良い作品を書くために必要なことは?(文章#49)

文章テクニックというよりは「心構え」のようなものであるが、結局はテクニックを身につける上では、心構えが必要になってくるだろう。

そういう意味で「文章テクニック」のカテゴリーにした。

表題の「良い作品を書くために必要なことは?」という質問は、僕が週に1回リプランする時に自問自答している質問である。

何度も自問自答することで答えは同じでもシャープになってくるし、日を変えて質問することで意外な答えも出てくる。

けれど、繰り返し出てくる答えは、シンプルで当たり前のものしかない。

シンプルで当たり前のことを、どれだけしっかりとやっていけるかが成長には不可欠なのだろう。

以下は「良い作品を書くために必要なことは?」に対する僕なりの答え。

たくさん書くこと

当たり前すぎるが、やっぱり一番大事なこと。

なんでも「量」と「質」という観点があるが、「質」は上げようと思って上げられるものでもないし、意図的に下げるというのも案外難しい。

何度も直したり、経験を積むうちに自然と上がっていくものだし、そのためにはたくさん書く以外はない。

物語や芸術に限らず、スポーツだとか職人技術だとか、何でも同じこと。

物語は手指よりも頭の中に依存するように感じられて、あれこれ言い訳したり、思案して捜索している気分になったりして、書くことから逃げてしまう人も多いが(僕自身もそういうところはあると自覚しているから尚更)、たくさん書くことが大事だと思う。

「量」をこなしていれば、「質」は必ず上がっていく。

たくさん読む、たくさん見る

小説やマンガなら読む、映画なら見る。

良いものも悪いものも、たくさん見る。

そうやって物語に対して、さらにはジャンルや媒体に合わせた判断力を養う。

自分が進みたい方向がはっきりしている方が、集中的に吸収できるかもしれないが、視野が狭くなる恐れもある。

専門的な部分はしっかりと狭く深く、同時に広い視野を忘れないでおきたい。

ここでも「質」の問題、すなわち「良い作品」にたくさん触れるべきだという考えもあるだろうが、自分で触れなきゃ、良い悪いの判断などできない。

他人の評価が悪くても、自分にとって参考になるのであればそれは「良い作品」だ。

たくさん寝る

これは体調管理の比喩。「たくさん食べる」でも「たくさん歩く」とかでもよい。

休むべき時は休む、頑張る時は頑張る。

体調が芳しくない時は、判断力も鈍ってしまう。

たくさん遊ぶ

「遊び」には二つの側面がある。

一つはストレス解消、リラックスなどの側面。

好きなこと、楽しいことをすることで、精神の調子を整える。

物語創作ではキャラクターや観客に「感情の波長」を合わせなくてはいけないので、作者自身がブレると、物語もブレるし、何より苦しくもなるだろう。

書くときは物語に入り込むにしても、自分自身の人生、生活、楽しみはしっかりと守れるといいだろう。

遊ぶことのもう一つの側面は「発見」である。

新しい場所、新しい経験、これまで会ったことない人と話すといったことは、作者自身の価値観を広げ、物語の「題材」のヒントにもなる。取材のようなものでもある。

これらの境界は明確ではなくて、何気なくやっていたことが後々物語のネタになることもあれば、ネタにしようと思って体験してみたものの、まったく使えないということもある。

それでも、いつかどこかで役に立つかもしれない。

そういう発想で、日頃から「遊ぶこと」を大事にするべきだと思う。

たくさん人と話す

これ自体「遊び」の一種でもあるだろうが、重要なので、あえて別項目にした。

「遊び」として人と話すことは、親しい友達とどうでもいいようなことを話して笑ったり、文句を言い合うようなことでもいいと思う。

それとは別に苦手な人や嫌いな人と、話してみたり、ときには喧嘩したりすることも大切。

物語の根幹には人間の感情がある。

これがわからない限り良い物語は絶対に書けない。

だから、人と関わることは、たとえそれがどんな相手だとしても、物語の核となる可能性を秘めている。

人付き合いが苦手だったり、嫌だったりする人も、無理はする必要はなくとも、可能な範囲で一歩踏み出してみると、必ず発見があると思う。

本を読む経験も「作者との対話」と考えるなら、好きな本だけでなく、あえて苦手な本を読んでみることで得られることもあるはず。

たくさん悩むこと

悩むとは簡単に結論付けないことでもある。

答えを保留すること。

悩みを抱えることは、それ自体がストレスでもある。

だから多くの人は、答えを決めつけて切り捨てたり、言い訳して逃げたりする。

逃げられない状況にある作家は、そのことと作品の中で向き合い続ける。

自分が大切だと思うテーマは、しっかりと抱え続ける。

それは、作家というものの役割でもあるのではないか。

作品単位でいえば、もっと良くできないかと悩み続けることは、推敲することと同じ。

「もう、これでいい」と安易に逃げると、中途半端でも作品は完成になってしまう。

こだわり続けると、それはそれで苦しさにもつながるが、作家には「良いもの」を作るための我慢強さは必要である。

もっとたくさん……

向上心があると「もっとたくさん」とキリがない。

人間の時間には限りがある。

一人の人間にやれることにも限界がある。

どこかで割り切ったり、取捨選択も必要だろう。

判断するには自分が何をしたいか、どういうものを書きたいか、どういう作家になりたいか、そういう視点が必要になってくる。

それ自体に迷うときこそ、たくさん見たり読んだりすればいい。

ひとつに限らず、やりたいことが3つも4つもあったっていい構わない。その方がうまくいくこともあるだろう。

時間が許す限り「もっとたくさん」という姿勢でいれば、必ず成長していく。

他人と比べることについては注意しなくてはいけないが、たとえば仕事という観点で言えば、他人よりも優れていれば仕事が来る。

目標のレベルに達していないのであれば「もっとたくさん」やらなくてはならない。

「運」の問題ではない。

実力があって選ばれるかどうかには運や出逢いもあるが、そもそもの実力がない人はチャンスがあっても絶対に選ばれない。

すごく単純な話だと思う。

「もっとたくさん」の心構えで努力をつづけていれば、ペースによっては時間はかかるかもしれないが、必ず成長はする。

緋片イルカ 2023.9.30

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