているような印象。量子コンピュータあたりに新しさを入れたつもりなのだろうが、言葉だけの問題。シリーズのコンセプトも引き継がれていない、世にも奇妙な物語レベル。あいかわらずカタリストとPP1の機能を理解していない。感情ドラマが苦手なのも変わらず。(2023.6.16)

“ヘンリー湖” ”Loch Henry”

監督:Sam Miller
脚本:Charlie Brooker

●感想・解説
「好き」3点 「作品」3点 「脚本」2点

ジョーダン・ピールみたいな話を作ろう感が出過ぎててチープ。『ゲット・アウト』『アス』『NOPE/ノープ』、それぞれの雰囲気が出ていて、黒人女性まで出して作り手として恥ずかしくないのだろうか。上記三作を一本も見たことない観客なら面白がれるかもしれないが。ブラックミラーらしさもない。面白い掛け合いをさえてるつもりらしい会話が白ける(そういえば、これもライターの特徴だった)。交通事故、転倒事故、自殺などの処理も初心者並み。オチが予測範囲内なのはともかく、それ以上にヒヤヒヤするサスペンス感を煽れていないことが問題。ラストのショットも「感情ドラマ」というものを勘違いしているような見せ方。どっかで見たことあるような。そもそものキャラクターアークが機能していないのに、良さげのシーンをとってつけてもダメだってば笑 (2023.6.16)

“ビヨンド・ザ・シー” “Beyond the Sea”

監督:John Crowley
脚本:Charlie Brooker

●感想・解説
「好き」3点 「作品」3点 「脚本」2点

設定明かしが7分。時間としては許容範囲だが、古典SFの設定で衝撃は少ないので遅く感じる。とはいえ、今シリーズの前2作に比べてブラックミラーらしさがあって、ちょっとだけ安心する。強盗侵入、機会の体を自然に反しているというヒッピーカルトも、まあ面白い。現代にはまだないけど、そのうち実現されそうな技術に対して人間はどう向き合うのかという雰囲気が垣間見える。だが、展開は古典的なボディチェンジ、不倫ものに進んでいき、SFらしさは設定以外、なにも活きていない。やはり予算が落ちたのだろうが、宇宙船のセットがマットレスを貼りつけたようなチープさ。レプリカ技術があるのに機器は1960年ぐらいのレトロさ、時代設定がひっかかる。処理できていない。小説であればごまかしがきくところが実写にした段階で作り込まないと、途端にチープさが出る(そもそも、レプリカ技術があるなら、本物が地球にいて、レプリカを宇宙にいかせればいいというツッコミもある)。演出が悪いともいえる。賞レースを狙ったのか、80分もあるが、映画ほどのドラマもクオリティもなく、ただ、引き伸ばしただけの間延びした演出。キャラクターアークがないのは今作に限ったことではなく、もはや作者の腕だと思うが、テンポが遅くなればなるほど、キャラの薄さが際立って見える。前2作でもあったが、モンタージュシークエンスに頼るのも脚本としてはレベルが低い。キャラクターアークを描けない人の特徴として視点が定まっていないということがあるが、それも、ブラックミラーシリーズのライターの特徴。それでも奇抜な設定やシチュエーションで、ベタなドラマでも魅力的な作品もあったが、今シリーズでは、ドラマを意識したようで(演出にもでてる)、奇抜設定を放棄しているような印象するある。前に2作には「ストリームベリー」を絡めていて、その辺りをテーマに据えたのかとも感じなくはなかったが、それもなかった。あちこち、前シリーズとかのネタなどを散りばめていたりするが、そんな遊びに力を入れていないで、本編をしっかり魅力的な作品につくるべき。(2023.6.17)

“メイジー・デイ” “Mazey Day”

監督:Uta Briesewitz
脚本:Charlie Brooker

●感想・解説
「好き」3点 「作品」3点 「脚本」2点

テンポは悪くないので見れる。40分しかないせいもあるだろう。やはり、この長さだから堪えられる脚本。パパラッチのキャラクターはクリシェというほど多くはないが既視感がある。ダイナーなどの展開なども悪くはないが新しさのない既視感。獣化に関してはもはやブラックミラーらしさの完全放棄、それなら『驚異の部屋』で見ますというかんじ。依頼=捜査開始の運びは、カタリストとPP1の違いを理解していない証拠。それらのビートを分ける意義、必要かどうかなどはいろいろあるが、長くなるのでここでは書かない。捜査開始前の、主人公のセットアップが、後半に活きているか?という視点をもてば、ビートの意義がわかるはず。とってつけたように、最後に写真を撮っているが、それがどこまで観客の気持ちに「うわ~」とか「おお……」という気持ちにさせられるかということ。この程度で驚けるのは、そうとう映像リテラシーの低い観客だろう。ラストが効果的になるように、きちんと組み立てていくのが構成であり、キャラクーアークを描くということ。そうなれば、メイジーデーの獣化の意味も考えなくてはならなかったはず。交通事故のミスリードでサスペンス感を煽っているがテーマには無関係。何にせよ40分だからぎりぎり許せたクオリティ。「ここは犬立ち入り禁止」「ニャー」という掛け合いはちょっと良かった。家主のキャラ、ダイナーの店員など一部の演技は良かった(保安官はクリシェ)。

“デーモン79” “Demon 79”

監督:Toby Haynes
脚本:Charlie Brooker、Bisha K. Ali

●感想・解説
「好き」3点 「作品」4点 「脚本」3点

71分作品。長さの割りに音楽など演出で何とか見れるレベル。悪魔はともかく、設定に少し面白味はあるが、全体的に段取りくさい。ラストのツイストも、構成自体が古典的あるいやB級映画レベルの返し。意外性がない。今作でのキャラクターアークの問題は、悪魔との友情(愛情)がまったく描けていないところ。政治や社会へのアイロニーは、過去のシリーズのがもっと尖っていたが、この程度ではとってつけた味付け程度。シーズン6の中では一番、見られた気がするが、過去シリーズには及ばない。脚本が共同クレジットになっているのはシリーズ初だったと思うが、そのことが特別な影響が出ているとは感じなかった。

緋片イルカ 2023.6.18

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