『生命式』村田沙耶香

夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで――死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作のほか、村田沙耶香自身がセレクトした、脳そのものを揺さぶる12篇。文学史上、最も危険な短編集!(Amazon商品解説より)

村田さんの作品は「読書会」で『コンビニ人間』をとりあげたことで、かなりの作品を読みました。

『変半身(かわりみ)』村田沙耶香

『授乳』村田沙耶香

『しろいろの街の、その骨の体温の』他、村田沙耶香作品まとめ

今回、読んだ『生命式』は発刊は2019年ですが、2009年~2018年に発表された作品が収められた短編集です。

村田さんの作品の他の作品と重なるモチーフもいくつか散見できます(長野の田舎やカーテンの擬人化、内臓描写など)

収録作から、気になった作品を3つ紹介します。

『生命式』

表題作にもなっている『生命式』は2013年に雑誌『新潮』に掲載された作品です。

三島賞を受賞した『しろいろの街の、その骨の体温の』(2013年)と同時期、『コンビニ人間』(2015年)よりも前になります。

『しろいろの街の~』は、小中学校での人間関係を舞台に、村田さんの視点の一つ、周りとの「不協和・違和感」が描かれ、その変化まで描ききった良作でした。

芥川賞受賞の『コンビニ人間』では「不協和・違和感」が社会常識に向けられ、結婚や普通といった価値観に対するテーマ性を含みつつ、エンタメ的な面白さがありました。

『生命式』はSFです。

人が死ぬと、葬式ではなく「生命式」と呼ばれる式が行われます。死者の肉を食べ、参加者は自由に性行為をして新たな命を育む。そういう世界観に対する「不協和・違和感」が描かれます。

10人産めば1人殺していい社会という『殺人出産』とも通じるものがあります

頭が常識に凝り固まった読者にはショッキングな設定に感じられるかもしれません。

ただしSF小説として見てしまうと、その世界におけるテーマを描ききっているとは言いがたく、あくまで「不協和・違和感」を描くためだけの設定という印象は拭えませんでした。つくりものの設定で、つくり話をしているだけに陥っている部分が残念に感じます。短篇という短さも影響しているのかもしれません。

人毛をセーターにしたり、人骨を調度品にする世界を描いた『素敵な素材』も同様の印象でした。

『夏の夜の口付け』『二人家族』

どちらも短い作品です。菊江と芳子という、独身を貫いた二人の女性の生き方が描かれています。

他の村田さんの作品にはないモチーフでした。

設定は、別の作者の作品にも多々ありますが、現代的なテーマを含んでいると思います。

この人間ドラマをSFやファンタジー抜きに、村田さんの視点から描かれたものが読んでみたいと感じました。

『孵化』

『コンビニ人間』的な作品だと思いました。この作品は、ペルソナ人間とでも言い換えられるかも知れません。

小学校時代は生真面目な「委員長」、高校ではアホな「アホカ」、大学では天然キャラ「姫」、ファミレスのバイト先では男らしい「ハルオ」、仕事では無口な「ミステリアスタカハシ」という、それぞれの環境に「呼応」するかたちでキャラを演じ分けてきた主人公は、本当の自分などないという。

村田作品で何度も使われる「入れ物」という言葉も出て来ました。

ペルソナ(仮面)を使い分ているというのも心理学ではおなじみなテーマですが、村田さんらしい視点とキャラで、コミカルに描かれていて、面白い作品でした。

緋片イルカ 2020/10/03

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