三幕構成の作り方 Step5「旅の準備をしよう」(全8回)

書くために使おう!

このシリーズは三幕構成を「自分の作品に応用する」ことに着目して解説しています。段階的な説明になっているのでStep1からご覧ください。

本格的にビートなどを理解したい方や基礎知識のある方は「ログラインを考える」シリーズをご覧ください。音声解説もあります。

また、三幕構成の分析や創作の実践に興味がある方は「読書会」へのご参加をお待ちしております。こちらも音声解説があります。

今回のテーマ「旅の準備をしよう」

前回は「感動スポット」をミッドポイントにおくという学習をしました。

ミッドポイントを置くということは、物語の中心が定まったということです。ここからは「ミッドポイントへ行くまで」と「ミッドポイントから帰ってくるまで」を考えていけばいいのです。

今回は「ミッドポイントへ行くまで」の前半、アクト1について考えていきます。

具体的にみていきましょう。

今回の課題「アクト1を構成する」

アクト1とは第一幕のこと、「物語のはじまりから、旅の出発まで(=プロットポイント)」です。旅の出発(=プロットポイント)までということは、やるべきことは「旅の準備」です。これをさらに三つのパートにわけて考えていきます。

パート1「主人公の日常」

通常の物語は「主人公の日常」からはじまります。旅に出ようと思う前の状態です。


もちろん冒頭から旅に出ようとしていたり、すでに旅に出ている状態からはじまる物語もたくさんあります。この場合、入れ子構造にして、旅の中でさらに「非日常」となるアクト2を構成する必要があり、初心者への説明としては複雑になるので、ここでは避けます。

「主人公の日常」を見せることは、読者・観客に主人公を紹介することでもあります。

いつの時代の、舞台はどこで、主人公はどんな性格(アクティブかパッシブか)で、仕事、家族、趣味や特技といったことを説明するのです。これから始まる物語の準備ともいえます。

「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」

と、昔話の冒頭に使われる決まり文句とおなじです。

パート2「旅のきっかけ」

日常を暮らしている主人公のもとに「旅のきっかけ」が訪れます。

ここは物語ではなく日常生活で考えてみましょう。

ある日、友人から「こんどの休みにフランス旅行しない?」と誘われる。行くかどうかはともかく「旅のきっかけ」です。

あるいは自分で思い立つ場合もあります。テレビでフランスの番組をみて、とても感動して「今度の休みに行こう!」と決断する。

受動的か能動的かという違いがあるように見えますが「テレビでフランスの番組を見た」ということをきっかけと捉えれば、「きっかけ」はすべて受動的です。

ただしキャラクターのリアクションの大きさに違いがあるのです。

主人公がアクティブな性格であればテレビで見ただけで「行こう!」と行動できますが、パッシブな性格だと友人に誘われたとしても「うーん、どうしようかな……」と悩みます。

パート3「旅立ちまで」

「旅のきっかけ」を経て、旅立つ=プロットポイント1までが次のパートです。

アクティブな主人公であれば、旅立ちをジャマするものを振り払う必要があります。
仕事の休みをとる、パスポートをとる、細々した日用品を準備する……そういった旅行の準備がありますが、これらが主人公にとっては大変なことではなければ、その旅は物語としては失敗する可能性があります。主人公にとってハードルが低いということは、「旅」が非日常になりえていないという可能性があるのです。

物語における「旅」は、主人公の人生を一変するぐらいの旅でなければなりません。読者・観客は旅行バラエティがみたいわけではなく「物語」を見たいのです。

出発までがスムーズ過ぎる「旅」なら、感動の旅になるのか見当する余地があります。


順調に旅に出てから「トラブル」が起きて「非日常」になっていく展開はいくらでもあります。たとえば、よくあるホラー映画で、若者グループが小屋などを訪れ、襲われていくパターンがあります。彼らは小屋へ行くまでに、それほど苦労しません。しかし、この物語での非日常としての「旅」は、小屋で襲われるところから始まるのです。そこがプロットッポイント1です。そうなると、小屋へ行くまでの展開は「主人公の日常」のなかで済ませる必要があります。「旅のきっかけ」では恐怖の予兆が起こり、プロットポイント1」で殺戮が始まるように構成しなくてはいけません。補足1で述べた旅の入れ子構造です。

パッシブな主人公では、決断するまでが備になることが多くあります。「フランスなんて遠い」「怖い!」「むり!」「行きたくない!」といった気持ちと向き合い「決断」をしなくてはいけません。決断さえしてしまえば、パスポートや仕事云々といっ瑣事はストーリー上、大きな意味を持たないので、細かく描く必要はありません。

アクティブな主人公で、相棒(バディ)がパッシブな場合、この相棒を決断させることが準備になるかもしれません。

「主人公の日常」→「旅のきっかけ」→「旅立ちまで」

以上のように、3つのパートにわけてアクト1を考えてきました。

「主人公の日常」と「旅立ちまで」はいくつかのシーンがあるシークエンス(シーンのかたまり)になりますが、「旅のきっかけ」は一つのエピソードです。

今回の冒頭で、中心に「ミッドポイント」(感動ポイント)を置いて「ミッドポイントへ行くまで」と「ミッドポイントから帰ってくるまで」を考えればいいと説明しましたが、アクト1の中だけを考えれば「旅のきっかけ」の前と後を考えればいいのです。じつはアクト1の中にも三幕構造があるようなものです。

さて、さいごに前回のクイズについて考えます。

「浦島太郎」を乙姫とのラブストーリーとして描くなら、浦島太郎をどんなキャラクターにするとよいでしょうか?

でした。

「浦島太郎」でいえば「旅のきっかけ」は「亀を助けること」です。亀を助けるような心優しい性格でなければなりません。

それとは別に乙姫とラブストーリーを展開していくことを考えておくと、どういう人物が相応しいかは見えてきます。

まずはアクティブな主人公とパッシブな相棒で説明したとおり、浦島太郎と乙姫のどちらをアクティブ、パッシブにするかを決めなくてはいけません。

乙姫をアクティブにするなら、恋愛に疎いとか失恋で傷心したパッシブな浦島太郎が相応しいでしょう。

浦島太郎をアクティブにするなら、パッシブな乙姫を情熱的に求める性格が必要です。


もちろん両方アクティブや両方パッシブにできますが構成が変わります。両方アクティブな場合、恋愛感情にはハードルがないので、新たに二人の恋を邪魔する障害が必要になります。両方パッシブな場合は、恋が進展する起動力に欠けるので、外部的な後押しが必要になってくるでしょう。いずれも別タイプの構成になるので、ここでは解説はしません。

アクト1で大切なのは、キャラクターの性格をしっかりと構成と絡めておくことです。
主人公の性格はミッドポイントから遠いところに置くというのが相応しい主人公のコツです。これはStep2「誰の旅なのか?」で述べたことと同じです。

次回へ向けて

今回はアクト1を3つのパートにわけて構成しました。なかでも「旅のきっかけ」を定めて、その前後として考えることがポイントでした。

もう一つはキャラクターの性格をしっかりと構成と絡めることでした。

以上のポイントに気をつけてあなたの物語のアクト1を構成してみてください。

では、クイズです。

浦島太郎が、乙姫の恋を勝ちとったあと何が起こるでしょうか?

次回もひきつづき「浦島太郎」を考えながらアクト2を構成していきます。

「三幕構成の作り方シリーズ」は毎週月曜8時更新です。

次回 → Step6「旅の往復」

緋片イルカ 2020/04/09

今回の内容をビートに関連させると、以下のようになります。より細かく知りたい方は以下のページをご参照ください。

「主人公の日常」→「主人公のセットアップ」「ジャンルのセットアップ」

「旅のきっかけ」→「カタリスト」

「旅立ちまで」→「ディベート」「デス」「プロットポイント1」

「アクト1まとめ」

参考→ 三幕構成がっつり作品分析『浦島太郎』楠山正雄

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