青空文庫
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感想
石川啄木の小説。啄木は歌人として有名だが、本当は作家になりたかったらしいが26歳で逝去した。小説として読んだときには非常に読みづらいし、表現などもわかりづらい、構成も弱い。けれど、文学として響くところがある。今作は、大きく前半と後半に分かれる。啄木自身がモデルと思えるような「代用教員」で、前半は、教育熱心ゆえに権威に拘る校長と一悶着あるといった内容。子どもなどを題材にするには、やや固くて、それほど魅力的とは言えない物語。後半部分、職員室に乞食が現れるところからが啄木らしい視点が出ている。読みづらさは変わらないものの、響くものがある。
「君も不幸な男だ、実に不幸な男だ。が然し、余り元気を落すな。人生の不幸の滓(おり~まで飲み干さなくては真の人間に成れるものぢやない。人生は長い暗い隧道(トンネル)だ、処々に都会といふ骸骨の林があるツ限(きり)。それにまぎれ込んで出路を忘れちや可(い)けないぞ。そして、脚の下にはヒタ/\と、永劫の悲痛が流れて居る、恐らく人生の始よりも以前から流れて居るんだナ。それに行先を阻まれたからと云つて、其儘帰つて来ては駄目だ、暗い穴が一層暗くなる許りだ。死か然らずんば前進、唯この二つの外に路が無い。前進が戦闘(たたかひ)だ。戦ふには元気が無くちや可かん。だから君は余り元気を落しては可けないよ。少なくとも君だけは生きて居て、そして最後まで、壮烈な最後を遂げるまで、戦つて呉れ給へ。血と涙さへ涸かれなければ、武器も不要いらぬ、軍略も不要、赤裸々で堂々と戦ふのだ。この世を厭になつては其限それつきりだ、少なくとも君だけは厭世的な考へを起さんで呉れ給へ。
※ルビを()表記に変更
緋片イルカ 2023.10.8