「猫とプライド」

 どうやら俺は捨てられたらしい。ダンボールに入れられて数時間。眠ってしまった。目が覚めたら知らない場所に居た。ダンボールには、俺の他に赤い毛布が一枚、それと紙が貼られている。
「誰かこの猫を助けて下さい。」
 拾って下さいなんて書く前に、捨てないでくれればいいのに、というのは捨てられる身のエゴなのかも知れない。俺にも、捨てられる理由があったのかもしれない。
 まさか俺が人間の言葉が理解できるのが、バレてしまったのか。いや、そんな訳ない。俺は「猫は猫らしく」をモットーに生活してきた。猫について、可能な限り、というより人間が調べた範囲について知らない事はない。人間が考える猫のイメージに合致していたはずだ。何より俺は人間の言葉を話せないのだ。
 他に何か理由はないだろうか。かわいくない。それもありえない。主人は俺をペットショップで選んだのだ。第一印象、つまりは外見のかわいさで俺を選んだのだ。飼われてからも、主人への服従は忘れなかった。猫の範囲内でしつけを守り、他の猫ならしてしまうような床のキズや、コップを割ってしまうようなことも一度もしなかった。適度なわがままもしてやった。完璧な猫だったはず。まあ、強いて言えば、こたつの主人の席に座ることがあったな。あの席は日当たりもよくて、ついやめられなかった。
 思い出すと今の寒さが身にしみてきた。この師走のじきに毛布一枚はないだろう。猫があったかいところ好きなのは知っているくせに。エアコン、いやせめてホッカイロを入れるくらいの気は遣ってもらいたいもんだ。毛布がお気に入りの赤いのだったのは、ほめてやってもいいんだが。
 毛布一枚でもくるまると意外とあったかいもんだな。さて、さっきの続きだが、主人の席に座った事は、捨てられたことに関係ないはずだ。怒られたのは一度だけ。あれは確か主人の機嫌が悪かったときだ。電話でなにやら喧嘩して、泣いて、起こって、俺に八つ当たり。
 ますます、俺が捨てられた理由が分からなくなってきたぞ。どうして俺みたいな最高の猫を捨てる気になったもんだろうか。経済面。いやいや、それもないな。捨てられる一ヶ月前から、キャットフードの質が良くなった。毎回少しずつ残して、意思表明したのが効いたのだと思っていた。腹の減りを我慢した努力のかいだと思っていた。でも実は最後の一ヶ月だから、イイモノを食べさせてくれたとか、考えすぎか。小食になって、やせていたのを気にしてたからそのせいだろう。
 ところで、今日のエサはどうしたらいいのだ。何もない。捨てられた理由を考えている場合じゃないぞ。外をのぞいてみた。寒い。人気はほとんどない。電線の上にカラスが居る。外に出たらカラスに襲われそうだ。寒い。とりあえず毛布に戻ろう。
 まだ外の冷たさが体に張り付いてる。どうしたもんかな。このままじゃ凍死か餓死か、時間の問題だな。俺が助かる道はただ一つ。誰かに拾われるだけ。皮肉なもんだな。故意に服従し飼われることで、人間を征服した気になっていたが、今の俺の生死を握っているのも人間とはな。からだが、もっと器用な体さえあれば人間なんかにゃ負けないのにな。
 やっぱり泣かなきゃだめかな。これだけはやりたくなかったんだよな。猫になりさがるみたいで。でも、鳴いた方が助かる可能性は上がるしな。そういえば初めて鳴くな。もしかして主人は、鳴かないのが気に入らなかったのかな。それなら納得できる。鳴かない猫なんてかわいくないもんな。
 もしそうなら捨てられてよかったな。俺はあくまで飼われてやるんだ。鳴いてまで飼われたくはない。答えは出たな。鳴いて助かったところで、俺はそんな奴に飼われたくはない。さあ、人間達、猫の死にざまとくと見よ。
(了)

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