「作者の主張代弁ゼリフ」(文章#19)

【主張代弁ゼリフとは?】
例えば、こんなセリフを見たことありませんか?

「わたし、ああいう人って大キライ。人の気持ち考えてないっていうか。ああいうことする人を見ると、どんな育てられ方したんだろうって考えちゃうの。親の顔を見てみたいっていうか」

「ああいう人」が何をしたかは書いていませんが、マナーの悪い人を見かけたときのリアクションとします。
これは登場人物のセリフは、キャラクターの言葉なのか、作者の言葉なのか。
物語においてはキャラクターの言葉であるべきです。一人の人間が書いていれば、作者の視点や人間観が入ってくることは避けられません。とはいえ、最低限のシーンの描き方を学ぶべきです。

村上龍さんが芥川賞選評で次のように書いていました。

 小説は「言いたいことを言う」ための表現手段ではない。言いたいことがある人は、駅前の広場で拡声器で叫べばいいと思う。だが、「伝えたいこと」はある。ただし「伝えたいこと」を作家が自覚しているとは限らない。とくに、「無自覚に書く」のは新人、若い作家の特権かもしれない。「伝えたいことはない」という作品を書くのも作家の自由だが、それでも、「この作品に伝えたいことがないのだ」ということは伝わるべきである。たぶん「伝えたいこと」は、作家が自覚的に物語に織り込むのではなく、読む人が発見すべきものなのかもしれない。
村上龍(第一五七回芥川賞選評)

この考えには同感です。
作者が「マナーの悪い人に腹を立てている」。それが伝えたいことだとして、それをどう伝えるかが表現手段、文章テクニックです。
物語を書くのであれば、物語全体を通してテーマを伝えるべきです。
セリフで書けば伝わると思っている作者は、物語の効果を理解していないと言えるのではないでしょうか。

次のような展開であったらどうでしょうか?

「わたし、ああいう人って大キライ。人の気持ち考えてないっていうか。ああいうことする人を見ると、どんな育てられ方したんだろうって考えちゃうの。親の顔を見てみたいっていうか」
「ほんとだね。きっと小さい頃に甘やかされたんじゃないかね」
「ぜったい、そう! あの人が親になったら、また子供を同じ育て方するんだよ」

日常会話では十分にありえる内容だと思いますが、物語内のセリフでは重みが違います。
この会話をしているキャラクターに少し嫌悪を抱きませんか?

【主張をシーンとして描くこと】
さっきの例文に一文だけ追記してみます。

「わたし、ああいう人って大キライ。人の気持ち考えてないっていうか。ああいうことする人を見ると、どんな育てられ方したんだろうって考えちゃうの。親の顔を見てみたいっていうか」
「ほんとだね。きっと小さい頃に甘やかされたんじゃないかね」
「ぜったい、そう! あの人が親になったら、また子供を同じ育て方するんだよ」
二人の女性が道の中央で大声で話している。

まったく印象が変わります。
このシーンで作者の「伝えたいこと」は何なのでしょう?

「人の悪口を言う人こそマナーが悪い」かもしれないし「人間とはそういう者だ」と言いたいのかもしれないし、「人の振り見て我が振り直せ」かもしれません。
単純に、そういうキャラクターを見せるためのセットアップかもしれません。
いずれにせよ、作者の主張の代弁ではないことは明らかです。村上さんの言う「読む人が発見すべきもの」でいいのだと思います。

【個人的に思うことですが……】
僕としては作者の主張代弁ゼリフの多い物語には嫌悪を抱きます。作者の不満を、小説で発散しているように見えるからです。
「拡声器で」とまでは言いませんがツイッターでつぶやけばいいようなことを、キャラクターに言わせないで欲しいと感じます。
プロの小説でも、この手の会話だけでストーリーを展開して、新しい生き方を模索する主人公を描いたつもりになっている人がいますが、物語として稚拙だなと思ってしまいます(そういう作者はたいてい描写も未熟だったりします)。

小説には「フィクションである」という逃げ道があります。
言いたいことを言っておいて、フィクションであると逃げるのは無責任だと思います。
物語はフィクションだとしても、それを書いた作者も、読者も現実です(反対に小説のリアリティのなさを「これは実際に体験したことだ」と主張するのもお門違いです)。
本当に主張したいことがあるのであれば小説よりもっと最適な方法で主張したらいいし、小説を書くのであれば作者として物語の役割に責任をもつべきだと思うのです。

緋片イルカ 2019/10/02

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