映画館にて上映中の作品ですがストーリーの核心について触れている箇所がございます。ご了承の上、お読み下さい。
公式トレーラー
https://youtu.be/46odtzf2RjA
一個人の感想
「好き」4 「作品」5 「脚本」4
4DX上映で映画を見たいと思ったことは一度もなく、周りの映画好きな人でも、わざわざ好むという人も聞いたことがない。3Dですら煩わしいという人も多い。数年後には相当に廃れてしまうのではないかと思って、今のうちに体験しておきたいと思っていた。そんな考えに本作はちょうどいい作品だと思った。数日前からチケット予約が必要そうな作品というのも最近では珍しい。池袋の「グランドシネマサンシャシン」4/30(日)16:05の回。本作が4/28(金)公開なので直後の日曜、ゴールデンウィークの始まりとも重なり、会員の先行販売開始1時間後で、すでに1/3が売れていた。
当日は全回満席。コナンやTOKYOMER、東リベ(滝沢歌舞伎もやっていた)などで、コンセッションに列ができるほど映画館が盛況なのは、個人的には嬉しいような楽しいような景色だった。
作品の率直な感想は「楽しかった」。映画として面白かったというより、アトラクションとして楽しかった。ほとんどの人が同じような感想だと思うし、それ以上、内容について言うことは特にない。お祭り的な人気は『THE FIRST SLAM DUNK』でも書いたように、圧倒的多数の人が原作を知り過ぎていて、ほとんどの人が冷静な判断などできない状況ゆえだと思う。ファミコン世代以降で、マリオをやったことない人などほとんどいないのではないか。ゲームをあまりやらない人でもマリオカートやスポーツ系のシリーズ、スマブラなどで知ってはいるだろう。僕も中学生ぐらいまでしかゲームはやっていないので、知らないキャラクターが出ていたりしたが、それでもわかるような元ネタがたくさんあった。作り手の原作への愛は伝わってきた。この作品に不満をもつ人がいるとしたら、ファミコン世代より上で、アトラクションではなく映画として観た人だろう。ストーリーだとか、キャラクターの内面といったところを考えていけば、ツッコミ所はいくらでもあったが「マリオにそんなことを求める必要があるのか?」という一言で一蹴されてしまう。演出も脚本も、映画的な部分を切り捨てて、ゲーム的アトラクションに振りきっていることが魅力になっているので、むしろ脚本として成功しているとも言える。マリオシリーズの熱烈なファンで、あれを入れて欲しかったといった願望はあったかもしれないが、ヨッシー含めて次回以降への余白を残しているので問題ないだろう。
分析的に観るなら、アクト1でのwantは「有名(ヒーロー?)になる」「父に認められる」など。カタリスト「異世界へ(ルイージと離れる)」。ここで「ルイージを助ける」のwantが追加。PP1「ピーチとともにルイージを助ける旅に出る」。MP「ドンキーコングに勝利」。フォール「クッパの軍勢が迫る(カートシーン)」。PP2「ピーチが捕まる」。ビッグバトルは「クッパ城+現代でのアクション」。映画館での初見上映だったので時間配分は確認できていないが、アクションシーンの連続で、どこかが遅いとか早いとかはあまり感じなかった。わずかにMPが遅かったか? 実際に時間で観てみないと何とも言えない。4DX演出で感覚がズレていたかもしれない。分析的に観ていけば改善案もあるだろうが、仕事で依頼されたのでなければ、この作品を分析しようという気にならない(わりとどうでもいい)。内面の成長などの「キャラクターアーク」が弱く、「プロットアーク」中心で進めるというのは80~90年代あたりのアクション映画に多いつくりで、今では感情移入がしづらく、この手の映画のウリになっている爆発などの派手な演出も時代とともにショボく見えてしまい、廃れていった構成だと思っていたが、少し考えを改めた。感情を切り捨てる構成(映画的な部分を切り捨てるとはこのこと)も、マリオのような「題材」ではむしろ成功につながるのだと思う。最近のライターはハリウッドでも、外面的なビートこそ押さえているが感情描写が粗雑というのが多いが、「プロットアーク」中心にすることで、そういった未熟さを隠してしまう効果もあると思う。脚本としては5点をつける気にはなれないが、けっして悪い本ではない。感情面をもう少しだけ滑らかに処理したり、ゲームキャラクターの延長線上での付加価値をつけられたなら、5点をつけたくなったと思う(たとえばスマブラにおいてイージのキャラクター性が付与されたように)。演出も絡むが、旅の途中で景色を眺めるマリオとピーチのシーンなど、もっと美しくできたと思うし、アクト1で水道管を直すときの犬のキャラクターなども、もっと魅力的にできたはず。いかにもクリシェで、こういったオリジナルシーンはけっこう弱かった。演出範疇だが曲の選び方、マリオの訓練中に、たぶんドラマ『スクールウォーズ』の曲?などが選ばれていたが、子供と観に来る父親を想定したのか、ただの制作陣の日本好きなのか知らないが、マリオからの演出で統一した方がよかった。浮いている。クッパの愛の歌はバカバカしくて笑えた。
4DXの演出について。水しぶきや首元の温熱などの機構は、身体を強制的に刺激してくる暴力的な演出だと思った。映像が下手でも観客の感覚を無理矢理に誘発できる。前々から思っていたのだが「元からある映画を4DX化する」のではなく、最初から「4DXを前提に作る」なら、いろいろと面白いことができるはずで、この暴力的な身体刺激と映像をズラすことは面白い演出になりそう。たとえばだが、映像のキャラが火災に気づかないうちに座席で温熱を考えさせて、「おい、うしろ!」と言われて振り返ると燃えているなど。映像に先だって観客に身体刺激をさせる。
座席の揺れは、映像の画角と合っているときは身体感覚と合って楽しいのだが、ズレているときは「ただ揺れているだけ」に感じる。この機能が活きるのは間違いなくPOVのショットだろう。ここには「誰に感情移入させる演出か?」という意義も含まれる。主人公と同じ視点を体験させる狙いであればPOVは有効で、ゲームのFPSやTPSとも重なる。姿勢反射は、体の奥深い部分で感じるので、熱や水のような外面的な触覚刺激とは違う効果があると感じた。POVばかり多様するのはどうかと思うが、4DX演出をセオリー化するなら、必ず使われる基本演出になるだろう。4DX演出として大きな効果があるわけではないが、外観の煽りや俯瞰ショットなどで角度を強調する動きは、映画的な演出の強調になっていて面白いと思った。
背中を叩かれる機構はしつこかった(ドンキーコングと戦ってるシーンなど)。4DXの機能をたくさん使いたいという意図はわかるが、しつこすぎるのは邪魔で、大きく数回、叩く方が効果は高かったのではないか。わざわざ追加料金を払ってもらってる人へのサービス精神からか、ちょっとでも使えるチャンスがあれば使いたいのだろうか。これは「打撃」を伝える表現というよりは、驚かす効果として使えば効果的ではないか。ホラーなどではいくらでも使えそう。座席の形状から付与された機構だろうが、背中はそもそも感覚として鈍い箇所なので、そこを刺激することで演出効果を得ようとするのは効率が悪い。
匂いは「フラワー」のあたりで、ほんのりと香っていたが、熱や水しぶきほど暴力的ではなかった。匂いに特化だけした、たとえば香水をテーマにした作品なども企画として面白そう。「体感型」の意味を、アトラクション的な発想だけでなく、美しさや心地良さを体感する方向まで広げれば面白い。
追加料金の1600円。映画の本編に、こういった感覚刺激が加わるだけで1600円もとるのは明らかに高いのだが、最初から3500円と思って観てみたいと思わせるものであれば4DXで観たいという人はいるのだろう。マーヴェリックの爆音上映とか、アニメなどで企画されている声出しOKの上映などのように、企画上映には大きな可能性があると思う。リピーター効果もあるだろう。そのためには4DX演出自体が洗練されていかないと、たままた本作のようなアトラクションムービーでしか客は入らないのではないか。観客動員数以上に興行収入を上乗せできるというメリットは、制作側としては魅力的な部分ではあるが、上映可能館数の少なさなども考えると、あくまでオマケ的なものに過ぎない。上映がオマケであると、4DX向けの演出が洗練されていくこともないのだろう。
新しい技術が開発されて、それに伴って、新しい機構が加わったりして、ちょっとした話題にはなるかもしれないが、技術に合わせた作品をつくるという方針は制作側からは出てこなそうで、もったいない。しがらみがいろいろありそうだが、長編映画ではなく20~30分ぐらいのアトラクションムービーをあえて回転率を上げれば映画館としても売上げが上がって良さそう。新しい機構も「技術的に可能だから」という発想ではなく、人間の身体から考えて映像とマッチした機構を付与していくことで「映像体験を高めること」の意義が出てくるだろう。配信との競合で映画館で観る人が減っているという。大型テレビやスクリーン、プロジェクター、サウンドバーなど映画館に近い環境が家でも作れてしまう。映画を好きでたくさん観る人ほど、こういう環境を作りたがるのは皮肉だ。こういう人たちに「映画館で観る意義」を作りだすにはどうしたらいいのか?
4DXではポップコーンは持ち込み禁止となっているのに、知らずにだろうが持ち込んでしまっている人が多数いて、案の定、上映後は床のあちこちに散らばっていて、スタッフさんが掃除をしていた。その繰り返しのせいか、汚れも目立つ。館内に持ち込んでいる人から取りあげるというのはトラブルの元でもあるし、スタッフ心情としてむずかしいところだろう。ポップコーンは貴重の売上げでもある(ちなみにチケット代の映画館への配分は皆無に等しい)。4DXでも楽しめる食べ物などの開発も売上げアップとして可能性があるだろう。TOHOが値上げを発表していたが、元映画館で働いていた人間としても、映画館の経営の苦しさは想像できるし、小さい映画館がつぶれていく中、業界構造として下の方に位置している映画館のことを考えることは、業界全体という視野をもつことでもあり、本当はとても大切なことなのではないかと思ったりする。制作も、興行も、観客も、みんながハッピーになる中でお金がまわるのはエンタメ産業としては理想の形だろう。エンタメ以外の映画や意義はひとまず置いておいて。
イルカ 2023.5.3