作家というと、何やら考えたり悩んだりして作品を生み出す芸術家のようなものだと想像している人がいるかもしれないが、「仕事」という視点から考えてみればフリーランスである。
職務経験のない学生や、勤務形態はどうあれ企業に所属する働き方しかしたことのない人は「フリーランス」の感覚に欠けていることがある。
企業から固定給や時間給で給料をもらっていると、会社に行って、指示された作業をこなしていれば、給料日にはお金が入ってくると勘違いしやすい。
雇用者は法律によって守られていて、働けば、お金がもらえるのが当然の権利だと思っている。
社会のルールとしてはそれでいいのだけど、そういった「サラリーマン的メンタル」では、実力勝負の世界では通用しない。
「質の悪い仕事」をしている人ほど、会社に文句を言う傾向があるかもしれない。
「質の良い仕事」=「会社に利益をもたらす仕事」をしている人は自然と評価もされるし、評価に見合った要求ができる立場にあることに気がつく。
要求に会社が応じないのであれば、能力があるので、別の会社に移ることもできるし、独立して会社をつくることだって出来る。
新設の会社はフリーランスと同じ立場である。保証は少なく、弱肉強食的な競争で、自己責任も大きく問われる。
「物語の仕事」をサラリーマン的なメンタルの作家と、フリーランス的なメンタルの作家の違いで考えてみる。
サラリーマン作家は、仕事はどこかからやって来るものだと勘違いしている。マンガやドラマで編集者が作家に依頼にくるような「大先生」のイメージを抱いている人もいるかもしれない。
会社では営業部が走り回ってとってきてたり、地道な宣伝効果で、会社に依頼が来ていることに想像力が向いてない。
既に売れっ子作家ならともかく、無名の作家に依頼など絶対に来ない(世の中に作家になりたい人がどれだけいるかも想像するべき)。
コンクールやネット投稿などで実力を証明したり、あちこち呑み会なんかに顔を出してコネをつくったりして、ようやく仕事がもらえる。
フリーランスの意識があれば、こんな考え方は当たり前だ。
実力を養うための努力は常に怠らず、その上で、あまり興味がないようなイベントなんかでも「いつか何かに繋がるかもしれない」と顔を出して、結局、無駄足を踏んで、それでもまた別の機会には、なるべく顔を出したりする。
最初の仕事が来たとする。
営業や宣伝の努力を想像できていないサラリーマン作家は、どこかから不意にやって来たのだと思っている。
場合によっては、上司から「指示された作業」ぐらいの狭い視野で捉えているかもしれない。
そんな作家にクライアントや観客の気持ちが想像できる訳がない。つまり面白いものが書けるはずがない。
サラリーマン作家は、わからないことがあれば上司に聞けばいいと思っている。
上司が「自分で考えろ」とでも言おうものなら、陰口を言って、教えてもらえなかったことを上司のせいにして雑な仕事で終わらせてしまうかもしれない。
「教えてくれなかったので、わかりませんでした」
フリーランス作家は、低レベルの仕事をすれば、次の依頼がないのを分かっている。
わからないことがあれば調べたり、別の人に聞いたり、とにかく努力する。
〆切も守らなくてはならない。フリーランスではそういう社会性も問われる。
「あ、忘れてました。すいません」で済むのは、社内の誰かがフォローしてくれる時だけである。
依頼する側の気持ちになればわかる。自宅のガスや水道の工事などで、きちんと直ってなかったり、約束した日に来なかった業者に次は頼むだろうか?
物語の実力がそれなりにあっても、〆切を守れず、小まめな連絡が雑な作家になど頼みたくない。
〆切を守らないこと、それが相手にどんな影響を与えるか、早めに連絡するだけで迷惑を抑えることができることなどに、想像力が向いていないのである。
物語の実力が「それなり」で、〆切をきちんと守れる作家は山ほどいる。わざわざ、社会性に欠ける人になど頼まない。
〆切を破っても、何度も依頼がくるのは「圧倒的に面白い物語」を書ける大作家だけである。その人以外には誰も書けないのだから、その人に頼むしかない。
作家を(とくに脚本を)仕事としてやっていきたいと思うのであれば、以下のような能力が必要になってくる。
「物語の実力」「期日までに仕上げる責任感」「営業努力を含む社交性」「他人の立場を考えられる想像力」
大作家のように「物語の実力」さえ身につければいいと考える人もいるかもしれないが、物語というものの性質上、他の能力も関連している。
数学や物理の研究をするのとは違う。
物語が相手にしているのは自然法則ではなく、大多数の人間感情である。
「責任感」は実力向上の努力につながり、「社交性」と「想像力」は人間に対する視野を広げる。
お勉強ばかりしてても、いい物語はぜったいに書けるようにならない。
本気で作家の仕事に就きたいなら、意識改革をするべきかもしれない。
意識が変われば「物語の実力」も上がってくるはずである。
自分の中に「無責任」「社交性に欠ける」「想像力に欠ける」といった要素がないだろうか?
物語に対する取り組み方が変われば、実力アップは案外、とても速いかもしれないし、意識が変わらないままダラダラと続けていても、一生、芽が出ない人もいるだろう。
緋片イルカ 2023.8.13
※:この記事で言うサラリーマン作家は、サラリーマンをしながら書いているプロ作家とか、ライター事務所に所属しているようなプロ作家ではなく、あくまで「サラリーマン的なメンタルでものを書く作家」の意味である。便宜上、作家と呼ぶが実際はサラリーマン的なメンタルで書いている人は、デビューも遠く、何かの拍子にデビューはできても続かないようなアマチュアレベルだろう。