映画『アベンジャーズ』(三幕構成分析#239)

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※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

【ログライン】

宇宙人種族・チタウリと共謀したロキによって四次元キューブを奪われた国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.の長官・ニック・フューリーは、ヒーロー達を集めて最強チーム「アベンジャーズ」を結成してキューブを取り返そうとするものの、ニックがキューブを軍事転用しようとしていることによる仲間割れ、狡猾なロキたちの空母襲撃によって、アベンジャーズは身も心も散り散りになり、空中分解の危機に瀕する。さらには地球人類滅亡を目論むチタウリが地球上に送った軍隊によって、マンハッタンの街は戦火に包まれる。惨状を前に再集結したアベンジャーズは一致団結し、この危機を救うのだった。

【フック/テーマ】マーベルヒーローが集結/チームワーク

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「ロキとチタウリの密約1」アスガルドを追われたロキは、流れ着いた異空間で遭遇した宇宙人種族・チタウリと共謀し、地球襲撃を画策する。オープニングイメージとして、これから迫りくる危機が提示される。

GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「研究施設襲撃」ロキ達によって国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.の研究施設が襲撃され、バートン、セルヴィグらが洗脳され、四次元キューブが奪われる。トップシーンの研究施設襲撃によって、アクションとしてのジャンルのセットアップが行われる。

want「主人公のセットアップ」:「施設破壊」崩壊した研究施設から命からがら抜け出してきたニックは、戦争状態を宣言し、アベンジャーズの結成に向けて動き出す。本作は、特定の個人を主人公とせず、集められた個々のヒーローたちが、この危機に直面してアベンジャーズという一つのチームへと成長していく過程が、主要なドラマとして描かれる。

Catalyst「カタリスト」:「研究施設襲撃」トップシーンの研究施設襲撃が、アベンジャーズ結成のきっかけとしてのカタリストである。

Debate「ディベート」:「ナターシャがブルースと出会う」「ニックがスティーブを説得」「トニー招聘」次々とヒーロー達を集めていくニック。この時点では皆、アベンジャーズ結成に消極的な態度を取る。

Death「デス」:「スティーブ、戦闘機で空母へ」S.H.I.E.L.D.に協力する決意を固めたスティーブが、コールソンと共に戦闘機で空母に向かう。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「空母発進」ブルース、スターク、ナターシャ、スティーブを乗せて、空母が発進。キューブ奪還に向かう。

Battle「バトル」:「ドイツにいるロキを発見」から「ロキ独房へ」までドイツにロキがいることを発見した一行はロキと対峙するも、軍隊を連れていないロキをあっさりと捕縛してしまう。そこにアスガルドからロキを説得しにきたソーが合流し、ロキの狙いが判然としないまま、空母の独房へと入れる。

MP「ミッドポイント」:「S.H.I.E.L.D.の目論見を知り激論」S.H.I.E.L.D.がキューブの力を使って軍事兵器を作ろうとしていることを知って、抑止力の是非について一同は激論を交わし、仲違いする。

Fall start「フォール」:「空母襲撃開始」から「コールソン死亡」まで仲違いしているうちに洗脳されたバートン率いるロキの軍隊が空母を襲い始める。爆撃を受けた空母のエンジンは大きく損壊し、墜落の危機に瀕する。ナターシャがバートンを洗脳から取り戻したものの、ブルース、ソーは空母から落下。スティーブとトニーによってエンジンは回復するが、ロキによってコールソンが殺される。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「ジェット機発進」スティーブ、ナターシャ、バートンはニックを無視して、キューブの在処に向かってジェット機を飛ばす。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「コールソンの死を悼む」コールソンの持ち物から出てきたキャプテン・アメリカのカード。コールソンの死を悼む中、スティーブらのジェット機が飛ぶ。

BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「チタウリの軍が襲来」
ロキがワームホールを開いてチタウリの軍をマンハッタンに送り、人間を襲い始める。惨状を前に、再集結したアベンジャーズは一致団結して、チームワークでこの困難に立ち向かう。際限なく送り出されてくるチタウリの軍に手こずるが、洗脳に抗うセルヴィグから「ロキの杖の力を使ってワームホールを閉じることができる」と聞く。

Twist「ツイスト」:「核ミサイル発射」
ニックの上官達が、事態収束のためマンハッタンに核ミサイルを発射。

Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「作戦終了」
スタークは発射された核ミサイルを掴み、ワームホールに侵入してチタウリの母艦に投げ込む。同時にナターシャがワームホールを閉じ始め、アーマーはパワー切れとなるが、間一髪でスタークもワームホールから抜け出すことに成功する。

Image2「ファイナルイメージ」:「ニック、上官と会話」
アベンジャーズの存在に対する世論が揺れ動いている中、ニックは上官に向かって必要性を訴える。再び終結の日が来ることを予感させる。

【作品コンセプトや魅力】

アベンジャーズシリーズの第一作目。アイアンマン、ハルク、ソー、キャプテン・アメリカに、ブラックウィドウ、ホークアイといった新しい仲間を加えて結成した「アベンジャーズ」が、ソーの弟・ロキと宇宙人種族・チタウリの軍に立ち向かい、地球を救うまでが描かれる。アクション満載で繰り広げられるスーパーヒーローの集結劇というロマンに最後まで胸が熱くなる。

【問題点と改善案】(ツイストアイデア)

 淡々としたアクションムービーとしての側面が強い本作において、彼らが感情をあらわにする数少ないシーンが4次元キューブの軍事転用について明らかになった場面である。第二次世界大戦を経験したスティーブ、かつて兵器を製造していたスターク、力による破滅を知るソーといった「力を持つもの」が、核抑止力について議論するというコンセプトは興味を引くものがあるが、ここが映画として良いシーンになっているかはかなり疑問だった。
 というのも議論の内容にフォーカスするわけではなく、ただヒーロー達を仲違いさせる方便としてこの話題を使ったに過ぎない印象で、不必要なテーマ性を与えたように感じた。実際その後、委員会の決定によって勝手に核ミサイルがマンハッタンに打ち込まれる場面。その論点を出しておいてそんな易々と打つのかというのも引っ掛かったが(それはソーの言う人間の愚かさを体現しているとも取れるが)、それをトニーがワームホールの向こうにいるチタウリに向けて投げ捨て、ワームホールを閉じれば解決と言う終わり方は核廃棄物の処理問題などを彷彿とさせ、果たしてそれでハッピーエンドとして良いのかという意図しないノイズを生じさせてしまってたようにも思った。
シンプルに、我の強いヒーロー達が自己を重んじて仲違いするが、その隙を突かれて強大な的に打ち負かされる、という本作よりはちょっとチープ目な展開でよかったように思う。そうすると問題はロキになる。ロキについて、悪役として小物すぎる。『マイティ・ソー』でも十分にセットアップされなかったことに原因があり、アベンジャーズが立ち向かうのに十分強大な悪役たり得るのかという部分はずっと疑問だった。実際アベンジャーズチームの大きな損失といえば、コールソンの死くらいである。マーベルシリーズの順番としてもアベンジャーズを描くまでに、ヴィランのオリジンストーリーを一本描く必要があったのではないか。

【感想】

「好き」3「作品」3「脚本」3
 全体としてコンセプトほどの面白さがなかったように感じた。マーベルヒーローを集めたら最強のアベンジャーズができると思ったのに、実際には仲違いしてしまってロキの前に1度破れるも、どうにか再度団結して敵を倒すという大枠こそ期待したものだったが、中身はやや期待を下回った。このメンバーを力で打ち負かすだけの強大な敵か、派手な仲間割れを描くことで「個ではなくチームワーク」というテーマ性をもっと前面に打ち出せたように思うが、それは今後のシリーズで達成するテーマということなのか。単体作品としては消化不良でも、後から見るとシリーズ全体を通して必要なシーンだったということもあると思うので、引き続きマーベルシリーズ観ていきたいと思う。きっと後から見て「俺らが最初集まった時って、まあなんか、あんなぐらいだったよな」となるくらいのエピソードという印象。
 プロットアークだけで、キャラクターアークは特にない。チームとしてのアーク(集合→離散→再集合)を見ていくことになる。それぞれの作品ですでに人間的な成長を遂げているヒーローたちが集結したため、葛藤する未熟なヒーローは描かれず、ロキに「粛々と」立ち向かっていく姿が描かれていた。人間ドラマも欲しい人にとっては物足りなさを感じる一方、見せ方としての潔さも感じられた。本作はアクションで、テーマ性や人間ドラマを全面に打ち出さなくとも、戦っている彼らと美麗な映像を見たい観客のニーズには十分応えている。キューブの軍事利用の話は、そんな成熟した彼らを仲間割れさせるための手札だったのかもしれないが、前述の通り不必要なテーマ性を与えてしまっていて、片手落ちだった。

(さいの、2025.08.23)

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