分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。
『劇場版 名探偵コナン ベイカー街(ストリート)の亡霊』
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シャーロック・ホームズが活躍した100年前のロンドンに、コナンたちが迷い込む!?世界最高・仮想体感ゲーム「コクーン」に操られる50人の命。現実で起こったふたつの事件と、バーチャルゲームの中で起こる事件がリンクする中で父・優作と共に人工頭脳「ノアズ・アーク」に挑むコナン!コナンと参加者の少年たちが助け合いながら事件を解決してゆくジュブナイルミステリー。©2002 青山剛昌/小学館・読売テレビ・日本テレビ・小学館プロダクション・東宝・TMS(Amazon商品解説より)
スリーポインツ
PP1:ゲームの世界へ入る(28分26%)
MP:ホームズの部屋(52分49%)
PP2:ジャックザリッパーを見つける(82分77%)
感想・構成解説
人気アニメの劇場用シリーズ、たとえばコナンの他には『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『ルパン三世』などに共通するのは非日常感の演出です。
家でテレビで見れる30分の通常回と違って、劇場に足を運んでもらってお金を払ってもらうに値する「特別感」が必要です。
藤子・F・不二雄がある時、毎年毎年、劇場版を求められて「もうドラえもん達に行かせるところがない」と言っていたという話があるそうですが、それはまさに「特別感」を探していることと同じです。旅行の特別感に似ています。
今回、分析した作品でいえば「ゲームの世界」(という名のオールド・ロンドンでもある)。
構成は当然、ゲームに入るところがPP1になります。
アクト2での目的は「ジャックザリッパー」を見つけるなので、ホームズの部屋で情報を入手がMP。
探偵プロットではフォールで、犯人が顔見せすることが多いのですが、それは証拠を掴んだあとの「迫り来る悪いヤツら」の感覚と関係します。
この作品では「モリアーティ教授」がその役割をしていました。
PP2で犯人がわかるのもセオリー通り。極めてベーシックな探偵プロットなので、量産できるのも納得です。
コナンに限らず、人気アニメの劇場用での特徴と思われる点は以下。
・シリーズのファンを対象にしているので、キャラクターのセットアップがいらない。
・ゲストキャラの登場
・アクション性の高さ
・アクト3でのツイストが多い(コナンの特徴か?)
この辺りのポイントを押さえて、しっかり構成・演出すればシリーズものは安定すると思いますが、劇場用シリーズの中でも駄作はあるので、そういうものは、やはり脚本が悪いのだろうなと感じます。
他にもアニメごとに、たぶん「新一と蘭の絡みがある」とか「ジャイアンがいいヤツ」とか、ファンの中では「○○説」めいたものがあると思いますが、これはむしろ過去作品で名作と言われる劇場版の特徴を、後の作品が真似して入れるために、パターン化していったものではないかと思います。
コナンは詳しくないけど、ドラえもんの「ジャイアンがいいヤツ説」は『映画ドラえもん のび太の大魔境』で始まっていて、この作品ではジャイアンが責任感を感じた上で、自己犠牲の精神を発揮するシーンがあって、これは藤子・F・不二雄がきちんとキャラクターアークを描いているからこそ、魅力的なシーンになっているのですが、近年は「ジャイアンがいいヤツ」という表面の設定だけなぞるので、キャラクターの性格自体が別物になってしまっています。
シリーズアニメのキャラクターは、劇場版でも基本的に変化はしません。(劇場版だからといってコナンの正体を知られてはいけない)
変化しないとは、主人公のキャラクターアークが描けないとも言えます。
それに代わるべきなのがゲストキャラで、そのキャラクターアークが丁寧に描かれているかどうかが、感動作まで押し上げられるかどうかの差になると思います。
今回の作品ではサブプロットが3つ
①コナンの父
③AIを開発した少年
③官僚の息子
①は完全にサブプロットだし、現実側の処理をするためにも必要なので良しとして、②、③には大きく問題がありました。
②の少年と父親の心情などを、もっと描けば、ラストシーンはより感動的になりました。
③の官僚の息子との関係は、少年と成り代わっていたため、すべてが崩れてしまっていました(夢オチと同じ失敗)
コナンに感動まで求めるのはお門違いかもしれませんが、ドラえもんやしんちゃんでは、そういうものもあるので高望みではないし、今回の作品でもキャラクター描写をもっとすれば、大人でも感動できる脚本にできたのにな~と思ったりはしました。
探偵は変化しない=キャラクターアークの必要性が求められない、ので、コナンの劇場版を企画する人たちは、ミステリーやアクションにばかり目がいって、感動まで意識がいきづらいんだろうなとも思います。
普段、あまり見ないコナンでしたが、いろいろ勉強になりました。
オススメとして聞いている作品があるので、また見てみます(気軽な気持ちで見れるのがいい)。
緋片イルカ 2022.5.16
「物語分析会」:課題作品の分析などを行いながら話し合う定期イベント
「同時代作家の会」:真剣な作家活動に興味ある方の集まり