※漢字の答えは広告の下にあります。小説内にお題の漢字が出てくるので、よかったら推測しながらお読み下さい。
コーヒーマシンからは挽き立てのキリマンジャロが芳しい(かぐわしい)香りを放っている。
息子は牛乳でいいが、娘にはミックスジュースだ。牛乳とバナナをベースに、缶詰のみかんを入れてやると酸味がでて飲み口がいい。美肌効果があるという扁桃で歯ごたえをくわえ、娘のきらいなニンジンもこっそり混ぜておく。しっかり砕けて溶け合うまでミキサーをまわす。
妻と娘は7時を過ぎると起きてくる。エプロン姿の俺は、タイミングを合わせて目玉焼きをフライパンからあげた。もちろん黄身は半熟。
完璧な朝食をならべたリビングキッチンで、俺は家族を待つ。
「パパ、おはよう」
パジャマ姿の娘が髪を跳ねさせたままテーブルについた。
「夜更かししてたのか?」
「うん。2時まで勉強してた」
娘は高校三年、受験生だ。ごくごくとジュースを飲む娘の姿はまだまだ子どもだが、腕を上げて胸が張るとふくらみができている。彼氏はできたのだろうか。
「ねえ、パパ、これ読める?」
ピンク色のメモにを差しだした。「背黄青鸚哥」と書かれている。
「セキセイインコ」
「あ~、もう、なんで読めるの。これならイケると思ったのに」
いつからか俺の読めない漢字を探している。俺は覚えてないが、読めない漢字を見つけたら好きなものを買ってやると言ったらしい。それで難しそうなものを見つけてはもってくる。今では父娘のコミュニケーションのひとつになっている。
「どうやったらそんなに覚えられるの?」
「兀兀やるだけだよ」
「また読まれちゃったの?」
妻が入ってきた。うすいブルーのブラウスにニットを羽織っている。部屋着だが、しっかりと薄化粧を済ませている。いい女だ。
ソーサーにスプーンをのせてキリマンジャロをおいてやと、
「ありがとう。愛してるわ」
「俺も愛してるよ」
心にもない言葉に俺はたっぷりの芳しさを込めて言う。
「さて、そろそろ準備しないと」
エプロンを外して、壁にかける。
「出かけるの?」
「ああ、部下だけに日曜出勤させるわけにいかないからな」
トメやハネにきをつけて一画ずつ書いていくように、家族サービスをしてから愛人の元へむかう。家庭を壊さないためには兀兀と努力しているのだ。
●今日の漢字:「兀兀」(こつこつ):
何事もこつこつ続けることが大事ですね。がんばって更新つづけたいと思います。
(緋片イルカ2018/10/28)
兀兀の解答がありません。
心太の解説になっています。