小説『デザイン』(825字)

 試験官には髪の毛が一本入っている。わたしのものだ。
 産婦人科医は目を細めて確かめると、
『ご主人はどうします? 最近では精子から受精させる方もいらっしゃいますけど』
『セイシ?』
 言葉の意味がわからなかった。
『むかしは卵子と精子が受精して赤ん坊が生まれていたんです。験担ぎ(げんかつぎ)というか、わざわざ精子からDNAを取り出すのを希望する方がいるんだ。わざわざ卵子を取り出す女性まではいませんけどね』
『取り出すって、どうするんです?』
『中枢神経に電気刺激を与えて射精を促すだけです』
『なんだか痛そうですね……』
『いえ、むしろ気持ちいいらしいですよ。私も経験はありませんが、中には刺激がクセになって中毒みたいになってしまう人もいるらしいです』
『うーん、やっぱり怖いですね。夫に確認してみます』
『まずはこの髪から卵子をつくるので、旦那様のは次でかまいません。次回までに、今から送るシートを記入しておいてください』
 マインドネットを通して、わたしの頭に〝デザインシート〟が送られてきた。
 ファイルを開くと、たくさんの質問事項が書かれていて、2560番まであった。
1. ご希望の性別は? 男・女・その他
 その他の場合、具体的にご記入後、医師にご相談ください。
2. 成人時の身長・体重は? (  )cm ’(  )kg
 成長環境によって30%ほどの誤差が生じます。
 それから肌の色、瞳の色、髪色、髪質、体毛の濃さ、爪の形、耳の形、耳垢のタイプ(ウェットかドライ)といった細かい質問が続く。女の子にはトップとアンダーを記入して、胸のサイズまで指定できる。
『これ、すべて答えなくてはいけないんですか?』
『ランダムデザイン機能もありますよ。その結果のイメージ容姿も確認できますので、気に入らなければ改めてデザインしてください。ただし、受精後や誕生後の変更は別料金がかかりますのでご注意下さい』
『わかりました。よく考えてみます』
『はい、では次回の来院、お待ちしております』
 わたしは頭を下げて診察室を出た。

(了)

緋片イルカ2019/04/22

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