「物語分析会」では対象を「小説」と「映画」を隔月に扱うようにしています。
イルカが脚本を仕事にしているので、当サイトでは「映画」「脚本」からの視点が多くなってはいますが、「小説」についても取り組んでいるということが前提としてはあります。
ですが、僕だけでなく、小説家を目指す人には「映画」が、脚本家を目指す人には「小説」を学ぶことには意義があり、相乗効果を生むと考えてもいます。
まずは、その点について説明いたします。
脚本家が「小説」を学ぶ意義
「基礎的な文章力」
脚本家といえど、プロットなど「基礎的な文章力」を求められるので映像作品だけ見ていればいいというものではない。
「原作への分析力」
映像化では「原作モノ」が圧倒的に多い。小説にビートに当てはめる力は養っておいて損はない。この点では「マンガ」も同様なので、良いタイミング、良い題材があれば「マンガ分析」も検討する。
「物語力の強化」
映画のように構成や演出(音楽や役者、ショットなど)の影響が少ないい分、小説の方が「物語としての強さ」が求められる傾向にある。脚本的な技術に紛れない、物語力を強化する狙い。
「小説出版の可能性」
仕事の枠を「イス取りゲーム」に喩えるなら、脚本の仕事より小説出版の方が「イス」が多いのでデビューの可能性は高い。どちらかに限らず両方書ける方が有利なのは言うまでもない。小説からデビューして映像化する道もある。オリジナル脚本をノベライズすることもある。
小説家が「脚本」を学ぶ意義
「映像的な描写力」
小説しか書かない人の中は内面ばかりに意識がいって映像的な描写に欠ける人がいる。映画では役者の動きをはじめ、音楽や色や光といった演出のセンスが問われるが、これらは小説でも活用できる。
「基礎的な構成力」
小説しか書かない人は全体の構成力に欠ける人もいる。初めて「構成」を学ぶには、多くの研究がされている映画が最適。構成力がない人は無駄なシーンが多いが、これは小説にもあてはまる。
「商業的な企画力」
映像制作では予算があり、商業的な側面は無視できない。小説では芸術的な高尚なものもあれど、どんな偉大な芸術も誰かに評価されなくては残らない。現代では作家にもセルフプロデュース力が求められる。
「対話力」
映画制作では、いろんなスタッフと意見交換しながら良いモノを作り上げていく。良し悪しはあれど、殻にこもって悪いサイクルに陥るタイプの人には対話の習慣が作品の向上に役立つ。
分析方法
小説の有効な分析方法は模索中ですが、現状は以下の2つを柱に進めていきます。
1:「ビートシート」を当てはめる
多少強引にでも、映像のビートシートを当てはまることで構成、テーマ、キャラクターのコアが見えやすくなり、改善の方向性も定めやすくなると考えます。映像との比較もできます。キレイには当てはまらない作品もありますが、「当てはまらない」ということから欠けている部分が見えることもよくあります。あるいはビートだけでは拾いきれない魅力があれば、映像作品を書くときのヒントにもなります。
2:小説用の採点項目
採点をすることは作品を評価することと同時に、採点者の中での評価基準を養っていく作業でもあります。乱暴にでも採点をつづけるうちに、自分の中での「良い」「悪い」が出来てきます。
●好き(主観的評価)
映画と同じで、主観的にその作品を好きかどうかです。自分がどういう作品に惹かれやすく、どういう要素は無視しがちなのかが見えてきます。
●作品(客観的評価)
これも映画と同じ。受賞歴や売上げ、一般の読者や社会への影響なども含めて作品としての評価。「客観評価を、主観的につけることに違和感がある」という意見もありましたが、「好き」と分けることで客観視する力を養う意義として残します。より客観的で有効な基準や評価方法が見つかれば改善していきますが、映画の興収のような客観的な数字というのは、小説ではなかなか見つけづらいような気がしています。
●プロット
物語全体のうち、題材、設定、世界観、構成などに対する評価。
●キャラクター
登場人物のバックストーリーや設定、セリフ、シーンでの魅力、感情描写の巧みさ、アークの一貫性、変化、視点のオリジナリティなど。主人公に限らず、脇役の魅力や設定の仕方も含めます。
●テーマ(CQ、エンジン)
テーマとして強いCQが提示されているか。物語を通して、その答えが結論づけられているか。エンタメとしては深いテーマでなくてもストーリーエンジンとしてのCQで良いが、良い作品はテーマとしても、エンジンとしてもCQが効果的に働いていると思います。
●スタイル(文体)
文章の読みやすさ、わかりやすさ、魅力的な表現など。テーマやキャラクターと合っているかどうかも大事。自分にとって「大好きな一文」があるだけでも作品に価値はあるかもしれません。
●バランス(統一感)
上記項目のバランスや統一感。小説では、演出を文章に含むので、監督的な部分も必要だし、単純にページ数と内容のバランスもあると思います。
改善案が見つかるまでは上記の7項目で続けていきます。
すべての項目で満点になるような完璧な作品はないのではないかと思いますが、特筆として高い部分、低い部分などに特徴がでてくると思います。
また、「スタイル」のようなものでは、同じ高得点でも系統があります。
たとえばミステリー小説にとっての魅力的な文体と、恋愛小説にとっての魅力的な文体はぜったいに違います。
それぞれの特徴をつかめるようになれば、ストーリータイプのように「スタイルタイプ」の研究をしていけると考えています。
何より、継続していくことが大切だと考えます。
イルカ 2023.4.16