映画『ブロークバック・マウンテン』(三幕構成分析#118)

※この分析は「ライターズルーム」メンバーによるものです。

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【ログライン】

カウボーイのイニス・デルマー(ヒース・レジャー)とジャック・ツイスト(ジェイク・ギレンホール)が愛し合い、お互い女性と結婚して二重生活を送るが、イニスは離婚しジェイクは死んでしまう。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「トレイル・ボスを待つ2人」1963年、ワイオミング州シグナル。夜明けに走る大型トラックからイニスが降りてくる。そこに軽トラでジャックが現れる。2人共、カウボーイの雇用主を待っている。2人はお互いを見合うも言葉は交わさない。

CC「主人公のセットアップ」:「違法な仕事、孤独な2人」雇用主のジョー・アギーレ(ランディ・クエイド)から仕事が説明される。ブロークバック・マウンテンの森林局の土地でバレないように羊たちに牧草を食べさせる苛酷な仕事。ジャックは父親に愛されず不満を持ちロデオをしている。イニスは早くに両親を亡くし、兄姉と苦労して生きてきた。

Catalyst「カタリスト」:「羊を運ぶ仕事を始める」9分たったところで、羊を数え、ブロークバック・マウンテンの牧草地へ行く。

Debate「ディベート」:「秘密を守るのか、自分に忠実であるのか」12分たったところで、ジャックが「自分の牧場を持って、早くアギーレと別れたい、違法なまねをさせられている」という。 秘密を守るのか、自分のやりたいことに忠実であるのかがこの作品のテーマだ。イニスは金をためて、結婚するという。ジャックが豆に飽きて、この仕事をやり通せるか怪しくなる。補給品を運ぶ途中、イニスが熊に出会い、馬が逃げ、食糧が散乱してしまう。2人はシカを撃って調達する。緊張感とともに、徐々に2人が打ち解けていく。

Death「デス」:「寒さで一緒に寝る」夜、酔いつぶれてしまった2人は、羊の番に行くのをやめて泊まることにするが、寒さで一緒に寝ることにする。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「2人の肉体関係が始まる」28分たったころ、一緒に寝た2人はセックスしてしまう。翌朝、イニスは羊の群れを確認しに行くと、羊がコヨーテに殺されている。2人はお互いゲイではないといい、一回限りのことだとするが、再びキスをして、抱き合ってしまう。もう後戻りできない2人の特別な関係が始まり、秘密を守るのか自分に忠実であるのか対立する第2幕に入る。この「禁断の愛」の「複雑な事情」は同性愛が差別される「周囲の世界」だ。

Battle「バトル」:「2人の関係と周囲の世界」ブロークバック・マウンテンでの2人の楽しい生活と周囲の世界との対立がこの作品の「お楽しみ」でもある。じゃれ合って遊ぶ2人を遠くからアギーレが見ている。「街に行っても何もできない」アギーレがジャックの叔父の危篤を知らせる。嵐によって仕事は中止になり、突然2人は殴り合う。2人は現実の世界に引き戻されたのかもしれない。

Pinch1「ピンチ1」:「イニスが結婚」街に戻ったイニスはアルマ(ミシェル・ウィリアムズ)と結婚し、ジャックはラリーン(アン・ハサウェイ)と結婚、双子のサブプロットが始まる。ジャックはイニスと会えないかと、再びアギーレの元へ行くが、2人の関係を知るアギーレは拒絶し、ミッドポイントへ向かう。

MP「ミッドポイント」:「イニスとジャックの再会」イニスはジャックから会わないかと葉書を受けとる。メインプロットとサブプロットが交差して、イニスとジャックは再会し、抱き合ってキスする。「まやかしの勝利」となるが、それをアルマが目撃してしまい、「いきなり危険度がアップ」する。イニスとジャックはモーテルへ行き、「生活からは逃げられない」と話す。

Fall start「フォール」:「イニスの離婚」イニスは昔の釣り仲間と山へ釣り旅行に行くと言って、二重生活を送ろうとするが、アルマにはすでにばれてしまっている。イニスはかつて父親から見せられた虐殺された同性愛者の話を語り、彼が内面からも強く抑制されていることが分かる。生活苦も重なり、イニスとアルマは離婚してしまう。ジャックはそれを聞いてイニスを訪れるが、娘との面会で断られ、メキシコへ行ってしまう。そして、うまくいっていない義父に暴言を吐く。イニスは19歳になった娘から同居を誘われるが、断る。

Pinch2「ピンチ2」:「イニスの離婚」ピンチ1の対でイニスはジャックとの関係によってアルマと離婚する。ところが、ジャックとの関係も不満が募っていき、PP2に向かう。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「ジャックの死」イニスは再婚相手になりそうだった女性と別れた後、ジャックへの葉書が宛先人死亡で戻ってくるのを受け取る。ラリーンに電話をして確かめると、イニスはジャックがあの事件のようにリンチされて殺されたと想像する。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「遺灰を山に撒いてほしい」ジャックが死に、イニスは結婚生活もブロークバック・マウンテンの生活も失くしてしまう。ラリーンからブロークバック・マウンテンに遺灰を撒いてほしいというジャックの遺言を頼まれる。

BBビッグバトル:「ジャックの両親を訪ねる」イニスはジャックの遺言を叶えるため、ジャックの両親のもとを訪れる。そこで父親からイニスと牧場を立て直したいという計画について聞く。のちに違う男の名前になったが、その計画は実現することはなかった。母親にジャックの部屋に案内され、ブロークバック・マウンテンで殴りあった時の血がついたシャツを見つける。遺灰は山に撒かれることなく家族の墓に埋葬され、シャツはイニスの手元に渡る。

image2「ファイナルイメージ」:「クローゼットのジャックのシャツ」トレーラーハウスのイニスの元に「ブースターロケット」の娘が訪れ、結婚式に招待する。彼は招待に応じる。家族の愛が見いだされた後、クローゼットのブロークバック・マウンテンの写真と共にかけられた、ジャックのシャツに永遠の愛を誓う。ジンテーゼだ。イニスはジャックと一緒になることで変わったのだ。

【感想】

「好き」4点 「作品」4点 「脚本」4点
「相棒愛」の「禁断の愛」のストーリータイプの代表例。
代表例として、綺麗にストーリーが組み立てられている。
同性愛について語っているが普遍的な愛について感じられるようになっている。
主人公たちが単に同性愛者でないこと、ジャックの死がリンチであるかわからないことがうまい。
セットアップが自然で良いが、2人が愛し合うようになるところにはやや飛躍を感じた。核心的な部分なのだが、その後の葛藤も抑制された良い表現なので、力業を感じる
アルマが2人のキスを目撃するシーンや、イニスがメキシコ行きをなじるシーンに作為的な不自然さを感じた。
ラストのシャツの小道具では藤本タツキの漫画「ルックバック」を思い起こした。この漫画も漫画家という職業を巡る相棒愛のストーリーだ。
(川尻佳司、2023/2/5)

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