言葉というちっぽけな武器で

いつか、かならず、死ぬという運命から逃れることができない我々にとって、生きていることは苦しみでしかない。

富んで、恋をして、家族に恵まれ、趣味に興じて、名誉を得ても、やがて死ぬ。

どんなに笑って、おいしいものを食べて、心地よい湯につかり、あたたかい毛布にくるまって眠り、新しい希望に満ちた朝を迎えても、やがて死ぬ。

日常の細々したことに追われて、死の存在を忘れる。
他人の死を目にしても、じぶんにも死が訪れるとは想像できない。したくない。
この幸福がいつまでもつづくはずだと思い込む。
それでも、やがて死ぬ。絶対に。

死という虚無は、人生のすべてを呑みこみ、無意味と化す。

神に祈り、生まれ変わりを空想し、どうにか意味を見出そうとしても、死んだ後はわからない。誰の言うことも信じられない。

やがて死ぬという絶望だけを突き付けられて、おいそれと自殺する勇気も持てず、鬱屈と生きてゆくしかないのだ。

この不条理に対抗しうる武器は言葉しかない。

いつか死ぬ。それでも生きてゆく。
文句があるやついるか?

死にたいなんて言うな。
恐怖に負けるな。
己の思考を守り抜け。

吠えろ、生きたいと!
ただ、それだけで存在は証明される。
意味などいらない。
語りつづけろ。
物語を紡げ。
それが人生だ。

言葉だけが不条理に対抗できる唯一の武器だ。
このちっぽけな武器で、勝ち目のない戦いに挑むしかないのだ。

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