文章添削2「省略」

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論より証拠。まずは悪文と添削例をサクっとご覧下さい。

悪文
「僕はコートのポケットからSuicaを取り出しながら改札へ向かった。改札の向こうで待っていた僕の彼女が僕を見て手を振った。僕がSuicaをかざすと自動改札は警告音を発して、改札のしきりが閉じた。」

改善例
「僕はSuicaを準備しながら改札へ向かった。外で待っていた彼女が僕を見つけて手を振った。僕のはやる気持ちを諫めるように改札が閉まる。料金不足だった。」

今回のポイントは「省略」です。
文章で伝えたいことをきちんと伝えるためには、書くべきことは文字数を使ってでも書かなくてはいけないし、余計なものは書かないことが重要です。
難しいのは何をもって「ムダ」と判断するかです。
悪文では、無駄な説明を多用してあります。添削したポイントを説明していきます。

「コートのポケットからsuicaを取り出した」→「Suicaを準備しながら」
このシーンでは「Suicaをコートのポケットにしまっていたこと」は重要ではありません。
「僕」のキャラクターがいつも変わったところにSuicaをしまうクセがあるとか、「僕」を象徴する動作である場合はムダにはなりません。
また「Suicaをコートのポケットにしまっていたせいで、この後、盗まれてしまう」というような事件が起こる場合もムダにはなりません。
ムダかどうかは、キャラクターやテーマ、シーンの意義を踏まえて判断することになります。

「僕の彼女が」→「彼女が」
日本語の文法ルールでは必ずしも主語や所有格(英語で言うmyのようなもの)を明確にする必要はありません。
むしろ付けない方が自然です。主語ですら省略されます。
だから「僕の」をつけるからには意味が生じます。
最近、付き合い始めたばかりの自慢の「僕の彼女」であったり、三角関係で揺れていて正当な彼女であることを強調したい「僕の彼女」であったりすればつけても構いません。このシーンで強調しておくべきタイミングであるかの判断も必要ですが。
しかし、ただの説明的な「僕の」であればいりません。
恋人関係であることは「僕の」という説明ではなく、二人の態度やセリフで自然と恋人同士であることが伝わる方がより小説的です。

「はやる気持ち」を追加
彼女が手を振ったことに対するリアクションとしての文章が来ることで二人の関係性を伝えられるし、テンポがよくなります。
改札の外で待っていた彼女の顔をみて「僕」がどう感じたのかは、悪文には不足していた「本来、書くべきこと」です。
省略して削っていくことで、逆に削ってはいけないものや、不足していたものが見えてくるようになります。

「僕がSuicaをかざすと自動改札は警告音を発して、改札のしきりが閉じた」→「改札が閉まる。料金不足だった」
自動改札が閉まる描写も、日常的に「改札が閉まる」で伝わることなのでバカ丁寧に描写する必要はありません。
これが一般の読者が知らないような工場の専門的な機械で、どういう動きをして、何が起きたのかを説明するべき場合もあります。自動改札であれば説明はいらないでしょう。
また「料金不足だった」ことは最低限の説明として必要です。
Suicaをタッチしたのに閉まったのか、彼女に気を取られてSuicaを落としてしまったのか、書くべきことを書かないと読者はどうして自動改札が閉まったのかわかりません。

初心者の方は、日記のようにつらつらと描写してしまい、それが作者自身のことであるためリアリティはあるのだけど、物語には全く関係ないとかキャラクターにそぐわないといったことがよくあります。
「キャラクターを考えること」と「テーマやシーンの意義を考えること」で、何がムダが判断できます。
ムダを書いてしまうと読者は混乱してしまい、伝わりづらい文章になってしまうので気をつけましょう。

ご意見、ご質問などありましたら何でもコメント欄にどうぞ。

井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 (新潮文庫)
Posted with Amakuri at 2018.11.20
日本語に造詣の深い井上ひさしの講習の書籍化です。主語の省略などについても書かれています。「この金額で井上ひさしの授業が受けられる!」と考えられる向上心のある人なら価値がわかると思います。ぜひ、読んでみてください。

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