一人称小説におけるリアクション描写について

過去に「描写」についてシーンの構成要素について書きました。
これらを合わせて一人称小説のリアクション描写について考えていきます。

シーンの構成要素は「セットアップ、イベント、リアクション」でした。
過去の記事で、
「セットアップ」朝早く畑仕事している桃太郎
「イベント」持っていた鍬を民家に放り込み、主人が怒ってでてくる。
ということあらすじを書きましたが、この続きで、桃太郎視点の一人称小説しての描写を考えてみます。

そもそも描写には以下の要素があります。

1:動作:「僕は彼女の手をとって全速力で逃げ出した」のような身体動作。

2:反射:「男の怒鳴り声で体が硬直した」のような無意識に起きる反射。

3:感覚:「耳をつんざく怒鳴り声を聞いた」(聴覚)、「彼女の手はほんのり冷たくて気持ちよかった。」(触覚)など五感による感受表現。「空は雲一つない青だった」などの情景描写も一人称では視覚表現に含まれる。たとえば目隠しされていたら、情景描写は入れられない。

4:思考:「やばい、このままでは殺される」のような、起きている状況に対する分析や判断。

5:感情:「ああ、嫌になる。どうして僕はドジなんだ」など感情的な状態。

このうち1の動作と、3の感覚のうち視覚、聴覚(嗅覚は微妙)だけが客観描写となり、三人称視点で使えるものです。脚本のト書きに書けるものも同じです。
4の思考と5の感情などは厳密には分けられない場合も多くありますので、合わせて内面描写と呼んでしまってもかまいません。

これらの描写を並べていきます。

「誰だ! こげなもん放り込んだ、うつけは!」
鍬が入った家から声がした。脚が硬直する。チラっと彼女の方を見る。彼女は僕の目を見て頷いた。逃げようと言ってるのだ。
僕は彼女の手をつかんで走り出した。彼女の手はひんやりと冷たい。川で洗濯をしてきた女の手だ。
胸が苦しいのは走っているからだけではないのだろう。彼女の髪が揺れるたび蜂蜜のようなあまい香りがする。ああ……好きなのだ。
空は雲一つない青空だった。

要素に分析すると以下のようになります。

「誰だ! こげなもん放り込んだ、うつけは!」(イベント)
鍬が入った家から声がした。(聴覚)
脚が硬直する。(反射)
チラっと彼女の方を見る。(動作)
彼女は僕の目を見て頷いた。(視覚)
逃げようと言ってるのだ。(思考)
僕は彼女の手をつかんで走り出した。(動作)
彼女の手はひんやりと冷たい。(触覚)
川で洗濯をしてきた女の手だ。(思考)
胸が苦しいのは走っているからだけではないのだろう。(思考)
彼女の髪が揺れるたび蜂蜜のようなあまい香りがする。(嗅覚)
ああ……好きなのだ。(感情)
空は雲一つない青空だった。(視覚)
僕は立ち止まった。(決断動作=イベント)

主人公の決断動作は新しいイベントとなり、連鎖的に次のシーンへとつながっていきます。

僕は立ち止まった。
「結婚しよう」
「え?」
「いやか?」
彼女が目をそらした。
「いや……いやでねえけど、なして急に」
「今しかない、そう思ったんや」

民家の人が怒るという外界で起きるイベントと、リアクション→決断動作という主体的なイベントによって、ストーリーは進行していくのです。

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