「キャラクターの感情動作についての考察」(キャラクター論44)

以下は、過去に映画の勉強会で用いた資料です。HDDから発見したので公開しておきます。映画を初見でプロットポイント1、2、ミッドポイントがつかめるぐらいに三幕構成を理解している方に向けています。初心者の方はどうぞこちらからご覧ください。

キャラクターの感情動作についての考察
会話とは、「言語」を用いた「発信」と「受信」の情報やりとりである。
同様に、目線やしぐさといった「非言語」を用いたやりとりもある。
これらの表現を描くことが、キャラクターを描くことに繋がる。
分類すると以下のようになる。

言語(セリフ)

非言語(動作)

発信(アクション)

言語発信

非言語発信

受信(リアクション)

言語受信 非言語受信

キャラクターは、すべてのシーンにおいてアクションを発信し、他人や状況から情報を受信してリアクションをとっている。その中には「店内ですか?テイクアウトですか?」といった質問に答えるだけの単純動作もあるが、感情によって動かされる動作を感情動作と呼ぶ。どういう時にどういう感情動作をするかによって、観客はそのキャラクターの性格や価値観、そして変化や成長を理解する。それらに共感ができればキャラクターの成長に感動するが、リアリティを欠いていた場合は作り物の人形で騙されたように感じて作者に怒りをぶつける。
 リアリティを持たせられるかどうかには、以下の4つの要素でバランスを保てているかが重要で、脚本家が必ず考えなくてはいけない要素である。

「言語傾向」……発信・受信時に言語にどれだけ寄るか
 例えばマナーの悪い人を注意する時(発信時)に、丁寧な言葉を使って止めるようにお願いする人もいれば(言語的)、イライラした態度で察するように促す人もいる(非言語的)。
 あるいは上司から注意を受けた時(受信時)に、「すみません」と声に出して謝るか(言語的)、肩を落とし体を小さくして頭を下げるか(非言語的)といったことだけで表現するか。キャラクターのアクション、リアクション両方においてセリフを選ぶか、動作(ト書きによる)をさせるかといった行動原理に関わる。一般的には女性のが言語的反応をする傾向が強い。もちろん性格や年代、価値観によって変わるのは、これ以降の項目すべてにおいても同じである。時々、「セリフではなく画で見せろ」という脚本論を盲目的に信じて、セリフを過小評価する人がいるが、そのキャラクターの、そのタイミングによって、きちんと選ぶべきである。よく話すキャラクターが急に黙れば怒っているのが伝わるように、寡黙なキャラクターが怒鳴れば、それほどに怒っているというのが伝わる。いつでも画で見せるのがベストとは限らないのである。

「脳内辞書」……言語発信の言葉の選び方、表現の仕方に関わる
 言語での表現において、どういった言葉を選ぶかは、そのキャラクターの職業や立場、育ち、知識、年代、地域、価値観によって変わる。
 例えば母親というキャラクターが癇癪を起こして暴れる子供を注意する時、弁護士のキャラクターであれば、子供が暴れてモノを壊したことを指して「大人の社会だったら器物損壊で○○円の罰金なのよ。あんたに払える?」といった言い方をするかもしれないし、看護師の母親であったら「言うこと聞かないと痛い注射しますよ」と言うかもしれない。ユニークな母親であれば「あんまり泣いていると怖い○○が来て食べられちゃうよ」と脅すかもしれないが、その○○に入るもの自体に、文化的な背景が出る。脚本上ではセリフにダイレクトに関わる。
 脳内辞書は言語発信の際に用いられる言葉の選び方であり、そもそも子供を注意することせず部屋を出て行ったり、言葉もなくひっぱたくような場合は次の「反応動作」にあたる。

「反応動作」……小さな癖、リアクション、習性といったものに関わる
 「脳内辞書」が言語表現の違いであれば、「動作」は非言語表現での具体的な違いである。簡単な例では、嬉しい時にニコっと笑う人もいれば、嬉しいのを隠して澄ました顔をしている人もいる。不安な時に無口になったりタバコを吸って落ち着こうとする人もいれば、貧乏ゆすりをしたり、ウロウロと歩き回ったりする人もいる。これらは当然、脳内辞書と同じようにそのキャラクターの背景が反映されるのだが、それとは別に感情的なレベルを考慮しなくてはならない。例えば「イライラ」程度であれば舌打ちをするだけのキャラクターでも、「ムカっ」とくればモノに八つ当たりするかもしれないし、「キレた」時には突然、相手を殴り出すかもしれない。これらのリアクションによって、そのキャラクターの感情や変化を見せることが重要である。素人の脚本で時々あるのが、悲しいことがあるとすぐに泣き出すせいで情緒不安定なキャラクターに見えたりするのである。
 どのタイミングでどういった、リアクションをとるべきかは、次の「キャパシティ」に関わる。

「キャパシティ」……例えばショックなことに対する我慢強さ等に関する
 辛いことがあるとすぐに泣き出すキャラクターが幼稚や情緒不安定に見えるように、辛いことが続いても大木のようにじっと黙っているようなキャラクターは我慢強く見える。これらはそのキャラクターのストレスに対するキャパシティの大きさに関わる。(※ただし注意しなくてはいけないのは「キャパシティが大きくて許しているのか」、「内心はすごく怒っているがリアクションが弱いために寡黙に見えるのか」、「ただ無関心でストレスを感じていないだけ」なのかとった違いをきちんと描くこと)
 キャパシティの大きさは、そのキャラクターの人生経験に根ざす深いものである。例えば戦争経験がある人にとっては小さな暴力はそれほどショッキングではないが、「親父にもぶたれたことない」人にとっては軽いビンタでもショックになる。
 キャパシティはそのキャラクターの価値観とは全く関係がない。「どんな理由があっても犯罪はいけない」という価値観を持っている人が、自分が貧しくなった時に他人から盗んでしまうことで、価値観がキレイ事に過ぎなかったことが証明される。
 あるいは、仕事や友人関係ではとても寛容でキャパシティの大きいキャラクターが、ことに娘のことになると、キャパシティが小さくなるというケースもあるし、特定の部分にだけ過剰な反応を示すことでトラウマを持ったキャラクターを描くこともできる。
 キャパシティは、キャラクターの変化に関わるとても重要な要素でもある。長くなるが重要なことなのでその関連について示しておく。三幕構成のプロットポイントによる時間配分によって、全体にメリハリをつけること以上に、キャラクターの変化を描くことが重要である。変化とは、アクト1で主人公が問題を抱えていて、アクト2の非日常が主人公に変化を強いる試練となり、アクト3ではその変化や成長が証明されることである。この内面での三幕構成がプロットポイントと一致している時に、人は感動や面白さを感じる。この変化が描かれていない構成は、上っ面の三幕構成にしかならない(※厳密には物語には「欠乏の解消」と「悪事の解消」の2種類があり、後者では主人公の変化や成長は必要としない。ただしその代わりに驚きやオチが必要になる)。
 さて、この変化とキャパシティの関連をみていくと、アクト1での主人公が問題を抱えている状態とは、キャパシティがいっぱいになっている状況である。それまでの経験で得たものでは対処できない問題に直面していて(直面していることに気付いていないパターンもある)、変化・成長をしなくていけない状況にあることである。そのため、主人公はPP1に入る前に一度、感情的な行動をとる場合が多い。そしてアクト2での試練、経験を経て、もう一度、アクト1で直面していた本質的な問題と向き合い(=PP2)、ほとんどの場合が成長したことを証明する。変化とは、キャパシティいっぱいの状態になっていた主人公が、アクト2という経験を経て、成長することである。

4要素のまとめ
 以上が、キャラクターの4要素に関する説明である。これらはキャラクターの設定や背景、性格といったこととは別のことで、キャラクターを動かす際に守らなければいけないルールのようなものである。将棋のように、駒に決められた動き方を守らなくてはならないし、「成った」時の変化によって、キャラクターの変化・成長が見せられる。同じような動き方をするのはキャラがカブってしまっているのである。4要素に統一感のないまま書かれたキャラクターはリアリティに欠き、観客を興ざめさせることは言うまでもない。
以上

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