「肥えよアオムシ」

制服はミドリのブレザー。
バッグもブラウスも、靴下までも学校指定。
色は、基本ミドリで。
スカート丈は膝下10センチ以下。
髪は肩についたら結ぶ。
茶髪?
ピアス?
…停学もんだ…。
ここらでは名の知れたお嬢様学園。
ケータイなんてもちろん、バッグにアクセサリーつけるだけで没収もんですわ。

守衛さんに

「ごきげんよう。」

と言って門から出れば、隣りの学校。
都立の可愛い女の子達。横には男の子。

都立の子達が、私達のことを「アオムシ」と
呼んでるのを聞いてきた子がいた。

「アオムシ」

言い得て妙じゃないか。
クラスみんなで怒りつつも、納得。

けど、女子高生に対する呼び方か?

このままでいいのか? 私の青春。

アオムシの話で盛り上がっていたら、すっかり忘れていた。

日直の仕事。

私は慌てて理科準備室に行って、タナカ先生に聞いた。

「次の理科で、何か準備することありますか?」

「おう、日直か。」

タナカ先生は、この学園の中にいる数少ないオスの一人。しかも若い。

「そうだな。次は実験やるから…顕微鏡をテーブルごとに並べておいてくれる?」

「はい、わかりました。」

背の低い私は、イスにのって棚の上にある顕微鏡の箱を一つずつ下ろしていった。

2つ一緒にいける?

と思ったのが運のつきで、顕微鏡を落としてしまった。タナカ先生が慌ててやってきた。

「大丈夫か? 怪我はないか?」

「いや、怪我はないですけど、顕微鏡が…。」

タナカ先生は首の外れた顕微鏡を直して言った。

「大丈夫、顕微鏡なんて直るから。」

「すいません。」

「大丈夫、大丈夫、怪我がなくてよかった。」

そう言うと、私の頭をぽんぽんと叩いた。

給食の時間(そう、我が校は給食なのだ)。

私は追求される立場にたっていた。

「タナカ先生、あんたのこと好きなんじゃないの?」

「はあ? 何で?」

「見てた子がいるんだよ。理科準備室での秘め事。」

「秘め事って!」

「で、どうだったの?」

「私が顕微鏡落としただけだって。」

「それだけ?」

「それだけ。」

「嘘はいけないよ?」

「嘘じゃないってば。」

「頭なでなでは?」

「ええ?」

「ネタは上がってんだよ?」

その時、キツネ先生(あだ名)が怒り出した。

「そこ、食事中は静かに。」

私達は小声で続けた。

「とにかく、そんなんじゃないって。頭だってなでなでじゃなくて、ポンポン。」

「ほんと?」

「ほんとだってば。」

「そういえば…。」

別の子が話に入ってきた。

「タナカ先生って去年の三年生と付き合ってるって噂あったよね?」

「そうなんだ? 残念だったね?」

「残念じゃないってば。」

私はそう言って、席を立った。

「どこ行くの?」

「おかわり。」

「え~、まだ食うの?」

「食いますよ! もりもり食いますよ! アオムシですから!」

私達のグループは笑って、キツネ先生にまた怒られた。

(「肥えよアオムシ」おわり)

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