映画『ゲット・アウト』(三幕構成分析#78)

分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

※あらすじはリンク先でご覧下さい。
https://amzn.to/3CAnkN8

スリーポインツ

「カタリスト」:「家に到着」(14分14%))

PP1:「催眠をかけられる」(37分37%)

MP:「フラッシュ後、出て行け(get out)と言われる」(56分55%)

PP2:「地下に運ばれる」(70分68%)

感想・構成解説

「monster in the house」のプロットで、monster=白人としたところに新しさ・面しさがありました。リアリティの加減についてはアメリカ在住でないと判断つきませんが、モンスターとして描かれている白人の態度は「あるある話」なのではないかと感じます。sin=人種差別を感じさせて、社会的テーマの含むドラマ(『招かれざる客』のような)とホラーのミックスになっているので、プロットのバランスが崩れていても成立しています。ドラマ部分の描写が上手いからこそ成立していると言えそうです。シビアにホラー映画としての視点で見た場合はB級感が目立ちます。ドラマとしての描写が減ってくるミッドポイント付近からは、強力なフックは少なく予想通りの展開。その中で、一番のストーリーエンジンになるはずの「白人の恋人」がどっち側なのかが、あっさりとPP2で明かされてしまっているため、アクト3でのドラマが一切なくなり、普通のB級ホラーになってしまっているのが残念です。友人が警察に行くくだりなどは、PP2前にやっておけば良いところですが、タイミングが悪いのでアクト3の緊迫感を殺していますし、アクション感も弱く、村全体が敵といったクライマックス感もなく家族だけを殺して解決になっています。恋人の「愛している」のフェイクも、前述の通り、エンジンを止めてしまっているため効いてきません。ちなみにトップシーンもストーリー上、完全に浮いてしまっていました。流れていた音楽も後半では特に流れなかったし(聞き漏らしてるかもしれませんが)、そもそも唐突に襲われていますが、主人公のように美人局的に連れくる作戦(何人も呼ばれていた写真があった)との齟齬もあります。ホラーであるというジャンルセットアップだけのトップシーンになっていてもったいないです。MP付近の家政婦の黒人女性が催眠に抗って涙を流すシーンは、シーンとしてはとても良いですが、催眠のルールを違反していて(フラッシュを浴びていない)、サブプロットとしてフラッシュでない解き方をセットアップしてアクト3で活かせたはずです。ところがアクト3ではスマホのフラッシュで解決してしまっているのは、安直な処理といえます。せめて、スマホのフラッシュをしようとして失敗して→別のものでフラッシュを浴びせるぐらいのツイストは入れられたし、それすらも失敗した上で、黒人女性が涙を流したように、心の奥底に眠ってる元の意識を呼び戻すといった展開を使えば、もっとドラマ的なテーマを掘り下げることができたと思います。この辺りについては、あえてテーマから逃げて、アクションで処理した可能性もありそうです。アメリカでの肌感覚は僕には理解できませんが、ホラーとしてのアクト3としても物足りなさがあります。ちなみにMPの位置は「monster in the house」のセオリーに従いつつ、演出上の盛りあがり、タイトルでもある「get out」が出てくるところでとりましたが、他にもいくつかとり方があると思いますが。分析として掴むべきは、その直後から「帰ろう」という折返し(新しいwantとも言える)のアークが始まっていることを掴むことです。その行くところまで行って折り返してくる感覚が掴めていれば、前シーンの中のどのタイミング(たとえば「てんかんと説明される」とか)で、とってもさほど問題ありません。いくつかの粗は目立ちますが、B級ホラーというくくりには収まらない良作だと感じました。

緋片イルカ 2022.10.18

SNSシェア

フォローする