「よれたTシャツ」

放課後、日直の仕事をした後だったので、教室には私とアキコしかいなかった。

アキコの話を聞いて驚いた。

アキコの両親は、高校生でお互い初めての恋人で、そのまま10年付き合って結婚したというのだ。

「本当?」

「そうなんだよ」

「なんか、いいね~」
それは私の本音だった。

「そんなことないよ。私はあんな風にはなりたくない」

「どうして?」

「だって、世間知らずなんだも、うちの親。」

「世間知らず?」

「そう。恋愛経験が浅いっていうか、失恋するのはダメな人間みたいな価値観持ってるし。」

「でも、何か原因があって失恋するんじゃないの?」

「そんなことないよ。じゃあ、あんたは? 何か原因があった訳?」

「私は…私がわがままだからかな…。」

「本当?」

「本当。」
それは私の本音だった。
ただし、半分だけ。

「マコト、すごいへこんでたよ?」
アキコが言った。

「何それ? 何か知ってるの?」

「昨日の夜、電話かかってきたの。マコトから。」

「何で、アキコに?」

「相談したいって。」

「そんなこと言って、アキコのこと好きなんじゃないの?」

「違うよ…。言うないでって言われてたけど…。」

「何?」

「マコト、まだあんたのこと好きだよ?」

「はあ?」

「やり直せるなら、やり直したいって言ってた。」

「3ヶ月も経つじゃん。」

「もう誰も好きになれないって言ってたよ…。もうすぐ卒業だよ…いいの?」

マコトの真剣すぎるところが苦手なのだ。
付き合う前は、夢を追うマコトの姿が格好いいと思った。
けど、マコトと一緒にいると、自分の人生がマコトに引きずられてしまうようだった。
それがもう半分の理由。

「やり直すなんてありえない。」

私とアキコは卒業後して大学に行き、職場まで一緒になった。今でも一番の親友だ。

「ねえ、合コン、一人足りなくて、あんた今フリーでしょ?」

「いいよ、私は。最近、別れたばっかだし。」

「別れたばっかなら、なおさら行こうよ? 引きずってんの?」

「引きずる訳ないよ、あんな奴。」

アキコはため息をついた。

「違う…。まだ引きずってんでしょ? マコトのこと。」

「はあ?」
私は普通に言ったつもりだったのに、上ずって聞こえた。

「マコトのこと引きずってるから、逃げるみたいに、軽い男ばっかり付き合っては別れて…。」

「行くよ! 合コン。」

何で今さらマコトなんて…。
何でアキコがそんなことを言うのか?
何でこんなにイライラするのか?

悪い男ではない、と私は思った。だから送ると言われて悪い気はしなかった。

「ちょっと、先行ってて下さい。」

「うん。店の外で待ってるね。」

私はトイレで化粧を直した。
出ると男性トイレから物音がした。掃除していた店員が用具を倒したのだった。

「すいません。」

出てきた店員が謝ってから、顔を上げた。

「…マコト…?」

「…ああ…久しぶり…。」

「何でこんなところにいるの?」

「何でってバイトだよ。学校行くのに金がいるからさ。」

「学校って?」

「知ってるだろ?」

「まだ、あんなこと考えてるの…?」

「はは、馬鹿だからさ、俺。諦めつかないんだよ。」

マコトの店の制服のエプロンの下に着たグリーンのTシャツに見覚えがあった。よれたTシャツ。

私は理由は分からなかったが首筋にゾクッと鳥肌が立つのを感じた。

私は理由は分からなかったが目が熱くなってくるのを感じた。

「せいぜい頑張ってね。」

それだけ言い捨てて、私は店を出た。

「アキコ!この店、選んだのあんた?」

「違うよ、幹事、男性陣だよ。何怒ってるの?」

私は歩き出した。送ると言っていた男の呼ぶ声がした。私はその声を無視して、私の道を歩いた。

(「よれたTシャツ」おわり)

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