「夕焼け、もみじ、君の顔」

タカノリとは付き合って半年になる。

2年生の1学期の終わり、
―忘れもしない4月29日―に、
ケータイに知らない番号からの着信があって、出たらタカノリだった。

「はじめまして」

タカノリは同じクラスなのに、そんな風に話し始めた。

「ずっと好きでした。付き合ってください。」

生まれて初めて告白された。

うれしかった。

断る理由はなかった。

タカノリとは付き合って半年になる。

半年って長いのかな? 短いのかな?

楽しいことがいっぱいあった。
初めてのこともいっぱいあった。
悲しいことも、少しあった。
どれも過去形。これからは何があるのかな?

サッカー部のタカノリは毎日練習がある。
あたしは毎日待っている。

友達に用があるときは図書室に行って勉強したりして、ラブラブだね、なんてクラスの子は言うけど、その言葉に違和感を感じる。

ある日、あたしは、タカノリを待たずに帰った。
帰ることをメールもしなかった。

ドキドキした。

タカノリが何て言ってくるだろう?

怒るかもしれない。

それならそれでいい。

心のどこかで、タカノリを気にしてて、あたしはすぐに帰らず、学校の近くをふらふらしていた。

タカノリが慌てて電話してくるのを待ってたのかもしれない。

慌てて電話してきて欲しい…。

あたしの心をきちんと掴んでいて欲しい…。

ケータイの時計を見た。
もう部活が終わっている時間だ。

メールが来た。
『どこにいるの?』

『公園。』

『どこの?』

『学校の近くの。』

『なんで?』

『なんでも。』

『なにそれ』

あたしは返信をやめた。

あたしはケータイをバッグにしまって、駅に向かって歩いた。

タカノリを待っていたんだから、何も悪いことはしていない。

もう帰っていいはずだ。

銀杏臭い、並木道を歩いた。紅いもみじの下まで行くと、向こうからタカノリが走ってきた。

「いったい、どうしたの?」

息を切らしてタカノリが言った。

「どうしたって?」

「なんで、公園にいるの?」

「公園にいちゃ行けないの?」

「なんで、連絡してくれないの?」

「言ったじゃん。」

タカノリが不機嫌になるのがわかった。

「ねえ、タカノリ、もう分かってるでしょ?」

「なにが?」

「私たち、もう終わりだって。」

夕焼けが、タカノリの顔を半分だけ照らしていた。

驚いたのはタカノリが泣き出してしまったこと。

タカノリは肩幅が広くて、背も高い。
出かける時は、いつもあたしの手をひっぱってくれた。

男の子は強いものだと思ってた。
その男の子が目の前で泣いてるのに驚いた。

あたしだけが悩んでいると思ってたのに、
タカノリも同じように悩んでたのかもしれない。
そう思うと、あたしまで泣けてきた。

「オレにダメなとこがあるなら直すから言ってくれよ?」

「ないよ…。」

「じゃあ、何でだよ? 他に好きな人ができたのかよ?

あたしは首を横に振った。

「じゃあ、何でなんだよ?」

理由があるとすれば、あたし自信がダメなんだ。
けど、それはタカノリには言えなかった。おそらくタカノリを傷つけるだけだから。

タカノリは優しくてステキな男の子。
だけど、もう好きじゃない。

夕焼け、紅葉、君の顔、この16歳の秋、あたしは一生忘れないだろうと思った。

(「夕焼け、もみじ、君の顔」おわり)

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