「じゃあ、また来年。」
終了式の日、友達とはそう言って別れた。
それは新学期まではもう会わないだろうということだ。
わたしもそう思って言った。
「よいお年を。」
冬休み中も遊んでいる子達はいるらしい。
スキーに行く計画もあった。
「冬休みって何してる?」
「なんで?」
「いや、スキー行こうと思ってさ。30日からなんだけど…空いてる?」
彼女達は、すでに日時の決まったスキー旅行の話を、わたしのところに持ってきた。
「ごめん、年末は親戚集まるから家にいないといけないんだ。」
「そうなんだ。わかった。」
「うち、そういうとこだけ変に厳しいから。ごめんね。」
わたしは、勝手に家族を厳しい家に仕立て上げ、
歓迎されない誘いを断るために謝った。
まあ冬休みになれば、一人ゆっくりできると思ったら、それも許せた。
友達がスキーに行っている日、わたしは家で中学生の妹とゲームをしていた。去年と同じように。
何年も前に出た「人生ゲーム」の中でお金が貯まるほど、どこかむなしくなる。
「お姉ちゃんと一緒だね。」
「はあ?」
妹はわたしの車のコマを指さした。
わたし一人を表すピンがささっていて、隣に恋人をのせる差し穴が空いていた。
「お姉ちゃん、ゲームでもいつも恋人がいない。」
「は? 超失礼!」
「だってほんとでしょ? 彼氏がいたらこんな年末に私と人生ゲームなんてしてないでしょ?」
「あんただっていないでしょ?」
言ってから、その言葉姉としてどうなのかと情けなく思った。妹の答えがさらにわたしをたたきつけた。
「いるもん。」
「うそ? あんたまだ中1じゃん。」
「今時、小学生でもいる子はいるよ?」
「…うそ?」
「うそじゃないよ。」
妹は彼氏と撮った携帯のプリクラを見せて言った。
「お母さんには内緒ね?」
男の子と付き合ったことはなくても、好きな人ならいる。
隣のクラスのタジマくん―下の名前は知らないは、眼鏡をかけていて、運動は苦手で勉強はそこそこできる(と思う)。いつも図書室で一人、文学全集をじっと読んでいる。彼の姿を見て、わたしに似ている、と勝手に思っていた。
適当が嫌いなわたしは図書委員の仕事を生真面目にこなすため、週に2日、貸し出し口の席に座っている。
タジマくんは、ときどき顔を上げて柱の時計を見る。その時、少し下がった眼鏡を細い人差し指で押し上げるのが彼のクセ。
わたしは俯きながら視界の端で彼の動きを見ていて、彼が本に目を戻すと、再びわたしは教室全体を見回すようにして彼を視界に入れる。
閉館の5時になると、タジマくんは荷物をまとめる。本を借りて帰ったことは一度もない。
やがて知らないクラスの髪の長い女の子がやってきて、彼を呼んだ。
「タジマくん。お待たせ。」
「終わったの部活?」
「うん。帰ろ。」
二人は手をつないで帰っていた。
「お姉ちゃん? 早くサイコロ振ってよ?」
「あ。ごめん。」
わたしはサイコロを強く握って気持ちを込めた。
カラ、コロコロ。
「やった!」
わたしは自分のコマをとって軽快に6マス進めた。
(了)