マンガと三幕構成④「ページの構成」(『マインドアサシン』の分析)(#37)

前回の記事では、コマ割りから、ビートを拾っていくことで、三幕構成をマンガにも応用していける可能性を考えました。

今回は、具体的に分析してみることで、実例として示します。

マンガのビート分析実例

小説ではページ数を基準にして分析していくので、この方法はマンガにも応用できます

分析につかう作品は、僕が好きで何度もとりあげている『マインドアサシン』です。

リンク先の「試し読み」から一話が、丸々読めるのと、一話完結型がとてもうまい作者さんなので、構成を考えやすいからです。

読んだことない方は、お読みの上で以下に進んで下さい。

設定回りのことなどはこちらの記事でとりあげてるので省略します。

ログライン:
マインドアサシンの奥森かずいは、
悩み相談にきた少女の記憶を消してやるが、
刑事によって少女は殺され、暗殺する。

第一話のストーリーを簡潔にすることこんなところです。
ストーリーのタイプは「水戸黄門」のような依頼者が表れて、解決する型です。

具体的なビートをみていきます。

書籍上では5ページ目が最初のページ、50ページ目が最後のページです。
以下は、書籍でのページ数として示します。

見開きごとに状況が変化していく感覚に着目してください。

5-8:プロローグとして設定の説明。扉絵、余白(イラストのみ)。

9:主人公の登場。頭をぶつける、子ども達に笑われるという動きの中でキャラクターを説明しています。物語の導入なのでインパクトになっています。またプロローグの暗殺者のイメージとのギャップもあります。

10-11:診療が終わってコヤタとの日常。「主人公のセットアップ」。です。見開きの最後のコマは「バン」という物音で、何かが起きたことを示しています。次ページへの興味をひきながら、これは最初の事件「カタリスト」でもあります。プロローグ部分を無視するなら、物語が始まって、わずか3ページで事件が起こっていることは注目しておくべきです。

12-13:少女の姿を見せる大きめのコマから始まります。追いかけてきた刑事との言い合うシーンは「ディベート」に相当します。少女と刑事の言い合いに、奥森先生が「初診です」と言うことで、状況が変わります。

14-15:少女の診察をしようとするが病気ではない。天然キャラの延長です。厳密にはアクト2「非日常」に入っていません。病院の外に出た刑事の思わくは「デス」を匂わせます。

16-17:奥森先生と少女の対話がメインです。もちろん内科としてではなく「精神と記憶に関する相談」です。少女の心の内を話させ、記憶を消してやることが目的の対話=闘い(「バトル」)が始まります。見開きの最後はコヤタについて触れています。

18-19:コヤタについての話は「ピンチ1」、第一話のメインストーリーは「少女の話」なので、コヤタの話はサブプロットになります。サブプロットに置くことでセットアップで紹介しきれなかった補足情報を説明しているとも言えます。さらに「記憶を消す能力」を実際に示します。これもプロローグで説明するだけでなく、きちんとシーンとして見せることは大切です。

20-23:少女が話し始める。奥森先生を信頼した少女が、自分の話を始めます(ビートの意義でいえば、主人公は「信頼を勝ち取る」という「バトル」に勝利したと解釈できます)。4ページつかって少女の事情、気持ちが語られます。この作品(この回)の重要なシーンなのでページ数をしっかりとっています。19ページの最後は、犯人を「ぶっ殺す」という少女に対して、幸せの意味を問う奥森先生でおわります。ここから次の段階の「バトル」と言えます。少女の説得、第2回戦です。

24-25:ページをめくると少女の反発するリアクションで「バトル」のトーンが上がります。わかっているけど、忘れられない少女に、奥森先生は「壊しますか? 記憶」と持ちかけます。先生が同じ立場だったら、どうするか?という少女の問いに「思いましたよ、昔ね」(これは何も説明していない一言なのに、多くを想像させる名セリフです)と答え、少女は記憶を消すことを了承。奥森先生の診察完了、目的達成であり、構成でいえば「ミッドポイント」です。全体のページ数の真ん中1/2、ミッドとしてもきれいな位置です。

26-27:奥森先生はコヤタとカレー。少女は友達とバイク。いったん、それぞれの日常に戻りました。少女の友人がこのタイミングで登場しているのは「ピンチ2」のタイミングです。このキャラクターはこれより前、たとえば「友達が少女を病院に連れてくる」などして、これより前で顔見せさせたら邪魔です。ストーリー上、刑事や、シリーズキャラであるコヤタより重要キャラではありませんから、このタイミングがベストです。この見開きは束の間の休息、次の見開きでは次の事件が起こります。

28-31:刑事の男が表れます。「フォール」の開始です。刑事は、すでに露骨に悪い奴としてセットアップされていますが、ここで裏の顔を表すやり方も可能です。どちらにせよ、少女によくないことが起こるのは予感できます。

32-37:見開きの右ページ(32)は刑事がナイフを手に襲うところまで、左ページ(33)は奥森先生とコヤタがテレビを見ているシーンです。ページを捲らせるのではなく、見開きの左右でつないでいます。ページを捲って次を知りたいという感覚は「ストーリーエンジン」でいうミステリーです。謎があって、ページをめくると答えがわかるというリズムです。一方、刑事が少女を襲うところはサスペンスです。「少女がどうなるか?」「助けは間に合うのか?」という興味です。見開きの左右が、襲うシーンと、テレビを見ているのんびりしたシーンとのギャップがコントラストになってもいます(悲鳴でつなぐのはベタなテクニックなので基本)。そして、見開きのおわり(33のおわり)では、奥森先生へ電話しています。「少女がどうなったのか?」を引っ張りつつ、奥森先生がかけつけ、彼女が死んだことを知る。ここで「プロットポイント2」です。

38-39:少女のことを思い出しているのは「ダーク・ナイト・オブザソウル」。奥森先生の感情的なリアクションであり、アクト3への繋ぎです。

40-47:ピアスを外し、手袋をしたアサシンとしての奥森先生が刑事の元へ向かいます。刑事との対決は、もちろんクライマックス「ビッグバトル」です。「犯人をぶっ殺す」と言っていた少女を諫めた、奥森先生自身が殺すのです。ここで「バトル」と「ビッグバトル」がリンクしています。アクションシーンはもちろん大ゴマです。

48-50:刑事を始末した後の、エピローグへのつなぎも、見開き内でつないでいます。ストーリー上、大きく切れているところで、ページを変えると、切れすぎるように思います。見開き内のつづきで、すっと日常に戻した方が流れると思います。少女の友人がピアスを私にくるエピソードが入るので3ページ使っています。

以上、ページ単位、見開き単位で構成をみていくことで、マンガにも「三幕構成」が応用できるのがお分かりいただけたかと思います。

上記の解説では、触れませんでしたが、会話の多いマンガだけに(それも病室という殺風景な場所での)、顔の角度、人物の大小、視線といったものがストーリーに合わせて変わっているのも分かると思います。

これは「構図」に関する記事で説明した通りです。

次回は、創作するときにビートをどう取り入れていくかという方法をご紹介します。

緋片イルカ 2020/12/19

この記事に関してこちらのラジオで話しております→ 【物語ラジオ】マンガと三幕構成(#2)(1/8公開)

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