映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(三幕構成分析#66)

※分析記事のためラストまでのネタバレ含みます。

詳細は分析会にて解説しておりますので、補足部分のみ解説+感想を記します。

参加者による詳細分析はこちら → 映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(三幕構成分析#61)

補足・感想

・わかりやすく、なるほどと思った外部記事を紹介しておきます。「a man」に関する指摘が参考になりました。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン、そして2020年代ならではの新たな西部劇

・分析会では初見で分析をして、見直し切れていない箇所があったので、改めて分析シートを作りました。初見では「ピーターがフィルを殺した」ということに僕は気づきませんでした。手袋のフリは感じていました(※というか炭疽菌で死ぬというオチを見る前に知っていた)が、初見では「ピーターの意図で殺した」のか「事故」なのか、わからないように感じました。見た後に、いくつかの手袋についての描写を指摘されて、なるほど、作り手が「意図的に殺した」と見せていることは理解しました。しかし、その途端に、とてもつまらないストーリーに感じてしまったのですが、それは「実はピーターは母親のためにフィルを殺しました」という解釈で理解してしまっていたからです。初見のとき、僕が「ピーターの意図で殺した」と感じられなかったのは、シーン描写からピーターからフィルへの愛を感じていたからです。それを「殺すための演技だった」と言われると、くだらない話だなと思ってしまったのです。しかし、見直してみて、やはりピーターはフィルを愛していると感じました。ピーターはフィルを「愛しながらも、意図的に殺した」あるいは「愛しているからこそ、殺してあげた」というのがメッセージだと感じました。フィルの中にジョージとローズに嫉妬のような感情が渦巻いていたように、これからピーターはそれを感じて生きていくのだというラストショットでは、二人のキスを窓から見つめる。冒頭のモノローグ「自分はどんな男になっていたのだろうか?」の意味合いも変わります。フィルの死に顔は安らかに見えたとおっしゃってた方がいましたが、髭を剃られる描写は「男らしさ」からの解放を意味しているように見えました。トップシーン「牧場の牛たち」がオープニングイメージとして、ファイナルイメージでは都会的な服装の二人がキスをしているイメージの対比は、時代の移り変わりも思わせます。

・フィルはブロンコヘンリー、ピーターも医者であった父親の影に縛られている。父性。

・見落とされがちなジョージ(分析会でも評判が悪かった)、37分辺りのローズの前で涙を流すシーンには、彼なりの孤独が描かれていてよい。

・シーン描写がミニプロット的ですが、イクスターナルなアークの波が緩やかなだけのアークプロットだと言える。基本的にはフィルで構成されている。イクスターナルが抑えられると心理的な葛藤があるように見える(=そう解釈しがち)だが、脚本上、フリがしっかりしているとは言えない。音楽や映像だけのシーンに観客が勝手に、そう読み取るだけ。音楽については、良くいえば効果的に働いている。悪く言えば音楽でごまかしているといえる描写が多々ある(つまりは音楽が良いとも言える)。

・改めて見て、PP2は「毛皮を売られる」はやはりしっくりこない。フィルのキャラクターアークだけでとるなら、やはり「水辺でピーターに見つかる」ところ。これ以降は「ピーターとの闘い」であるアクト3という解釈。この場合、アクト3が長くなるので、しっかりと演出的に3/4のところでは「ピーターと山へ行く」というビッグバトルっぽいシークエンスが始まるように編集されている。分析に慣れていないと「どちらをPP2にするか?」という答え探しのような思考に陥りがちだが、分析で重要なのは「それぞれの作品の特色をつかむこと」。以下のように考えることが大切。
この作品は「キャラクターアークはかなり前にズレている」「その分、演出的にもう一つアクト3のようなシークエンスをしっかり用意している」「ハリウッドで一般的なセオリーからは外れている」「外れているけど面白いか?」「外れているせいで冗漫な部分が出ているか?」「どうすればもっと面白くできるか?」など。
ちなみに「キャラクターアーク」として「PP1」「PP2」を「始まり」「終わり」として解釈したいのであれば、PP1でジョージとローズの結婚生活が始まり、フィルにとっては「カウボーイとしての男らしさを守る闘いが始まった」とし、「水辺でピーターに見られること」によって、それが完全に崩れた(終わった)などと解釈すればいい。解釈などは、所詮どうとでも言えるので、そこに拘り過ぎてはいけないが、自分なりに掴む上では、多少強引にでも、要約すると良い。

・人物を映す角度、立ち位置、影のつけ方など意図的に演出されている箇所が多々ある。1分ちょっと、フィルのファーストショットは建物の中からの枠に閉じ込められたようなショット(逃れようとしてもまた枠にハマる)。これと類比となるショットがが、ラストの病院へ行く前に使われている。面白い。

緋片イルカ 2022.10.2

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