※漢字の答えは広告の下にあります。小説内にお題の漢字が出てくるので、よかったら推測しながらお読み下さい。
妻の浮気シリーズは「綺羅星」読めますか?(ゲス漢16)からの連作です。
47歳にして、ラブホテルというものに初めて入った。
わたしの経験相手は夫ただ一人で、結婚する前は旅行で行った熱海の旅館とハワイのホテルと、プロポーズされた時に用意してくれた東京タワーの見えるホテルだけ。クリスマスイブだった。
ある女性に言われたことがある。
「あんたって、ほんとつまらない女だよね」
彼女は男と別れるたびに、わたしを呼び出して「男なんか一生いらない」と泣いてたくせに、二週間もすると新しい彼氏ができて「一人の男しか知らないって寂しくない?」など言うのだった。夫と結婚してからも何度か会ってはいたが、連絡がこなくなって、こちらから声をかけるでもなく、もう20年以上も会っていない。彼女が今のわたしを見たら、どんな顔をするだろうか?
夫と寝室は一緒だけどベッドは別々。だから大きなダブルベッドが置かれてるを見たら、さあ、思う存分してくださいというかんじで、邪なキモチを煽られる。
「シャワー、先に浴びる?」
わたしは震える小動物みたいに首を振ってしまった。
「じゃあ俺が先に」
松山くんは、こういう場所に慣れているのか、わたしの前で上半身を脱いでしまった。
「あっちで脱いでよ」
「え、ああ、ごめん」
わたしはベッドに座ってじっと松山くんを待っていた。テレビを点けるとアダルトビデオが流れることぐらい、わたしでも知っている。だから点けなかった。なんだか病院で診察をまってる気分だ。そしたら松山くんが人間ドックの検査着みたいなので出てきた。
「な、なにそれ」
「え? お前、もしかしてラブホテル初めて?」
「あたりまえでしょ。こんなとこ。若い人じゃあるまいし」
松山くんが笑った。笑い方は高校時代と変わってなかった。
シャワーを浴びて、検査着は嫌だったので服を着直した。「綺羅、星のごとく」と娘に言われたワンピース。今日のために準備した。
「なんだよ、また服着たのかよ」
「どう、これ? ちょっと若すぎたかな?」
「いいと思う」
手を引かれてダブルベッドに座らされた。
「下着も新品なんだよ。松山くんに見てほしくて」
「どれ」
松山くんの手がワンピースの裾にのびる。
「待って、電気消して」
「消したら見えないだろ」
「でも、恥ずかしいし……」
「自分で調整しな」
「え、どこで変えるの? ここ?」
わたしはベッドサイドにあるボタンを押してみた。スピーカーから洋楽が流れだした。
「ねえ、どうやるの? んっ……」
「ん、なんか……適当に……」
松山くんは教える気もなく、わたしの体を弄る(まさぐる)のに夢中になっている。もうどうでもいい。わたしは松山くんの股間に手を伸ばした。
「ん、小さい」
松山くんが身を退いた。前がはだけて、彼のが見えた。
「かわいい。土筆みたい」
急に咳払いをすると、松山くんは背をむけた。
「どうしたの? 怒ったの?」
(つづく)
今日の漢字:「土筆」(つくし)
春に土からぴょんと頭を出すあの「つくし」です。土の筆という当て字は見た目そのままですね。実は夏に繁茂するスギナは同じ植物です。検索すると「つくしは胞子茎」「スギナは栄養茎」という説明がでてきますが、何のこっちゃ?ってかんじでした。もう少しググってみたら、土の中では二つとも繋がっているということだそうです。根から伸びて、ある茎はつくしとして地上にでて胞子を飛ばす、ある茎は栄養をつくるため緑の葉を茂らせるということ。ちなみに地下まで茎が伸びているせいで、除草するのが大変なことから「地獄草」なんてあだ名もあるそうです。地獄から生えてきた草……ふーむ、おもしろいです。
(緋片イルカ2018/11/27)