「オトコのコ」

変な話かもしれないが、僕は「オトコのコ」が好きだ。「男」ではなく「オトコのコ」っていう響きが好きなのだ。アニメの主人公みたいなオトコのコ。

「男」は強すぎる。

「うちの剣道部で一番強いのは誰か?」
という質問をすれば、みんなコオロギ先輩と答えるだろう。部長のコオロギ先輩は「男」って感じだ。自分にも後輩にも厳しい。「男」は僕の好みではない。

2番目に強いシマウマ先輩は正反対だ。

シマウマ先輩のシマウマはあだ名で、本名を早く呼ぶとシマウマに聞こえるから、みんなシマウマ先輩と呼ぶ。雰囲気も穏和だ。少し細長い顔をしているけど童顔で、誰にでも優しくて女子からも男子からも好かれている。

シマウマ先輩はまさに「オトコのコ」って感じなのだ。

けれど、僕の胸をときめかせるのはシマウマ先輩ではなく、コオロギ先輩なのだ。

そもそも僕が「オトコのコ」に惹かれるようになったのはある少女アニメだった。

それは少女が魔法で変身して、悪者と戦うアニメだった。少女と同級生のショウタロウは少女が魔法を使えることが知らないので、一生懸命少女を守ろうとする。そのせいで悪者達に捕まってしまったりするのだけど、その真っ直ぐな純粋さに憧れた。

妄想を現実にまで求めてしまうのは、僕のクセだった。

僕は自分がショウタロウになろうとして、同時にショウタロウのような男の子を求めていた。

「男が好き」
というほどの恋愛と呼べるようなものではなかった。あくまで「オトコのコ」という響きが好きなのだ。

剣道を始めたのもそんな理由かもしれない、と僕は思う。

柔道はいかにも「男」。刀を持った侍は「男」だけど、竹刀を使う剣道はいかにも「オトコのコ」なのだ。

…妄想は僕のクセ…。

僕は背が低いので胴が打ちづらいと言われる。

「胴!」
とわざと言いながら面を打つ先輩もいる。

二人組の練習ではよく余る。

「一緒にやる?」
シマウマ先輩が声をかけてきた。

「はい、お願いします。」

僕とシマウマ先輩が対面に立つと、コオロギ先輩がやってきた。

「ダメだ。同じくらいの実力のやつとやれ。」

「それは僕が弱いということですか?」
僕は思わず口に出して言った。

「そうだ。シママとは明かな差がある。」

僕は悔しかった。
自分の憧れを否定されたこと。
それに対して言い返せないこと。
好きな人に言われたということ。

女の子達は僕に優しい言葉をかけてくれた。その気持ちはよくわかったが、それは僕を惨めにするだけだった。

僕は着替え終えて、タオルを忘れていて道場に戻った。

コオロギ先輩は明かりもつけず、一人で鏡に向かって竹刀を構えていた。じっと動かず向き合っていた。それは「男の孤」という感じだった。

僕は邪魔しないように入っていった。コオロギ先輩は鏡ごしに僕を見て言った。

「さっきは悪かったな。」

「いえ…僕が弱いのは本当なんで…。」

「悔しかったら練習すればいい。」

「僕には先輩みたいには強くなれないです。部でも一番強いのに自主練までして、やっぱり僕は…女ですから…。」

「弱いと思うから練習するんだ。俺は自分が強いなんて慢心しないために、こうやって自分と向き合ってるんだ。お前も強くなりたければ練習すればいい」

「僕は…」
僕は初めて自覚した。
自分が強くなりたい訳じゃないこと。
僕が求めていたのは…。

「先輩、僕、変ですか?女なのに僕とか言って。」

「変じゃない。人と違うことを貫くのは強くないと出来ないことだろ?」

僕は…こんな僕を受け入れてくれる人を求めていたのだ。

(了)

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