映画『ソフィーの選択』:題材と構成(三幕構成分析#51)

分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

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メリル・ストリープがホロコーストを生き延びたポーランド人の女性を演じ、2度目のアカデミー賞に輝いた作品。恋人である嵐のような激しい感情を持つ科学者と、新しく越してきた南部の作家との関係を通して、彼女の衝撃的な過去が露わになっていく。(Amazon商品解説より)

スリーポインツ

PP1:ソフィーの部屋へ(42分28%)

MP:ネイサンへのサプライズパーティー準備(懐中時計)(67分45%)

PP2:ネイサンが戻ってくる(114分77%)

ビートシート

感想・構成解説

ストーリーはとても心打つものがあります。メリル・ストリープの演技は言わずもがな素晴らしすぎます。

クライマックスなどは別にして、個人的にグッときたシーン。

28分:ソフィーとネイサンの出会い。「わたし、死ぬのね」
この演技、美しさがあって、このストーリーが成立しているとすら思えます。

ソフィーへの愛を同情だけに落とし込まず「エロス」と「タナトス」による美しさに昇華しています。

49分:ソフィー「キリストは私から顔をそむけた」
信じていたものを信じられなくなった心理、絶望感を表現したセリフ。

内容に関しては、見ればわかると思いますので、以下、構成について。

小説の映像化の悪い側面が出すぎていて、ストーリー自体がもつ強さに比べて、映画表現がやや稚拙という印象を受けました。

モノローグの多用、回想シーンの配置、動作の少ない会話の多用、似たようなシーンのくり返しなどです。

今回の記事では、ひとつひとつを説明することはしませんが、構成を軸に簡単に説明します。

まずはストーリーの大枠を、ログラインのようにとらえると、

「作家志望のスティンゴが、ソフィー(+ネイサン)の出会いと死を経験し、大人になる」

といえそうです。

経験の少ない青年が、年上の女性と恋に落ちるラブストーリーは『卒業』を思わせます。

ソフィーと『卒業』のロビンソン夫人では、まるでキャラクターが違うし、似ていると感じづらいかと思いますが、それはソフィーのホロコーストの設定が強すぎるからです。

『ソフィーの選択』から回想シーンをすべてカットしてみたストーリーを想像してみたください。

青年が作家になる夢をもって引っ越してきた都会で、年上のちょっとイカれたカップルと親しくなっていくというストーリーになってしまうでしょう。

あるいは、ソフィーの設定に「ホロコースト」ではなく、「恋人にDVを受けたトラウマ」ぐらいの日本的な設定で描いたとしたら、邦画映画が浮かびませんか?

『ソフィーの選択』は、スリーポインツにソフィーとの関係を置いている点で、題材としては「ホロコースト」の映画ですが、構成は「恋愛映画」なのです。

その上で、以下のような質問を、この映画に投げかけてみてください。

・「回想シーン」の配置、描き方はベストか?(ソフィーとネイサンの出会いはたぶん会話の後にあったのに、シーンが停滞しているので遊園地シーンと入れ換えたのでは?)

・スティンゴの心理に共感できるか?

・ネイサンというキャラは魅力的か?

・サブキャラクター(ネイサンの兄、大家さん、レズリーなど)にも魅力があるか?

・ホロコースト以外で、印象に残ったシーンがあるか? それは別の映画と比べてどうか?

・ホローコーストの話だけで、映画にしなかったのは何故か?

・「恋愛の構成」と「ホロコースト」を合わせること自体は悪いことではないが、その意義をテーマとして昇華できているか?

・逆に、ソフィーを主人公にしたホロコーストの映画にしたらどうなっていたか?

などです。

良い悪いではなく、こういったところをもっと掘り下げれば、もっと良い作品になりえたのになと感じます。

原作に理由があるのかわかりませんが、ソフィーに選択を迫る兵士の動機は不明です。とってつけたような不条理は作者のご都合主義とも受けとられかねません。

こういった点を考えていくと、映画表現としてはやや稚拙という印象を、僕は受けました。

それでも、ソフィーの過去、クライマックスでもあるソフィーの「選択」はドラマとして凄まじいものがあり、それだけで、マイナスを補って余りある魅力があり、いい作品であることは間違いないと思います。

そのドラマを成立させているのは、構成や演出ではなく、メリル・ストリープの演技であると感じます。

パーフェクトな映画ではないですが、ストーリーはとても心打つものがあるし、演技が素晴らしい、いい映画だと思います。

緋片イルカ 2022.5.16

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