映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(三幕構成分析#144)

※この分析は「ライターズルーム」メンバーによるものです。

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【ログライン】

かつての映画スター・リーガンは、初舞台を成功させ再起しようと奮闘するが、代役起用したマイクばかりが注目を集め、精神的に追い込まれていく。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「あぐらで宙に浮くリーガン」狭く雑然とした部屋、あぐらの姿勢で宙に浮いているリーガン。彼を憐れむ謎の男の声。現在のリーガンの不遇な状態を示唆、また彼が舞台役者と分かる。冒頭テロップのレイモンド・カーヴァーのLATEFRAGMENTの引用セリフはリーガンのキャラクターコア。彼が人生で望むのは、「“愛される者”と呼ばれ、愛されてると感じること」。そして求めるものは、名声である。

CC「主人公のセットアップ」:不明

「ジャンルのセットアップ」:不明

Catalyst「カタリスト」:「共演者が舞台練習中の事故にあう」プレビュー公演前の舞台練習中に、下手くそな役者ラルフが事故により退場。公演は中止の危機に陥る。リーガンは俺の超能力のせいだといい、直後に何も触れずにテレビを消す。再び冒頭の謎の男の声が彼に語りかける。「俺たちは本物だった」と。これは「再起」を目指す男の物語。ストーリーの2つの謎も提示される。彼の超能力は本物であるのか、彼に語りかける声は誰か。

Debate「ディベート」:「取材で好奇の目に晒されるリーガン」記者たちの取材によりリーガンの背景説明。彼はコミックヒーローを演じた人気映画スターだった。楽屋に飾られたかつてのヒーローのポスターを剥がし見たくないと隠すリーガン。栄光を忘れられない彼の苦しみは強い。

Death「デス」:不明

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「マイクの起用を頼み込む」代役候補として舞台に現れたマイクの才能を確信したリーガンは、プロデューサーに起用を頼み込む。お金がないがリーガンは自分でなんとかすると説き伏せる。元映画スターであるリーガンと対比関係となる舞台役者マイクの舞台加入決定がPP1となる。

Battle「バトル」:「マイクとの意見の食い違い」リーガンはマイクと夜の街に繰り出す。二人は言い争い意見が食い違う。二人は双方にプライドが高い。しかし、写真を迫られるリーガンと撮影のためのカメラを渡されるマイク。リーガンのほうが一般的な知名度はまだ上。役者を目指すきっかけとなった、カーヴァーのコメント入りナプキンをマイクに見せる。NYでの演劇の成否を決める批評家タビサの存在を知り、マイクは宣戦布告しにいくがリーガンは彼女に近寄らない。

Pinch1「ピンチ1」:「娘と喧嘩」マネージャーとして働く娘サムに日頃の感謝を伝えるも、彼女が再びマリファナを吸っていたことがわかりキレるリーガン。自分のキャリアを潰す気かと怒る父に、もう終わっているというサム。存在をアピールしたいだけだと言うことに向き合って、ネットではみんながやっていること、みんなと一緒で無視されるのが怖いだけだと。リーガンは言葉も出ない。彼女にぶつけられたのは現在の彼の真実の姿である。彼は結婚生活にも失敗している。しかし、いまだに身近にある愛より名声を求めている。

MP「ミッドポイント」:「新聞の一面を飾ったのはマイク」プレビュー公演の翌朝、新聞の一面を飾ったのはマイクだった。恥を書くことが怖いと言うリーガン。彼に妊娠は間違いだったと言い残して去る遊び相手のローラ。しかし、それはリーガンにはどうでもいいこと。自分のプライドが傷つけられたことの方が、彼にとって大きな問題なのだ。名声を横取りされた。リーガンとマイクは取っ組み合いの喧嘩をする。

Fallstart「フォール」:「最後のプレビューを中止したい」彼は自分を信じられなくなる。声が囁く、僅かなキャリアもこれで終わるぞと。彼は歳を重ねた今の自分に自信がない。冒頭から彼に囁き続けていた声の主はかつて彼が演じたヒーロー「バードマン」であると判明。超能力で部屋を破壊していくリーガン。精神が不安定になる時、彼は超能力で破壊行為に出る。ただし、どこまでが真実でどこまでが虚構なのか、この時点で観客に明確な判断材料は提示されない。

Pinch2「ピンチ2」:「パンツ1枚で街中を歩き注目を浴びる」舞台裏でいちゃつくマイクとサムに怒りを覚え、タバコを吸いに外へ出ると締め出されてしまうリーガン。羽織っていたローブも壁に挟まれ外れない。リーガンは、パンツ一枚になり街中を歩く。今舞台はまさに公演中。主役であるリーガンはなんとしてでも舞台に戻らなければならない。そんな彼を、通行人は見逃さない。かつての映画スター・バードマンが歩いている!と街中は大騒ぎになる。舞台の成功による再起を目指していた彼は、皮肉にも感情を制御できずに起きた失敗の最中で、自身の名声の名残を知り、また別の形で有名人となる。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「タビサに酷評され舞台は打ち切りと言われる」失意の末訪れた夜のバーでタビサにあう。リーガンは変わった、彼女と話すチャンスを逃さない。彼女に役者になったきっかけのカーヴァーのナプキンを見せるも軽薄な映画人嫌いのタビサはリーガンを根こそぎ否定。リーガンは感情を抑えきれなくなる。「あなたは役者じゃないただの有名人よ」。芝居は打ち切りという言葉にショックを受けるリーガン。彼は役者を夢見るきっかけとなったナプキンを置いて店をでる。彼はキャリアにおいて「役者」でなく「有名人」になっていたと気づく。そして、再起へのチャンスを失ったと感じ絶望する。彼の「再起」への旅は、彼の中で潰えたのだ。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「バードマンが実体化し映画スターとしての幕引きを決める」冒頭から彼に語りかけていたバードマンが、街を歩くリーガンの背後に初めて実体として姿を現す。リーガンの超能力とバードマンが誘う映画の世界に飲まれた街は大混乱、のはずだが街に混乱の気配はない。バードマンは囁く。「俺たちのやり方で派手に幕を閉じるんだ」。彼のwantは「再起」から美しい「終焉」へと変化している。

BBビッグバトル:「建物の屋上から舞台の初日へ向かう」リーガンは屋上に立ち、そこから飛び降りるがそのまま空を飛び、初日公演が始まる劇場へとたどり着く。劇場に入っていく彼を無賃乗車とタクシー運転手が追う。リーガンの中の虚構が現実を凌駕していると明確にわかるシーン。そして、リーガンの最後の戦いである初日の舞台公演が始まる。

image2「ファイナルイメージ」:「舞台初日に舞台上で頭を撃ち抜く」舞台の幕間、楽屋に訪れた元妻にやけに落ち着いていると言われるリーガン。彼女に時々頭の中に真実を教える声が聞こえると打ち明けるもスルーされてしまう。過去の自殺未遂を打ち明け、家族不和の原因を作ったことを詫びるリーガン。彼は名声でなく、愛し愛される関係を大切にするべきだったと感じている。そして、目指す終焉への準備を積み重ねているのだ。キスで赦しをえた彼は、隠していた本物の銃を手に舞台へと向かう。そして、劇のラストシーンで自らの頭に銃を当て引き金を引く。気づかない観客はスタンディングオベーション。彼のwantが叶った瞬間だ。冒頭の火球の映像が再び現れ、地には生気のない動物が横たわる。無謀なイカロスの挑戦は終わったのだ。

エピローグ:
病院に入院しているリーガン。打ち抜いたのは鼻だけだった。彼は病室で、タビサによって書かれた自分の記事が新聞の一面を飾ったことを知る。当初の彼のwantである再起と名声は、皮肉にも終焉を迎えた後でかなうが、彼に充実感はない。バードマンにも別れを告げられる。しかし、彼は、元妻と娘との絆を取り戻している。そして、これまでにない満足そうな表情を浮かべ、窓の外へと消えていく。サムの最後の笑顔の先にはどんな光景が広がっていたのか。そして、果たしてこのエピローグは存在する真実なのか?死の淵のリーガンのみた幻なのか?

【感想】

「好き」2点 「作品」5点 「脚本」4点 
これは現実なのか虚構なのか、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか。

映画スターと舞台役者、日常と演劇、栄光と失脚、総じて巧みな対比構造がある。主人公リーガンが使う超能力というオカルト要素がありつつも、それ自体が彼の不安定な精神状態のメタファとも受け取れ、NYのブロードウェイというリアリスティックな舞台設定でありつつ、どこか浮遊感のある独特な世界観をもつ作品となっている。

主人公リーガンはスポットライト症候群のようにも見えるが、不甲斐ない日々への絶望感や再起のために奮闘する姿、抱える家族不和という問題点など観客が共感できる特徴を持ち、応援したくなるキャラクター性がある。

PP2でリーガンが再起への旅を終えた後、映画冒頭からリーガンに囁き続けていた声の主「バードマン」の実体化で表現している、主人公の限界突破の表現は見事である。現実と虚構の狭間で綱渡をしていたリーガンは、バードマンに背を押されてゆるやかにはっきりと現実から落ちていき、新たな目的地である美しき終焉へと向かっていく。

アイロニカルでどこか地に足がつかない感覚とエピローグが彼の夢であったとしても現実であったとしても、ラストはバッドエンドと感じるので個人的に好みなタイプの映画ではない。しかし、主人公のwantと変化がわかりやすく、長回しの撮影方法などの演出、映画と現実の巧みなリンクも含めて面白い仕掛け映画であると感じる。

(月三、2023/5/24)

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『映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(三幕構成分析#144)』へのコメント

  1. 名前:緋片 イルカ 投稿日:2023/05/26(金) 17:27:31 ID:a03e5431e 返信

    特殊な演出の作品なので、なかなか分析しづらかったのではないかと思います。雰囲気と一部のシーンは印象に残っていますが、細かいストーリーをほとんど忘れていましたが、分析を拝読して「なるほど、そういう話だったか」と納得しました(分析に筋が通っているという意味でもあります)

    PP1「プロットポイント1(PP1)」:「マイクの起用を頼み込む」は、文中に書かれているような「舞台役者マイクの舞台加入決定」のニュアンスで掴んでおくと良いと思います。ここからアクト2、非日常が始まったという感覚です。

    PP1「マイクが加入」

    MP「新聞の一面を飾ったのはマイク」(敗北・アークでいえば下に落ちたかんじ)

    フォール「最後のプレビューを中止したい」

    PP2「タビサに酷評され舞台は打ち切りと言われる」

    どれも、キーとなるビートは筋が通っていると感じます。

    ログラインに関して、
    「かつての映画スター・リーガンは、初舞台を成功させ再起しようと奮闘するが、代役起用したマイクばかりが注目を集め、精神的に追い込まれていく。」

    で止めると、アクト3が入っていないので、

    「かつての映画スター・リーガンは、初舞台を成功させ再起しようと奮闘するが、代役起用したマイクばかりが注目を集め、精神的に追い込まれていき……」

    として、ラストがどうなったかまでを掴むようにしてみてください。