ざっくり読書3『2013年のゲーム・キッズ』渡辺浩弐

【近未来的なショートショート】
ショートショートといえば誰もが星新一さんを思い浮かべると思います。
星さんの話が童話的、絵本的だとすると、渡辺浩弐さんの話は近未来的です。

ネット社会、AI、ひきこもり、再生医療といった現代的なテーマを近未来に延長しブラックなオチを作り出しています。

ショートショートという性質上、ストーリーには触れず、設定にあたる部分から引用していきます。

(第31話『団醜の世代』より)

「いよいよ来週ね。母さんの50歳の誕生日……〝人生定年〟の日」

 昔は、人が死ぬ年齢は決まっていなかった。よぼよぼのぼろぼろになっても、みんなに迷惑をかけながらでも、いつまでも生きている人達がいた。
 人が50歳で死ぬことになったのは近代になってからだ。そのきっかけは、皮肉なことだけど、医学の発展でいくらでも生きられるようになったことだ。

(第19話『スピード裁判』より)

「俺の授業でお昼寝とはいい度胸してんじゃねーかコラ」

 僕はメガネの眉間の位置に仕込まれた小型カメラを相手に向け、その猿のような顔にピントを合わせた。視聴者数は既に1万を超えている。

(第26話『黄泉の国から』より)

 突然の事故で妻を亡くした。

 呆然と突っ立っているところに、男が声をかけてきた。最初は葬儀屋の名刺を出し、儀礼的な言葉を並べた。
 ところが霊安室で二人だけになると、彼は小声で、本来の目的を告げてきた。葬儀屋というのはカムフラージュであり、実体はクローニングや人工冬眠技術のノウハウを持つベンチャー企業だという。

紹介したい話がたくさんありますが、オチに関わってしまうものがたくさんあるので、これぐらいにしておきます。
ぜんぶで49話も入っているので、楽しめる話がきっとあるはずです。

【有名ホラーサイトの元ネタ】
「謎と旅する女」というサイトをご存じの方も多いかも知れません。
ショッキング系のホラーサイトなので、ご覧になりたい方は自己責任でお楽しみください→『謎と旅する女』
第49話『真説・謎と旅する女』はこのサイトの紙上再現版です。

あとがき(補足)にあった渡辺さんの言葉

小説はデジタルの翼によって高く飛べる

には考えさせられるものがあります。

【ゲーム・キッズシリーズの整理】
このショートショートシリーズは少しややこしいので、現在購入できるものを古い順に並べてみます。

1999年のゲーム・キッズ(上) (星海社文庫)
1999年のゲーム・キッズ(下) (星海社文庫)

2000年のゲーム・キッズ(上) (星海社文庫)
2000年のゲーム・キッズ(下) (星海社文庫)

2999年のゲーム・キッズ(上) (星海社文庫)
2999年のゲーム・キッズ(下) (星海社文庫)

2013年のゲーム・キッズ (星海社文庫)

となります。古本などでは出版社がアスペクト、幻冬舎の別シリーズもあります。版権が切れた後に再出版しているためだと思われます。
現在は渡辺浩弐さんの書籍は星海社が扱っているようです。

【ほっこりトークでは……】
ほっこりトーク44では渡辺さんの別の本を紹介しました。「イマヨム」という読みかけの本を中途半端に紹介するコーナーですが、そこでは2999年のゲーム・キッズ 完全版の頭の方だけを読んで理解できず、あまり良い感想を言っていませんでした。

今回の『2013年~』を読んで、改めて他のシリーズを読んでみたいと思いました。そういえば、世にも奇妙な物語に使われた(パクられた?)話もあるそうです。

緋片イルカ2019/05/15

※2019/08/25追記
令和元年のゲーム・キッズ (星海社FICTIONS)
2019/7/16に新刊がでていました。改元にのっかった感のあるタイトルですが令和は関係ありません。
「50歳で強制的に殺される社会」を題材に、今風のショートショート満載で楽しめました。

その他のざっくり読書のリストはこちらから

小説や映画に興味ある方は、こちらも覗いてみてください。

構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

キャラクター論についてはこちら→キャラクター分析1「アンパンマン」

文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」

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