脚本作法17:マンガの分析について

ライターズルームで、マンガの分析についての質問に答えたものを記事としてまとめ直しておきます。

計測することの意義

マンガにせよ、小説にせよ、「全体からの割合」を測るのがビート分析の基本になります。

たとえば映画では「120分」の作品で「PP1」に該当するシーンが「40分にあれば全体の33%」となります。

時間を計らないで、頭の中だけで「ここがビートだ!」と確認している作業は分析になりません(※『save tha cat』も時間計測をしていないからデータではなく屁理屈になっていることが多い)。

きちんと測ってみてわかることがたくさんあります。

映画のセオリーでは「PP1」は25%という基準があるので、まずは「この作品のPP1は遅いかも?」と考えてみます。作業仮説です。同時に「PP1」までが「つまらない」「怠い」と感じるかといった感覚も大事にします。

「つまらない」「怠い」と感じるようであれば「PP1」が遅れていることが影響している可能性があり、さらに「PP1」が遅れている原因として「ムダなシーン」や「後で入れればいいようなキャラ紹介」が入っていたりすることを疑っていきます。

このように考えていけば直しの方針が見えてきます。創作に役立つ分析です(ネットでは分析と称した持論を語るためだけの屁理屈記事が溢れていますので気をつけましょう)。

160分の映画であれば、40分は25%になります。理屈だけでいえば、ぴったりということになりますが、長時間の映画で前半が「長いな~」「怠いな~」と感じた経験は多いのではないでしょうか?

ハリウッドでも「PP1=25%」を正しいという理屈に縛られて作っている作品が多いからです。

「PP1」が遅れていても、ぜんぜん問題になっていないケースはたくさんあります。

そのための処理には、いろんなパターンがありますし、遅れている原因にもいろいろあります。

きちんと計測して「ケーススタディ」をもっておらず、物語教本の理屈だけ読んで正しいと思い込んでいると理論に縛られてしまうのです。

さて、本題のマンガですが、マンガでは「時間」にあたるものを何でとるか?

ひとつは「ページ数」です。

全10巻で完結しているようなストーリーの中で10巻分のページを足して「全体頁数」を出して、3巻の〇〇ページ目が「PP1」にあたるという分析ができます。

たいへんそうって思った方、分析は地味で面倒くさい作業です(少しでも効率化するため専用のテンプレートを作っています)。

地味で面倒くさい作業だから、みんなやらない。

だからこそ、きちんと続けている人にだけわかるものがあって、それを身につけると他から優位に立てる。このことは経験者として保証します。

計測の単位

120分の映画であれば分単位で分析すればよいでしょう。

つまり「40分33%」と「41分34%」にはたいした差はありません。

ですが、5分ほどのショートムービーを分析するときは「1分25%」と「2分40%」の違いは大きくなりますから、こういうときは5分を300秒として計測した方が、分析の意義がでるでしょう。

マンガでも同様に「読み切り」だったり「一話完結」のストーリーでは「ページ数」ではなく「コマ数」で考える必要があるかもしれません。

僕はマンガ分析の「ケーススタディ」をもっていない(マンガ分析をほとんどしたことがない)ので、目安となる基準はわかりませんが、面白いと思う作品をたくさん分析していくと、共通パターンのようなものが見えてくると思います。統計的にベースとなる数値です。

絶対的な基準ではありません。「PP1=25%」が絶対でないのと同じです。

マンガにおける基準は、誰もビート分析をしていないので、100本ぐらいやってみたらヒットマンガをつくるセオリー(抽象的ではなく、実践で使えるセオリー)が見えてくると思います。

マンガ分析の予測

脚本を「リアルタイム」に同期させることという記事で、マンガと映像での時間感覚の違いについて書きました。

この点が、マンガ分析でどう影響するかは専門でないので未知数ですが、絶対に影響はすると感じます。

さらにコマの版面率も影響するはずです。大ゴマと小ゴマの数とか、面積いくつ以上から大ゴマとするかという定義も必要でしょう。

コマ内の目の誘導などは、映像のショットに通じるところがあります。

「連載」という形式で書かれたものと、「書き下ろし」で書かれたもので、構成は変わるはずです。

シリーズとしての構成を考えている漫画家もいれば、行きあたりばったりで面白い展開を考えるのが上手い漫画家もいると思います。

そんな中でも「キャラクターアーク」としてのビートは、物語共通で作用しますので、ビート分析はしていけるはずです。

以上は、あくまでマンガ分析に対する僕の予測です。

マンガを数本分析した程度で見えてくるものは少ないのではないかと思います。

映像でも一緒ですが、たくさん読んで、たくさん書いていく中で無意識につかんでいく「良い」という基準を、客観化し、効率的に身につけるのが分析という作業です。

分析するからにはたくさんやって、やりつづけないといけません(時代でも変わる)。

そういう分析を続けていけば、マンガ理論の第一人者になれるし、自身がそのセオリーに基づいてヒットマンガを作れると思います(そうでなければ実践で使えるセオリーじゃない)。

挑戦したい人がいたらサポートしますので、ぜひお声がけください笑

緋片イルカ 2023.8.7

参考:
マンガと三幕構成①「媒体差」(#34)

マンガと三幕構成②「構図」(#35)

マンガと三幕構成③「コマ割り」(#36)

マンガと三幕構成④「ページの構成」(『マインドアサシン』の分析)(#37)

マンガと三幕構成⑤「ストーリーからネームへ」(#38)

※昔書いたマンガについてのシリーズ記事です。読み直していないので、今読むと違うなと思うところもあるかもしれませんが。

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