『ストラクチャーから書く小説再入門』という本がシーンの分析をしていて指摘が鋭いと書いたのですが(過去の記事はこちら)、まとめ方がわかりづらかったので、アレンジを加えて整理してみようと思います。
「桃太郎が、鬼退治をしに旅立ち、鬼を倒して財宝を得て帰ってくる」
これが全体のあらすじ、ログラインだとします。
三幕に分解すれば、
アクト1:桃太郎が鬼退治に旅立つまで
アクト2:いぬ、さる、きじを仲間に入れて、
アクト3:鬼との決戦
仲間を集めてミッションをクリアするという「ミッションプロット」の型にはめます。(ミッションプロットについてはこちらに解説があります)
アクトⅠをビートを使って広げます。
「オープニングイメージ」 :※ストーリー部分ではないので省略
「ジャンルのセットアップ」「主人公のセットアップ」:青年の桃太郎は育ての老夫婦とともに平和に暮らしている。同じ村に住む恋人とはまもなく結婚することになっている。
「カタリスト」:鬼が村を襲う。
「ディベート」:村の若者が鬼討伐軍を結成するが、桃太郎は恋人に止められ参加しない。
「デス」:討伐軍が全滅。このままでは村が滅亡してしまう。恋人の制止を振り切り、旅に出る決心をする。
「プロットポイント1」:きびだんごをもらって、鬼退治に出発する。
これでアクト2の旅立つまでのプロットが出来ました。ビートになっている一文はシークエンス(シーンの固まり)と言えます。
1つめの「青年の桃太郎は育ての老夫婦とともに平和に暮らしている。同じ村に住む恋人とはまもなく結婚することになっている。」を具体的に、小説や脚本のかたちで書いていけばシーンになっていきます。
脚本では、柱といってシーンのはじめに場所と時間を書くルールがあります。
○村・全景(朝)
のどかな田舎の村。よく晴れている。
○同・畑(朝)
一人で、畑を耕している桃太郎(18)。
恋人(16)がやってきて、
恋人「桃太郎さ、もう働いてるだか? みんな目を覚ましたばっかりだで」
桃太郎「いい天気だけん。早起きして体を動かすんは、気持ちがええ」
……のように。柱には○を書いて(撮影時のシーン番号を入れるための○が慣習的に残ったもの)、場所と時間を書きます。この要素はシーンの必須要素といえます。「いつ、どこで」シーンなのかがわからないと見ている人が混乱します。基本過ぎることですが、小説を一人称で書いていると、うっかりと時間を書き忘れている作者などがいて、読んでいたら「あ、いま、夜だったんだ」と気づかされたりします。
次に「誰のシーンか?」です。ここは桃太郎の日常を描くシーンなので「桃太郎のシーン」です。主人公であっても、別のキャラクターがシーンの主役であることはあります。たとえば、次のシーンが「畑仕事を休んで、恋人が桃太郎のために作ってきたおにぎりを食べる」とすると、そのシーンで伝えたいものは恋人の気持ちの強さかもしれません(二人の愛と呼んでもかまいませんが)。その思いをセットアップしておくことで、次の「討伐軍に参加しない」というフリになるのです。もっとわかりやすい例では、
○鬼ヶ島
王座に座っている鬼王。
部下の赤鬼がやってきて、膝をつく。
赤鬼「お呼びでしょうか?」
こんなシーンがあれば、このシーンの主役は「赤鬼」です。このようにシーン毎に主人公がいるというのは、シーン毎にキャラクターロールがあると言い替えることもできます。(ロールについてはこちら)
さて、ここまでを整理します。シーンを構成していた要素は「場所」「時間」「人物」でした。
「人物」に関しては、ただ映像に映しているだけでは主役と伝わりません。たとえば、畑仕事をしている人が大勢いて、その中に桃太郎がいても、どこにいるのかわかりません。目立っている必要があります。
目立たせるために一番簡単な方法はセリフです。セリフがあれば撮影でもアップになるしメインキャラクターであることは伝わります。若者がたくさんいる中で桃太郎を目立たせるには、他と違うことを見せる必要があります。みんながさぼっているのに桃太郎だけ一生懸命働いているとかです。これで特別であることが伝わり、キャラクターの個性も見えます。「主人公のセットアップ」になるのです。
このようにシーンを一つ一つ並べていけば、物語は進んでいきます。全体の構成ができているので「カタリスト」以降、しっかりと事件も起きていきます。これだけでも簡単なストーリーは書けますが、さらに一つ一つのシーンを面白くしていくことができます。例えば、さきほどの朝の畑仕事のシーン。
○同・畑(朝)
一人で、畑を耕している桃太郎(18)。
恋人(16)がやってきて、
恋人「桃太郎さ、もう働いてるだか? みんな目を覚ましたばっかりだで」
桃太郎、恋人の顔をみて、持っていた鍬を投げてしまう。
鍬は民家の塀の中に入る。
民家の人「うぎゃーーーー」
恋人「なにやってるだか!」
民家の人が、鍬をもって出てくる。
民家「誰だ! こげなもん放り込んだ、うつけは!」
……などなど。元のシーンとの違いは「鍬を投げる」というイベントが追加されたことです。これはアクト1のプロットで「カタリスト」という事件が起きるように、1つのシーンの中でも「イベント」が起きているという入れ子構造を持たせるのです。こうすることで単純なシーンにも、変化や事件が起きているように見せることができます。ただし、これが必要な「イベント」なのかは全体から判断する必要があります。キャラクターを紹介するためにすぐに解決するイベントであれば、問題ありませんが、この「鍬事件」が長引くと、メインストーリーの「鬼退治」が遅れてしまいます。そこまでして入れる必要のあるイベントかどうか? 別のイベントでキャラ紹介できないか?など検討の余地はたくさんあります。プロットポイント1は全体の1/4の位置に置くというセオリーは、こういう判断をする上での目安としてとても役立ちます。
さて、民家の人が怒ってでてきた後には、桃太郎と恋人が謝るか逃げるか、いずれにせよ「リアクション」が入ります。それは同じシーン内で片づける必要はなく。次のシーンは、
○同・桃太郎の家・外観
家の中から笑い声が聞こえる。
○同・土間
食事をしている桃太郎、お婆さん、お爺さん、恋人。
恋人「ほんと、びっくりしただ。鍬がツバメみたいに飛んでっただ」
お婆さん「怪我さ、しなくてよかった」
(※ちなみに慣習で昼は(昼)とは書きません。書いてもいいと思いますが。)
と、次のシーンでリアクションしてしまうことでメインストーリーが遅れる問題に対処できます。うまく処理できるのであればイベントはあった方がいいのです。
まとめると以下のようになります。
シーンの構成要素
「セットアップ」(「いつ」「どこ」「誰」)
「イベント」
「リアクション」
これはアクト1、2、3の三幕構成をシーンの中で構成しているのと同じです。
例であげたような「イベント」と「リアクション」の場合は、ひとくくりで「シークエンス」と呼んでしまうのがわかりやすいかと思います。
また、映画ではシーンをさらに分解した「ショット」があります。仕事としては監督や撮影監督の領域ですが構造は同じです。
「エスタブリッシュメントショット」は場所と時間のセットアップですし、しっかりと重要人物の顔を映すことがキャラクターのセットアップになります。
「イベント」が起きるショットでは、構図やテンポなどを工夫することで「何かが起きている」かんじが演出できます。
もちろん「リアクション」の表情などをしっかりとらえるのも重要です。
こういうショットでの見せ方が出来ていないと、一生懸命に役者が演技をしてても迫力がでなかったりします。ホームビデオみたいになってしまうのです。もちろん人物を矮小化する狙いで、意図的に撮っているなら演出です。
(緋片イルカ2019/02/06)