脚本作法11:外観ショットの使い方

ライターズルームで提出された脚本を元に「外観ショットの使い方」について解説します。

基本的にはケースバイケースなので、その都度、映像や撮影のことをを想像して決めるいうのは大前提です。

編集のリズムと脚本のリズム

月三さんの『いつかお姫様が』初稿からの引用です。

1.カフェ・外観(夕方)

2.カフェ・内(夕方)
向き合って座る風花朝陽(23)と芹澤舞(25)。
胸元が開いた服を着て微笑む舞。
もじもじ下を向いている風花。
舞「じゃあ、私から!まーです。よろしくねー」
舞、にこりと笑う。
風花、頬を赤らめる。
風花の心の声「……まーさん、アプリの写真より可愛い。やべ、なんかちょっと優奈姫に似とるぞ」

スクールなどで脚本に慣れてくると、とりあえず「外観」を見せてから「室内」へという流れが身につきます。

脚本では「柱だけでト書きがないシーン」はありません。というか意味がありません。

「ここで外観ショットを入れてください」という指定になりますが、それは編集的な意図になります。

編集では時間的リズムや、色味や明暗の変化のために外観ショットを挟む場合があります。楽譜でいう「休符」のようなものです。

ですが、それは「撮影した映像」を繋いだときに判断されるもので、編集者が判断すれば良いことです。

優秀な編集者であれば、脚本になくても必要であれば入れてくれるし、脚本にあっても不要であれば削除してくれます。

では、脚本で「外観ショット」を挟む意味は何でしょうか?

編集同様に「脚本のリズム」のために入れるのです。

脚本のリズムは言い換えるなら、ストーリーのリズムです。

引用した例は物語のトップシーンです。

トップシーンが「建物の外観」から入るというのはオーソドックスな始め方です。

小説的にいえば「夕方のあるカフェで、この物語は始まります」と前置きしてくれるような、わかりやすい入りです。

わかりやすいし、安定するので書き慣れたライターがよく使うのですが、よく使われるということはクリシェな危険もあります。

外観ショットを入れることの効果を考えていきましょう。

説明的ならいらない

「柱だけでト書きがないシーンはない」と言いましたので一行いれてみましょう。

(イルカ改稿1)
1.カフェ・外観(夕方)
よくあるチェーン店のカフェである。

2.カフェ・内(夕方)
向き合って座る風花朝陽(23)と芹澤舞(25)。
胸元が開いた服を着て微笑む舞。
もじもじ下を向いている風花。
舞「じゃあ、私から!まーです。よろしくねー」
舞、にこりと笑う。
風花、頬を赤らめる。
風花の心の声「……まーさん、アプリの写真より可愛い。やべ、なんかちょっと優奈姫に似とるぞ」

書き方としては間違いはないのですが「外観ショット」に意味がありません。

これなら「カフェ・店内」からシーンを始めても、よくあるチェーン店の内装で充分に伝わります。

月三さんは修正稿で「外観ショット」を削除をしていてリズムがよくなっていました。

ヒントとして「外観ショット」が効果的になるパターンを書いてみます(内容自体は説明用のクリシェですがご容赦)。

〇歩道(夕)
男女が歩いている。
女「ああ、疲れた~もう歩けない」
男「コーヒーでも飲んでく?」
女「どこか知ってる?」
男「この近くにめっちゃ美味しい店知ってるよ」
女「え、行きたい!」

〇カフェ・外観(夕)
よくあるチェーン店のカフェである。

〇カフェ・内(夕)
男女がコーヒーを飲んでいる。
男「おいしいでしょ?」
女「う、うん……」
女、苦笑してカップを置く。

ト書きで描写する

(イルカ改稿2)
1.カフェ・外観(夕方)
落ち着いた雰囲気の昔ながらの喫茶店である。

2.カフェ・内(夕方)
向き合って座る風花朝陽(23)と芹澤舞(25)。
胸元が開いた服を着て微笑む舞。
もじもじ下を向いている風花。
舞「じゃあ、私から!まーです。よろしくねー」
舞、にこりと笑う。
風花、頬を赤らめる。
風花の心の声「……まーさん、アプリの写真より可愛い。やべ、なんかちょっと優奈姫に似とるぞ」

ト書き一行を変えただけですが、店内での「風花」と「舞」の会話のトーンが変わった感じがしませんか?

シーン2の「店内」でもト書きを加えればさらに描写できます。ジャズ音楽がかかっていたらどうでしょう?

舞のセリフは店内に響いてそうで、やかましいキャラに見えます。

こういった些細な「描写」は、すべてストーリーに影響を与えます。いえ、影響を与えるように書くことが「描写」なのです。

もちろん、描写しすぎることでの弊害もありますので、バランスはたくさん書くなかで身につけてください。

外観ショットと音

面白い事例があったので引用してみます。

最近ライターズルームに入った脚本太郎の『忸怩』初稿から。(※脚本全文は修正稿が提出されたら記事としてアップします)

ふざけたペンネームですが、なかなか興味深い作品を書きます。

なお、わかりづらいので前置きしておきますが木原は男子高校生、淀川が女子高校生のカップルです。

1. 住宅街(夕)
下校中の木原(18)と淀川(18)。
二人は仲睦まじい雰囲気で談笑している。
ふと、前から美人の、彼氏と手をつないだ女性が歩いてくる。
木原が女性に気付くと、少しの間見惚れる。
女性とすれ違った直後、淀川が肘で木原を軽く突く。
淀川 「美人だったね、今の人」
木原 「え? い、いや……」
淀川が薄く微笑む。
淀川 「わたしと居ても退屈?」
木原 「まさか! そんなわけないって! ……えーと、何の話だったっけ?」
淀川 「もう。バイトの話でしょ?」
木原 「そうだったそうだった! ……だからさ、もうお互い受験も済んでるんだし……淀川も、バイトくらいしてみても良いと思うなぁ、って」
淀川 「そう思う?」
木原 「うん」
淀川 「木原くんと同じ本屋さんで……って話だったよね」
木原 「そうそう。店長もいい人だし、仕事もそこまでキツくないしさ」
淀川、少しだけ思案する様子(形だけ)。
淀川 「……そっか。木原くんがそう言うなら、わたしもそこで働いてみようかな」
木原 「マジで!? やった! 絶対楽しいよ!」
嬉しそうに笑う淀川。
淀川 「うん。楽しみだね、一緒にバイトできるの」

2. 木原たちのバイト先の書店・外観(夕)
ガタガタと机が床に激しくぶつかる音。

3. 同書店・控室(夕)
高城(37)が、机を両手で思いっきり揺らしながら癇癪を起して叫んでいる。机の上の物が落ちていく。高城は生え際が頭頂部付近まで後退していて、肥満体。
木原と淀川を含めた数人の店員たちがドン引きした様子で高城が暴れているのを見ている。
高城 「会計のときくらいイヤホン外せよクソ客がぁー! なーんで俺が舌打ちされなきゃいけねーんだよガキのくせによぉ! 俺はちゃんと仕事してるだろうがよぉ! 俺の仕事は何の問題もねーだろうがよぉ! 学生だか知らねーけど社会の歯車を敬えよこのハゲがぁ!」

シーン2が「外観ショット」です。そこにシーン3の物音が前倒しで入っています。

超初心者で「こんな書き方あるのか!?」と思う人がいるかもしれませんが、これ自体は「よくある書き方」です。

むしろ、この記事の冒頭で説明したように「書店」の雰囲気を描写するト書きがないのはいただけません。

頭のおかしい店長・高城がいる書店はどんな店なのか?を映像的にも描写しておくべきでしょう(この作品では描写することでリアリティの無さが浮き彫りになる気がしますが)。

また「ガタガタと机が床に激しくぶつかる音」という書き方も、細かいことを言えば、やや不適切です。

映像的には「書店の外観」が映っているところに「ガタガタと音が鳴っている」状態で、それが「机と床」によるものとは、この段階ではわからないのですから。

この脚本を読んでスタッフが迷うことはありませんので許容範囲ではありますが、工夫することで、より読者をストーリーに引き込めます。もったいないなという印象です(直す箇所が多すぎるので修正例は割愛します)。

と、問題だらけではあるのですが、この「外観ショット」が面白いと感じたのは「ガタガタという物音」が、木原と淀川カップルのこれからの関係性を暗示しているように見えなくもないからです。

本人に聴いてみないとわかりませんが、おそらく、作者はそこまでの効果を狙って書いていないでしょう。もし意識して書いているなら書き方や音の種類に、もっと工夫があるはずです。

この「外観ショット+音」は応用することで、いろんな効果を生めます。

「よくある書き方」として無意味に音を前倒ししているだけでは特別な効果はありませんが、ストーリーのリズムに合わせて「外観ショット+音」を入れることで、別の効果が生めるのです。

引用した脚本で「外観ショット+音」がなく、「バイトしよう!」というシーン1から、すぐにシーン3の「店内の暴れる店長」に繋がっていたらどうでしょう?(繋ぎの悪さは調整するとして)

机と床の音は、ただの「店長が立てている物音」にしかなりません。

ですが、淀川(女)が「バイトを始める」という決断から、非日常世界である「書店」へ行くPP1のタイミングに「外観ショット+音」が入っているから意味深に見えるのです。

このテクニックを応用するのは難しいので初心者は忘れてください。僕が何を言っているかわからない人は、また10本ぐらい脚本を書いてから、この記事を読み直してみてください。

とにかく面白い事例だったので記事にしておきました。

緋片イルカ 2023.7.19

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