文章テクニック11「論理的セリフと感情的セリフ」

キャラクター概論で感情的思考、論理的思考をする人間でセリフが変化するということを考えました(キャラクター概論7「言動決定要素①知能:男女差について」)。これは6つの言動決定要素におけるテンションや脳内辞書とも関連します(いずれキャラクター概論でも詳説します)。

まずは、具体例で考えてみましょう。妻が夫の浮気を問い詰めるシーンです。

パターンA
妻「誰と会ってたの?」
夫「はあ? 会社の後輩を飲みに連れてくって言っただろ」
妻「女でしょ?」
夫「違うよ。田中くん。ほら、この前、書類を届けにきただろ、あいつだよ」
妻「女と逢ってたんでしょ? 浮気してんのわかってんだから」
夫「はあ? 証拠でもあるのか?」
   妻、夫のスマホを奪って、
妻「このユミって誰? 今日の18時にかけてる」
夫「ああ、田中くんの女だよ。奥さんにバレたくないからってスマホ貸してあげたんだよ。よく頼まれるから電話帳に登録してるけど、もし俺が浮気してんなら、こんな堂々と残しておくわけないだろ?」
妻「……うん」

パターンB
妻「今日は誰と会ってんだっけ?」
夫「ん? 田中くん。ほら、この前、書類を届けにきただろ、あいつだよ」
妻「どこで飲んでたの?」
夫「いつもの店。会社の近く」
妻「どんな話したの?」
夫「なんだよ。今日は妙に訊くな。まあ、会社の愚痴だよ」
妻「浮気相手の話とか?」
夫「まさか、そんな話しないよ」
妻「ふーん」
   妻、夫のスマホを奪って、
妻「じゃあ、このユミって誰? 今日の18時にかけてるね」
夫「ん? ああ、田中くんの女だよ。奥さんにバレたくないからってスマホ貸してあげたんだよ。よく頼まれるから電話帳に登録してるけど……」
妻「ふーん、そうなんだ~じゃあ、かけてみていい?」
夫「えっ……」

パターンAとBどっちの妻が論理的で感情的かは一目瞭然かと思います。
Bの妻は自白させつつ、矛盾点を突くように夫に語らせていきます。警察の取調や裁判での弁護士のセリフなどでもこういう論理的な話し方になるでしょう。
一方、Aの妻は夫に言いくるめられてしまって、結論もAとBでは正反対になっています。
このシーンをビートの「バトル」と考えれば、勝利、敗北が違うので次のシーンでは全く変わっていきます。
キャラクターがストーリーを動かすというのはこういう小さいシーンの積み重ねによっておこります。
もし、Aパターンで論理的な夫が、

夫「はあ? 証拠でもあるのか?」
   妻、夫のスマホを奪って、
妻「このユミって誰? 今日の18時にかけてる」
の後に、急に動揺しだしてしまったら夫のキャラクターがブレているように見えるかもしれませんし、あっさりと自白しすぎて葛藤が弱いとも言えます。刑事ドラマで真犯人があっさりと自白してしまうようなものです。

パターンAでは言いくるめられてしまった妻は、次の手段を考えます。翌日、夫の後を尾行するかもしれませんし、ストレスでより感情的になってヒステリーを起こすかもしれません。
今回は、セリフでの違いを見せるためにト書きをほぼ無くしましたが、キャラクターはセリフだけでなく「言動」なので、パターンAより感情的な妻であれば、問い詰める前に夫のスマホを奪って、浮気相手に電話をしたり携帯を床に叩きつけて壊してしまったり、行動に出てしまうでしょう。いわゆる手が先にでてしまうタイプです。これは夫においても同じで、論理的なキャラクターで例を示しましたが、夫が感情的で暴力をふるうような男であれば、展開や問い詰め方も全く変わります。

同じキャラクターでもテンションによって変化するということについては次回「」にて。

緋片イルカ 2019/07/14

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