三幕構成の作り方 Step6「旅の往復」(全8回)

書くために使おう!

このシリーズは三幕構成を「自分の作品に応用する」ことに着目して解説しています。段階的な説明になっているのでStep1からご覧ください。

本格的にビートなどを理解したい方や基礎知識のある方は「ログラインを考える」シリーズをご覧ください。音声解説もあります。

また、三幕構成の分析や創作の実践に興味がある方は「読書会」へのご参加をお待ちしております。こちらも音声解説があります。

今回のテーマ「旅の往復」

前回はアクト1を3つのパートにわけて構成するという学習をしました。

今回は、同様にアクト2について構成していきます。

アクト2は「プロットポイント1」~「プロットポイント2」までです。これは旅の「始まり」~「終わり」でした。

旅では一番の目的地である「ミッドポイント」=「感動スポット」へ行って、帰ってきます。

山登りで喩えれば「ミッドポイント」は山の頂上です。アクト2は山に登って、頂上を経て、下りてくるといえます。

マラソンで喩えれば「ミッドポイント」は折返し地点です。アクト2は号砲でスタートして、折り返し地点を過ぎて、スタート地点に戻ってきてゴールするまでです。

初めてのおつかいで喩えれば「ミッドポイント」はお店です。アクト2はおつかいを頼まれて、お店で買って、帰ってくるまでです。

ミッドポイントへのイメージをもっていただいたところで、具体的な構成をみていきましょう。

今回の課題「アクト2を構成する」

三幕構成について書かれた本ではよく各アクトを1:2:1の配分にするという考え方があったりします。

たとえば全体が200ページの作品であれば、はじめの50ページがアクト1(旅の準備)、100ページ分がアクト2(旅)、さいごの50ページがアクト3という風にです。

しかし、この初心者向けシリーズではそのことは考えません。アクト2を前半と後半に分けて、何を書けばいいかということだけを考えていきましょう。


各アクトを1:2:1の比率というのは意図的に配分するものでではなくて、結果的にそうなるべきものです。つまり無理にプロットポイントを全体の1/4に置くようにしても、その前後が無意味なシーンで埋められているだけでは、構成が三幕になっていようとも面白くなりません。面白くなるように、書くべきことをきちんと書いていったら結果的に1:2:1になっていたというのが理想です。初稿を書き上げたあとに、自己分析したときには、この配分は目安になってきますが、最初の段階で意識する必要はありません。それよりはキャラクターについて掘り下げたり、オリジナリティ溢れるエピソードに注力する方が絶対に面白くなると思います。

アクト2前半「プロットポイント1~ミッドポイント」

プロットポイント1は「旅の出発」でした。旅行でいえば「空港で飛行機に乗る」とか「旅先の空港に降り立った」ところから、本格的な旅が始まります。

旅は非日常の世界なので、風景や気持ち、出会う人など、すべてがそれまでと違います。この非日常の雰囲気を演出するのがアクト2前半のポイントの一つです。

前回から「浦島太郎」を例に引いているので、その喩えでいくと「竜宮城」という不思議な世界を楽しげに演出するのです。

豪華な建物、おいしい食事やタコやクラゲのダンス、真珠のように美しい乙姫との出逢い……こういったもので「旅」を演出して、主人公(と読者・観客)を非日常に引き込むのが作者の仕事です。

もちろん楽しい旅ばかりではありません。重苦しい旅もあります。ホラー作品であれば「恐怖」こそが非日常です。おばけ屋敷に入ったときの薄暗い恐怖の世界へと誘うのです。

その世界は主人公はどこへ向かうのか?

旅の目的地ははっきりしています。
主人公は感動スポット=ミッドポイントへ向かって突き進んでいきます。
それがアクト2前半です。


主人公の目的はアクト1で「旅」にでる決断をした時点で明確になっているはずです。アクト2に入ってから「何しよう」「どこへい行こう」などと(主人公はともかく)作者が迷うようであれば、アクト1の構成に戻るべきです。アクト1の遅れは今後のすべてを遅らせるでしょう。

「浦島太郎」では前回の説明で乙姫とのラブストーリーとしました。二人の恋が深まるのが「ミッドポイント」でした。アクト2前半ではそこへ向かうエピソードが入ります。

浦島太郎をアクティブ、乙姫をパッシブな性格のキャラクターとするなら、浦島太郎が乙姫に恋をしてアプローチしていきます。

このときのアクト2前半の二つ目のポイントは障害をつくることです。

目的に対しての障害があることで葛藤が生まれます。

浦島太郎の乙姫へのアプローチをジャマをするもの。ベタな例であげれば、恋敵として乙姫に婚約者がいるとか、過去の恋愛を引きずっていて前に進めないでいるとか、そもそも人間と竜宮城の姫という人種差も障害かもしれません。

ここは作者のオリジナリティがでるところなので、安易な設定にはせず、しっかりと考えるところです。構成のルールを守ることよりオリジナリティを出すことの方が、面白さには重要です。

ともかく障害を乗り越えて、乙姫との気持ちを通じ合うことができればミッドポイント到達です。

「ミッドポイント」

ミッドポイントは山の頂上だという喩えをしました。浦島太郎と乙姫の恋愛でいえば、二人の恋愛感情が頂点に達したといえます。

ハリウッド映画のラブストーリーでは、ミッドポイントでキスやベッドシーンが入ることが多くありますが、それも当然の結果です。

映画であれば、映像的な演出も1つの頂点となります。以下のタイタニックの例はとてもわかりやすいので挙げておきます。

未見の人は少ない映画だと思いますが、もう古い映画ですので説明しておきます。

ローズ(ケイト・ウィンスレット)は親のとりきめによって結婚を強いられています。でも内心は「自由になりたい」と思っていました。そんなとき豪華客船タイタニック号で出逢ったのがジャック(レオナルド・ディカプリオ)でした。ジャックは積極的にアプローチした結果、有名な舳先でのシーンに到達します(上記のパッケージにもなっているシーン)。ここがミッドポイントです。

二人は両手を広げて、風を受けながら、少し怖がりながらも(吊り橋効果も働いているでしょうか)「鳥になったよう」と語るシーンは、ジャックが「ローズの愛」を手にいれ、ローズは「自由」を手に入れた瞬間です。まさに「感動スポット」です。

作品の舞台であるタイタニック号の舳先で体験させていることがシーンも映像的にも見事です。

「浦島太郎」でのミッドポイントをどこで描くべきか、僕には浮かびませんが、竜宮城らしい素敵な場所でのシーンにするべきでしょう。

日本では「起承転結」という考え方があるせいか、物語の終盤にくるクライマックスが見せ場と思われがちですが、ミッドポイントはクライマックスの一つなのです。これは三幕構成を説いている人のなかでも認識されていないことが多いので強調しておきます。

アクト2後半「ミッドポイント~プロットポイント2」

ミッドポイントで目的は達成しました。主人公は目的を失います。新しい目的が必要です。

これが前回のクイズにしていたところです。

浦島太郎が、乙姫の恋を勝ちとったあと何が起こるでしょうか?

ここでも、作者のオリジナリティが問われます。

三幕構成の理論は本を読んだりしてわかっているつもりのに、うまく構成が立てられないという人に多いのが、じつは構成ではなくてキャラクターを考えていないパターンです。

目的を達成してしまった人間は、次は何をするのしょうか?

それは作者が考えるべきことです。ミッドポイント以降、どうしていいかわからないという人は構成ではなくて、キャラクターの心理を考えていないのです。

ここまでの物語をていねいに描いてきていれば、キャラクターの性格や思考は、作者のなかで出来上がっているはずです。目的を達成した主人公がどうするかも、自然と見えてくるはずです。

じつは昔話では、ミッドポイントでおわる物語というのがたくさんあります。
いわゆる「王子様と結婚してしあわせに暮らしました」というパターンです。浦島太郎も「竜宮城で乙姫としあわせに暮らしました」で終わってもいいのです。


ここではあまり掘り下げませんが、三幕構成の基本は「行って帰ってくる」ですが、物語の本質は「変化すること」なのです。だからミッドポイントで主人公が変化したところで物語を終えてもかまわないのです。シンデレラのような話であれば「結婚」がラストシーンになります。それを三幕構成にする場合は、ミッドポイントは「舞踏会で王子様とダンス」となります。実際、映画の『シンデレラ (字幕版)』ではそのように構成されています。

しかし、多くの場合、主人公は帰らなくてはなりません。旅行先で、もう帰りたくないと思って、飛行機の時間には空港へいって、日常へ帰らなくはいけないのです。

楠山正雄の浦島太郎では両親を心配して「じつはうちへ帰りたくなったものですから」と言い出します。

ここではラブストーリーとして描いてきたので、もう少し描写する必要があります。

あくまで一例ですが、浦島太郎が乙姫とラブラブで「ずっとここにいたい」と感じているようなら、帰らなくてはならない事件を起こします。『タイタ二タック』では船が氷山に衝突します。

乙姫の愛に入れてしまった途端に急に気持ちが冷めてしまったということもあるかもしれません。現実ではよく聞く話です。

キャラクターがどう思って、どういう理由で帰らなくてはならないかは、作者次第ですが、三幕構成を当てはめるのであれば構成上は「帰らなくてはいけない」のです


じつは例は少ないのですがミッドポイントから、さらに奥地へと入っていくような構成をもった映画もあります。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がその一つです。これはタイムスリップするという旅があり、さらに旅先の過去で「母から求愛される」というもう一つの旅があり、入れ子構造になっているためにこのような構造になっているのです。ただし、無事に未来に帰るためには「両親をくっつける」必要があるので、帰るための積極的な行動と解釈すれば、やはり「帰ろうとしている」ともいえます。こういうところは解釈次第です。

そして家に到着します。旅はおわります。「プロットポイント2」です。アクト2はここまでです。

次回へ向けて

以上、「ミッドポイント」とその前と後で、3つのパートにわけて考えてきました。

アクト2前半では、旅としての非日常の雰囲気を出すこと、障害をつくって葛藤させることの2つがポイントでした。

「ミッドポイント」では、クライマックスとしての演出が重要です。ここが物語の感動スポットなのです。

アクト2後半では、主人公の気持ちや状況に合わせて、日常に帰らせなくてはいけません。

以上のポイントに気をつけてあなたの物語のアクト2を構成してみてください。

では、クイズです。

「浦島太郎」は、なぜ玉手箱を開けてしまったのでしょう? その後、どうなったのでしょうか?

次回は日常に戻った主人公が、もう一つのクライマックスに入っていくアクト3を構成していきます。

「三幕構成の作り方シリーズ」は毎週月曜8時更新です。

次回 → Step7「もう一度、旅へ」

緋片イルカ 2020/04/09

今回の内容をビートに関連させると、以下のようになります。より細かく知りたい方は以下のページをご参照ください。

「主人公の目的」→「WANT」

「アクト2前半」→「バトル」

「ミッドポイント」→「ミッドポイント」

「アクト2後半」→「フォール」「プロットポイント2」

『タイタニック』を含めた恋愛プロットの構成について → 「三幕構成と恋愛(プロットタイプとストーリータイプの違い)」(三幕構成25)

参考→ 三幕構成がっつり作品分析『浦島太郎』楠山正雄

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