文学を考える3【ビートが機能するということ】

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前回、エンタメと文学ではビートの強弱の違いがあるということを考えた。
今回は「ビート弱いこと」と「機能していない」ことの違いについて考えていく。

「主人公のセットアップ」の後、「カタリスト」が起こる。これはエンタメでも文学でも同じ物語の基本構造である。

例えば「孤独を抱える中年男性」という主人公がいたとする(「主人公のセットアップ」)。
エンタメ作品であれば「突然、容疑者と間違われて警察に追われる」というカタリストが起きる。強く明確なので、観客も事件が起きたことがわかる。サスペンスの始まりである。
文学作品では「仕事帰りの電車の中で、初恋の相手に似た女性を見かける」というカタリストが起きる。
カタリストでは非日常の世界には入らないので、男は女を見かけるだけで家に帰ってしまう。弱くて事件が起きたようには見えない。

しかし、強弱とは別に「ビートとして機能しているか」という問題が重要である。それを判断するには全体から眺め、他のビートとも合わせてみていくことになる。

エンタメ作品のつづき。
「警察に追われる」というカタリストの後、家に帰ると何かの勘違いだったとわかる。テレビでは自分と顔がそっくりの容疑者が逃亡したというニュース。一安心したのも束の間、翌朝「突然、妻が家からいなくなる」。ここから妻を探す「非日常の旅」が始まる。
ビートで言えば妻がいなくなったことが「デス」にあたり、アクト2の始まりである。この時、読者は「主人公とそっくりの容疑者」と「妻の失踪」には何か関連があると予想する。
ところが、物語の最後で妻はただ夫との生活に嫌気がさしただけで、容疑者は主人公と関係のないところで逮捕されたとすると、読者はがっかりする。「警察に追われる」くだりはいらなかったのではないか? こういうったビートは、前回も話した強いが機能していないビートである。

文学作品のつづき。
「初恋の相手に似た人を見かける」の後、男は、彼女を女神のように崇拝していく。学生時代の卒業アルバムから彼女の写真を切り取って財布に入れる。それ以降、彼の心には逃避傾向がうまれ、家庭や仕事がうまくいかなくなっていく。この物語から、どういうテーマを読み取るかは読者次第であるが「現代人の孤独」とか「偶像崇拝による虚無」とか現代にリンクする共感が得られれば、読者を獲得できるだろう。
全体から見れば「電車で見掛けた女性」はそれ以降、物語に登場せず、無意味のように見えても、テーマの上では重要なキャラクターであり、カタリストというビートとして機能しているといえる。主人公に非日常に入るきっかけを与えているからである。

ビートとして機能するかどうかは、全体からみて、他のビートと有機的に絡み合っているかどうかで判断する。
そして、その中心にあるのはアクト2の「非日常」「旅」であり、それは「テーマ」でもある。次回はそのことについて考えていく。

(緋片イルカ2019/04/13)
2019/04/18改稿

文学を考える4「テーマの3つの側面」

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