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『Luck Stealer(ラックスティーラー)』かずはじめ(読書#23)

このマンガにシビれた……

はじめに前置きしておきますが、僕は作者かずはじめさんのファンです……。

以前に記事に書いたとおり『MIND ASSASSIN(マインドアサシン)』は、『藤子・F・不二雄SF短篇集』と並んで、ベストマンガですし、かずさんのマンガはぜんぶ好きだし、すべて持ってます。

けど、好きなものこそオススメしづらいってことないですか?

冷静な判断ができていないと思われてしまうし、友達だったら気を遣われてしまう可能性もあるし、好きだということは言えても「読んで!」とはなかなか言いません。

それを踏まえても、ラックスティーラーは「読んで!」と言いたくなります。個人的には「かずはじめ集大成」ってかんじでした。

過去のかずはじめ作品と比較

かずはじめさんは「読み切り」がとても上手い漫画家さんだと思います。

「読み切り」は一回の話の中で「事件が起きて、解決して、変化する」という、まさに当サイトでも連載している三幕構成の作り方です。

マンガ連載は人気がある限り続くと想定すると「変化してはいけません」。これはサザエさんやドラえもんのようなマンガで時間が停止しているのを想像してもらえばわかると思います。「波平が死んで、家族がその死を受け止めて前向きに生きていく」なんて話は、ありえません。時間が停止しているということは「主人公が成長しない」とも言えるのです。

だから『マインドアサシン』のような一話完結(読み切り)型の話ではゲストキャラクターが変化していきますが、主人公は変化しません。

書き手として、一話完結型はエピソードを考えるのがとても大変です。『マインドアサシン』では週刊連載でよく、あんなにいろんなエピソードを考えられたなと思いますし、単行本3巻分で終わってしまったのも仕方がないとも思います。4巻、5巻に収録されている話は、掲載誌を移って、じっくりと時間をかけて描けたものだからか、読み応えがあります。そこでは主人公の過去が明かされる回がありました。一話完結型ではなかなか主人公の過去を語るのが難しいのですが、その過去によって主人公への愛着が増すし、もっとつづきを読みたいと思いますが。ですが『マインドアサシン』はそこで終わってしまっています。

一話完結型のむずかしい点がもう一つあります。主人公が大きな目的(「海賊王になる!」みたいな)を持っていないため、ひっぱりづらいのです。
毎回、ゲストキャラを考えるのは大変だし、パターン化してしまうと、飽きられてしまう危険もあります。

だから一話完結型でつづく作品は、サザエさんやこち亀のようなキャラがはっきりしているものか、『美味しんぼ』のようなうんちく系の話になりがちです。


『明稜帝梧桐勢十郎』では、ジャンプらしいバトルで引っ張っているふしがありました。学園モノであるのでイベントに事欠かないという作りやすさもあったかと思います。けれど、ポイントは主人公の梧桐勢十郎が頑なに変化しないところにあったようにも思います。

その後の二作品、
『鴉MAN』

『神奈川磯南風天組』

では、魅力的なキャラクターコアを持っていながら、変化が早すぎて物語の勢いが弱くなってしまっているように感じました。主人公が成長すると物語はいったん完成して、新しい問題が必要になるのですが、それが不十分だと迷走しがちなのです(個人的には風天組のキャラとか大好きなんだけどな~)。

そして『ラックスティーラー』に到ります。月刊誌のジャンプSQでの連載だったそうです。
僕はファンと言いつつ、このマンガが連載されていた頃(2005年)、大人になっていてマンガから離れてしまっていて、すぐに読んでませんでした。

第1巻をKindleでダウンロードしたのが去年。

「まあ、面白いな~」

というのが率直な感想でした。これは完全に間違いでした。

お願い。読むなら5巻までは読んで!

『ラックスティーラー』は運を盗むという特殊能力をもった殺し屋の話です。『マインドアサシン』が記憶を消して暗殺する能力と似ています。

主人公の性格は他人に心を開かない元ヤンキーだけど、娘にだけはデレデレ。『梧桐勢十郎』や『風天組』にも近いものを感じました。

第一巻は、かずはじめさん得意の一話読み切り型で、依頼を受けた主人公が「運」を盗んで暗殺をする。

運を盗まれた人間は、不慮の事故などが起こり死んでしまう。だから殺人の証拠も残らない。

盗んだ「運」は、生まれつき運を作れない病気の娘に分け与える。つまり、主人公は、娘を生きのびさせるために、殺し屋をやっているのです。

この設定だけでも、とても面白いですが、やはり悪い奴を殺していくだけでは、またマンネリに陥りかねません。

しかし『ラックスティーラー』のかずはじめさんは一味、違いました。

第2巻ぐらいから全体のテーマが見えはじめ、第4巻から主人公の過去が語られます。
これには『マインドアサシン』のやりのこしを、ここでやりきったような感動がありました。

過去については、先入観を持ってほしくないため一切、触れないでおきます。

回想編は5巻で終わります。三幕構成としていうなら明確な「ミッドポイント」があります。

去年までの僕みたいに、前半しか読まずに、この作品を評価している人は、もったいないと思います。


(↑髪を下ろした主人公もかっこいい)

回想編の後は、ぐんぐんと物語の本当のテーマに入っていきます。

やや世界観が変わったと感じる人もいるかもしれませんが、きちんと伏線はあったし、明確な「ミッドポイント」を経ているので、流れに違和感ありませんでした。

僕は一冊だけ読んで寝るつもりだったのに、全巻ダウンロードして読破してしまいました。

ちなみに、その後に出てくる少年殺し屋は『鴉MAN』っぽくてファンとしてもツボです。
(↓この少年)

全10巻で一つの物語

一話完結の巧いかずはじめさんが10巻分をつかって、じっくりと一つの物語を書いたという読み応えでした。

合う合わないは人それぞれですが『マインドアサシン』を面白いと思ったことがある人は、ぜったいに読んで損はないです!


↑Amazonがおすすめしてくる「(残り)全巻まとめ買い」初めて使いました笑 ※個別に買うより、ちょっとだけポイントが付きます

Luck Stealer 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
↑リンク先の「試し読み」から第一話がまるまる読めます。でも、ほんと5巻までは読んでください!笑

緋片イルカ 2020/06/27

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