「商業的に、エンタメとして面白くする」とは?(文学#86)

ライターズルームでの質問について考えていきます。

「むずかしい質問だな~」と思ったので、まずは質問をそのままコピペします。

Q:「以前にも面白いとは何かというトピックであったと思いますが、改めて商業的に、エンタメとして面白くするとはどう考えていけばいいのか?というテーマでお願いします」

以前の「トピック」と書かれているのは、この記事についてだと思います。

物語には、いろんな面白さがあるし、ジャンルや媒体によって基準はまるっきり変わります。

今回、いただいた「商業的に」という基準にも幅があります。考えながら書いていきます。

「商業的に」とは?

映画でいえば、ハリウッドの予算100億以上の超大作エンタメもあれば、邦画では20億ぐらいの大作、1億ぐらいのドラマ映画もあります。

予算規模と内容が見合っていることは「商業的」「エンタメ」の一つの考える基準になると思います。

史上最高予算の映画は「この映画」です。

情報源などで数字にズレがありますが、以下の記事で$410 Millionとあります。
https://www.forbes.com/sites/csylt/2014/07/22/fourth-pirates-of-the-caribbean-is-most-expensive-movie-ever-with-costs-of-410-million/?sh=2f0db824364f

これだけの予算をかけていながら、シーンが「室内の会話」ばかりだったら観客はがっかりでしょう。

大作には大作なりの「見所」をしっかり作ることが「面白さ」になります。

興収はIMDbによれば、
Gross worldwide:$1,046,721,266

反対に、低予算でウルトラヒットした映画といえば「この映画」です。

IMDbによれば

Budget:$15,000 (estimated)
Gross worldwide:$193,355,800

制作費の12890倍の興収をあげたことになります。この倍率は歴代最高です。

「商業的に」という基準で考えたとき「興収/予算=予算の3倍以上」か、倍率こそ少なくとも「興収-予算=膨大な額」なものは「商品」として成功しているといえるでしょう。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』と『パラノーマル・アクティビティ』の「面白さ」の基準は違います。

データは参考になりますが、売上げは必ずしも作品の質と直結していないこともあるので、ある程度は「面白さ」を考えるには主観的な経験則も関わると思います。

ご質問には「どう考えていけばいいのか?」とありましたが「どう身につけていけばいいのか?」と置き換えてみます。

センスを磨くには、やはりたくさん作品を見て、気になった作品の予算や興収などを意識をして、作品ごとによってどのような工夫をしているか?を意識して見るしかありません。

工夫というのは、つまり『パラノーマル。アクティビティは』は予算の少なさを、どう処理しているか?(※良い意味で誤魔化していると言ってもいい)

あるいは『パイレーツ・オブ・カリビアン』では、せっかくの予算を、予算がないと見せられないような魅力的なシーンにできているか?(※この点では『タイタニック』のが優れてる気がします。『タイタニック』は歴代最大予算2番の作品)。

せっかく予算があってもクリシェなシーンでは観客は感動しませんし、予算がないのに派手なシーンを書くと脚本上では面白くても映像がショボくなって「面白さ」の質を落とします。

「たくさん見る」以上に効果的なのは「仲間と話すこと」だと思います。

一人で勉強していても、判断がズレていたりしたら、独りよがりのセンスしか身につきません。

作品を見て気になったことや気づいたことを自分から仲間に話して、仲間の意見を聞いて修正することで、センスは磨かれていきます。

プロデューサーの話を直接きければ、より磨かれるでしょう。ネットで外からわかるデータを見ていても、現場でしかわからないセンスは身につきません。

「ライターズルーム」はチームを大事にしているのは、学習を加速させるためでもあります。

興収など、映画を前提にした「商業的」で話しましたが、地上波ドラマとか、小説とか、マンガとか、それぞれの媒体ごとで基準が変わることは言うまでもありません。

とはいえ「コストに見合った利益を上げられるか?」というのが、どんなものでも(ボールペンを売るのでも)当てはまる基本法則なので、考え方は同じはずです。

作家自身が、どういう媒体で、どの規模での作品を目指すかが定まっていないと「面白い」の基準は決めようがないともいえると思います。

「エンタメ」とは?

「じっくりと考えさせる作品」よりも「考えないでスカッと楽しめる作品」の方がエンタメらしい。このイメージは何となくあると思います。

「考える」という作業にはエネルギーがいります。

楽しむために労力がかかることより、苦労せず楽しめる方が多くの人が喜びます。

近年、文章による物語より、映像による物語の方が受け入れられやすいのとも繋がります。

「読む」より「見る」方が楽でわかりやすいと、多くの人が感じるのです。

もちろん「読む」楽しみを知っている人はたくさんいますが、全体の傾向(大衆)としては「楽な方がいい」のだというのは当たり前に思っておいてよいでしょう。

観客に労力をかけないようにはどうしたらいいか?

これは「技術レベル」です。どういう技術かは、このサイトでたくさん書いてあります。

一例を上げるなら、最近の「脚本作法」の記事でとりあげている「読み心地」です。

読みづらい文章やイメージが湧かない文章は、読む人を「考えさせる」ことになります。

自分の文章が読みづらいかどうかを客観的に判断できるようになるのは難しいかもしれませんが「ライターズルーム」ではフィードバックのルールがあります。

仲間からの意見をしっかり受け止めること(意見がわからないときは聞き返したって良い)と、仲間の作品を読むときに感じる「読み心地」を大事にしていけば、見えてくるものが必ずあるはずです。

技術なので、理屈で理解して身につくものではありません。繰り返し体に覚えさせることで、身につくものです。

ご質問にあった「どう考えていけばいいのか?」ということで言えば、ホスピタリティの精神でしょうか。

よく、このサイトのいくつもの記事で「店員さんの接客の気持ち」と「読者の気持ちを考える」のは同じだと書いていますがが、とにかく「書く側」と「読む側」を行き来する経験の中でセンスは養われていくと思います。

「読む側」に立ったときは、なんか「読みづらいな」とか「つまらないな」と思ったときは、正直に受け止めるべきです。

仲間だからといって、気を遣って褒めていると、お互い成長しません。仲間だからこそ厳しい意見を受け止め合うべきでしょう。

「面白くする」とは?

「面白い」の基準が人それぞれなのは当然ですが、人が面白いと感じているときに共通するのは「感情が動いている」ことだと思います(例外的にミステリーがありますが、今回は割愛します)。

「感動」というと、涙が溢れてしまうような状態をイメージする人が多いかも知れませんが、それは「感動」の頂点。

「この後どうなる?」とか「このキャラクター、むかつく」とかでも、観客の感情が動いている=「感動」が起きています。小さい動きは「フック」と言ってもいいでしょう。

観客の感情を動かすことが「面白くする」ための考え方だと思います。

動かす感情の方向性はジャンルによって変わります。

ラブストーリーでは「キュンとする」「素敵だな」「こんな恋をしてみたい」「こんな瞬間を経験してみたい」と感じさせるように誘導するし、アクションやサスペンスでは「ドキドキハラハラ」「どうなる?」「危ない! やばい!」などが感じさせるように誘導します。

これもやはりセンスではあるし、そもそも、それが巧みにできれば、すぐにでもプロとしてやっていける(物語で商売ができる)でしょう。

ご質問にあった「どう考えていけばいいのか?」ということで言えば「自分の心の動きに注目する」のが一つでしょう。

電車で「イラっとしたこと」とか「この人、素敵だな」と感じたこととか、日常生活をしていて自分が感じた心の動きをしっかり掴むことです(忘れないようにメモも大事。そのままネタになることもある)。

自分の心の動きが掴めるようになれば、少なくとも「自分と性格が同じ主人公」は書けるようになるでしょう。

もう一つは「他人との会話」にヒントがあります。カフェとかで盗み聞きにでもヒントがあります。

他人は、自分と違う考え方や感じ方をしています。

人間観の狭い人は、自分と考え方の違う他人を「どうせウソついてるんだろう」なんて考えてしまうかもしれませんが、本当にびっくりするほど人間はひとりひとり考え方や感じ方が違います。

感性の似た者同士の親友でも、違う部分は必ずあります。

人間に興味をもつこと、他者に興味をもつことは、物語を書く上で絶対的に必要だと僕は思います。

大勢の輪に入って話すのが苦手なら、遠くから観察するような能力でも構いません(そういうタイプの作家もいます)。

ですが、自分にも他人にも興味がない、つまり人間に興味がない人は作家には向いていないのではないかとすら感じます(まあ、これも例外を言えばミステリーがあるのですが)。

心理学のような本を読むことは、ムダではないと思います。

そこに「答え」はありませんが、心理学の知識がまるでないような人であれば、一度読んでみるのは有効でしょう。

ですが、大事なのは生身の人間との関わりでしょう。

新しい人間関係を無理につくらずとも、家族であれ、職場の人であれ、見方を変えてみるだけで発見があるはずです。

その発見は、自分にとっては「感動」になることも多いでしょう。

「ライターズルーム」では、僕がいちいち「近況報告」をしたり、意識的にでも雑談をしようとしたり働きかけたりしていますが、これもそういった意図からだったりします。

他人の話を聞く中での発見もありますし、自身の発信に対するリアクションで意外な発見があることもあります。発信しなければリアクションは起こらず、それは知らないままです。

「ライターズルーム」のメンバーの人は、どんどん発信してください笑

以上、「商業的に、エンタメとして面白くする」というご質問を分解して、いろいろ考えて、僕なりに答えてみましたが、日頃言ってることと同じだなとも感じました。

実は「ライターズルーム」のシステムに「どうしたらいいか」の答えがすべて含まれていると、僕は感じます(手前味噌を上げるではないですが、「面白いものを書けるようにどうしたらいいか?」を考えて出来ていたルールなのだから当然だとも思います)。

チームとして話したり質問したりできる仲間がいる(※プロデューサーもいる)のですから、遠慮せずに、積極的に自分から発信して、誰かの発信にリアクションもしてくださいと思います(これは「対話」です)。

くだらないことに見えるかもしれませんが、それが実は物語力を養うことに繋がります。

脚本に関しては「読む」「書く」のサイクルがあります。

悩んだり、迷ったりもしながら、量を書くことだけです(僕はスピードが大事と、よく言いますがスピードが上がれば量もたくさん書けます)。

今後、さらに良い方法があれば作りかえていきますが、現状でベストな形が「ライターズルーム」には既にあるのだから、もっと活用してくださいというのが「どう考えていけばいいのか?」の答えとして、お伝えしたいことです。

考えるてわかるのではなく、体に身につけて欲しいのです。そうでないと書けるようにはなりませんので。

緋片イルカ 2023.8.7

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