「赤い血、青い肌」

女、3人寄れば、うるさい。ミカまで入ればちょっとした宴会だ。

期末テストは終わった。
自由な時間。

「テスト中に太ったかも…。」
わたし達から見れば痩せこけたミカが言った。

「はあ? ケンカ売ってんの?」
ショウコが言った。

「嬉しいんだよ。私、もうちょっと太りたいから…胸だってもっと欲しいし。」

「たしかに、ミカは太った方がいいかも。」
サチコが言うと、ショウコが言った。

「サチコぐらい太った方がいいよ。」

「何それ~?」

「うるさい、この幸せ太り!」

わたしはパックジュースのストローの先を噛み曲げて、キリンのようだと思った。

『自由は束縛が無くなったと勘違いしている状態に過ぎない』
という言葉だけが浮かんで、誰の本に書いてあったか思い出せなかった。

あと1日終了式に来れば、冬休みが始まる。
それはとても楽しみだ。楽しみだからこそ始まらないで欲しい、とわたしは思う。始まらなければ終わりもしないのに…。

ミカは痩せすぎていて太りたいと思っていて、サチコはぽっちゃりしてるのが可愛いのに痩せたいと思っている。

人間は、自分にないものを求めるもの…

「何、深刻な顔してんの?」
ショウコがわたしに言った。

「そんなことないよ。」

「せっかくテストが終わったのに、そんな辛気臭い顔しないでよ?」

「うん。」

「あんた、顔、青くない?」

「え?」
3人がわたしの顔を見る。わたしは自分の顔が紅潮していくのを感じた。

「あ、赤くなった。」
ミカが言った。

「青の反対って赤なんだ!」
唐突にショウコが言った。

「何それ?」

「いや、ふと思ったんだけどさ、白と黒って逆じゃん?」

「うん。」
3人ともうなずいた。

「じゃあ、青の反対は?」

「赤。」
サチコが言った。

「ハートは赤だけど、失恋するとブルーって言うもんね。」
ミカが言った。

「血の色が赤、死んだ人の顔は青白い。」

わたしは言ってから、しまったと思った。

訃報はショウコの思いつきのように唐突に届いた。祖父はもう90を超えていたの、いつその時が来てもおかしくなかった。けれど、あの時が最期になるなんて思いもしなかった。

最期なんて、いつも後から気付くものなのかもしれない。

それに、最期だってわかっていたとして、何か言うべき言葉はあったのだろうか?

わたしの話を聞いて、最初にショウコが言った。
「死の反対は、生きることだよ。」

「そうだよ。生きている人が頑張らないと!」

「大丈夫、私たちがついてるよ?」

3人が、それぞれのわたしに言うべき言葉を見つけてくれた。

「頑張ることの反対って何?」
わたしは言った。

沈黙。

「寝ること?」
サチコが言った。

「あんたは寝てばっかだから太るのよ?」

「ひど~い。」

「ちょっと頑張ることじゃない?」
ミカが言った。

「頑張るの反対が、ちょっと頑張る?」

「ミカはそんなんだから、そんなやつれるのよ?」

「そんなこと言うなら、ショウコはどうなの?」

「わたし…。う~ん…。涙?」

ショウコはわたしを向いて言った。

「つらいときは、泣いてもいいんじゃない?」

わたしはショウコの目が痛くて俯いた。

「あんたは…? あんたにとっては何? 頑張るの逆…?」

「…わかんない…。」

わたしにはわからない…。
まだまだ頑張りが足りないのかもしれない。
頑張った果てに、それは見えるのかもしれない。

(「赤い血と青い肌」おわり)

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