文章添削6「文章順序」

今回は文章の順序があたえる印象の違いについて考えていきます。

シーンの構成要素でショットについて少し触れましたが、小説でショットにあたるのが一行ごとの文章そのものです。
そこで、まずは映画のモンタージュから考えていきます。
これはロシアの映画監督エイゼンシュテインが確立した理論で、編集にも関わることですが、かんたんに説明すると以下のようなことです。

ショット1「微笑んでいる男の顔のアップ」
ショット2「幸せそうに歩いている家族連れ」

このようにショットを繋ぐと映像を見た人は「男は家族連れを見て、微笑んでいる」と思います。ではショット2を次のようにしたらどうでしょうか?

ショット1「微笑んでいる男の顔のアップ」
ショット2「強風が吹いて女性のスカートが捲れる」

途端に男がスケベな男にみえます。ショット1は全く同じでも、並べ方だけで意味が出てしまうのです。
これと同じ事が小説の文章の順序についても言えます。例えばこんな文章。

例文1
むかつく野郎だ。
僕の目の前を歩いている老人がいる。杖の先で地面の固さをたしかめるように突いてからようやく片足を出す。また杖の先でたしかめ、もう一歩。
始終このかんじなので道を塞いでしまっている。年寄りとはそういうものじゃないか。そのとき自転車の男がものすごいスピードで僕と老人の横をすり抜けていった。

最後まで読むと、僕がむかついているのは自転車の男だとわかるのですが「むかつく野郎だ」の直後に「老人がいる」と書いてあるので、老人のことをむかついているように誤読されてしまうのです。
これは読者の気持ちになれば簡単にわかることです。あるいは2~3日原稿を寝かせてから読み返せば、わかるはずです。

意図的に誤読させるのはミスリードです。

例文2
むかつく野郎だ。
僕の目の前を歩いている老人がいる。杖の先で地面の固さをたしかめるように突いてからようやく片足を出す。また杖の先でたしかめ、もう一歩。
始終このかんじなので道を塞いでしまっている。だが、僕がむかつくのはこの老人じゃない。その隣の老婆だ。

わざと誤読させておいてから矛先を変える。意図的にやっているのであれば狙い通りです。
こういったものは説明的な順序なので、わりと気づきやすいことですが、感情や感覚描写において順序が悪いために勢いを殺してしまっていることもあります。

例文3
「バカじゃねえの」
もう我慢の限界だ。ケンジにバカと言われたのは何度目だろうか。
拳を握った。
僕はケンジの胸ぐらをつかんで、一発お見舞いしてやった。

例文4
「バカじゃねえの」
拳を握った。
もう我慢の限界だ。ケンジにバカと言われたのは何度目だろうか。
僕はケンジの胸ぐらをつかんで、一発お見舞いしてやった。

例文3と4の違いは2行目と3行目を入れ替えただけです。
「バカ」と言われたことに対して、例文3では思考と感情描写でリアクションをしますが、例文4では「拳をぎゅっと握った」という身体反射でリアクションしているように見えます。
思考と反射、どちらが早いかと言えば反射のはずです。沸騰したやかんを触れば手を引いてから「あついっ」と言うのです。だから、先に書くべきなのです。

「拳を握りしめる動作」が反射ではなく、決意の表れだったとしたらどうでしょうか?
我慢できない、殴ってやる!と決心してから拳を握る。それならば次のようになるべきです。

例文5
「バカじゃねえの」
もう我慢の限界だ。ケンジにバカと言われたのは何度目だろうか。
僕は拳をぎゅっと握りしめた。
それからケンジの胸ぐらをつかんで、一発お見舞いしてやった。

主語をつき「握りしめる」にすることで身体反射ではなく意志が加わります。
ためしに以下の文章もご覧ください。

例文6
「バカじゃねえの」
僕は拳をぎゅっと握りしめた。
もう我慢の限界だ。ケンジにバカと言われたのは何度目だろうか。
僕はケンジの胸ぐらをつかんで、一発お見舞いしてやった。

これだと、反射的に握ったという感じがでません。反射なら文章も短くパッと書くべきなのです。
では、カっとなって反射的に殴ってしまった場合はどうでしょうか?

「バカじゃねえの」
僕はケンジの胸ぐらをつかんで、一発お見舞いしてやった。
バカと言われたのは何度目だろうか。もう我慢の限界だった。

体が先に動いて、殴ってしまった後に、自分の感情を分析している書き方になります。

同じ映像でも編集の仕方次第で、意味合いや、迫力がなくなってしまうように
ほとんど同じ内容の文章でも並べ方で、ぜんぜん印象が変わるのはお分かりいただけたなら幸いです。

ご意見、ご質問などありましたら何でもコメント欄にどうぞ。

(緋片イルカ2019/02/07)

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