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※あらすじはリンク先でご覧下さい。
※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。
※この分析は「ライターズルーム」メンバーによるものです。
【ログライン】
CIA捜査官のメンデスは、イラン革命防衛隊による米大使館襲撃から脱出した6人を、偽の映画撮影でイランから脱出させようとする。
【ビートシート】
Image1「オープニングイメージ」:「イランの混沌」イランの歴史。前王パーレビを受け入れたことに怒り、米国大使館に押し入るイランの革命防衛隊。次々と大使館員が捕まる中、6人がカナダ大使館への脱出に成功する。しかし、革命隊に見つかれば命が危ない。緊迫したイラン情勢とアメリカの危機、事実に基づく物語であることの提示。「暴力」「裏道」「行動の責任」。
CC「主人公のセットアップ」:「オドネルからの電話」事件から69日後、ベッドで眠るメンデスの元に電話がかかってくる。彼は急いで、CIAへ向かう。危機的な状況で呼び出されるメンデスは優秀な人材であることがわかる。
(「ジャンルのセットアップ」)イラン革命。人質事件、大使館員の救出
Catalyst「カタリスト」:「救出作戦の顧問になる」イランで米大使館を脱出した6人の救出作戦のアドバイスをすることになるメンデス。脱出した6人は大使館名簿に顔写真があり、シュレッダーした書類がイラン軍により復元されている。身元がバレたら公開処刑となってしまう。しかし、国務省主導の救出作戦はあまりにお粗末なもので、メンデスは辟易する。救出は堕胎と同じ、嫌な手術だが素人にはできないというメンデス。しかし、彼もここで新たな案はだせない。作戦の困難と時間制限を明確に示し、メンデスのストーリー上のwant「人質救出作戦を成功させたい」が提示される。
Debate「ディベート」:「別居中の息子と遠隔でSF映画を見る」別居中の息子と電話しながら同じSF映画を見ることで、メンデスは突拍子もない作戦を思いつく。同時にメンデスのバックグラウンドが間接的に説明される。別居中の家族がいるということ。彼は多忙で、かつ感情表現が薄い。そのため仕事はできるが、家族不和を抱えている。
Death「デス」:「偽SF映画作戦を提案する」メンデスは偽映画作戦を提案する。SF映画撮影のロケハンとしてメンデスがイランに飛び、そのクルーとして6人を脱出させるのだ。国務省役員らは派手で現実的でない作戦に大反対する。一方で、イランの6人も精神的な不満が募って来ている。さらに、イラン革命軍に大使館員の人数が少ないことがばれてしまう。3つどもえの状況説明。状況の悪さは、イラン革命軍<メンデス<人質。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「CIAは偽映画作戦を進めると決定」上司のオドネルは、メンデスにCIAとして偽映画作戦をすすめることを伝える。何も知らずに国中が見守る中、メンデスは作戦を準備し始める。彼のwantが現実的に動き始める地点がPP1となる。
Battle「バトル」:「メンデスは偽映画作戦の仲間を集める」特殊メイクのチェンバース、監督のレスターと仲間を集めていくメンデス。仲間集めはスムーズに進んでいく。しかし、CIA長官からの指令により、72時間以内に作戦案をまとめなければならなくなったメンデス。偽映画作品にSFアクション映画「ARGO」の脚本を選ぶ。ここで映画タイトルの理由が明かされる。メンデスらは映画作戦の準備にマスコミ利用するが、イラン兵も同じことをする。SF映画の脚本朗読とアメリカをテロ組織というイラン兵のテレビ発表が交互に現れ、現実的で残虐なイラン兵の行動と空想的で無謀なアメリカの救出作戦が皮肉な対比を見せている。
このポイントでレスターに家族不和を打ち明けるシーンが入り、仲間に心を許し始めていることがわかる。
Pinch1「ピンチ1」:「アメリカ出国、イランへの入国」メンデス以外の作戦も並行して検討中だった国務省は、「最高な最悪案」偽映画作戦の決行を決め、メンデスは一人アメリカを出国する。捕まってもCIAはメンデスを職員と認めず、すぐ処刑だといわれても顔色一つ変えないメンデス。出国前に偽映画の仲間と家族に電話する。仲間とはすぐ連絡がつくが、家族には電話が繋がらない。仕事の順調さと引き換えに、家族関係に改善は見えない。全ての物事がうまくいくわけがないという提示か。
MP「ミッドポイント」:「カナダ大使館で脱出した6人と会う」メンデスはイラクに入国し、カナダ大使館にいる6人と会う。彼は偽名を使う。動き出した彼の作戦は、救出対象に実際に会うことで新たな局面を迎える。
Fall start「フォール」:「6人は作戦成功を信じない」6人は本名さえ名乗らないメンデスの提示する無謀な作戦を信用することができない。それでも、メンデスは一人作戦成功のため、パスポートのサイン偽造を進める。そんな時にバッドニュースが飛び込みピンチへ誘導。
Pinch2「ピンチ2」:「6人とバザールを歩いて視察することになる」夜メンデスの部屋に手紙が届く。文化・イスラム指導大臣はロケハンを許可し、明日バザールでクルーと会うという内容。バザール行きは避けろという上司に、断れば連行されると感情をあらわにするメンデス。メンデスが大きく感情を見せるのはこのシーンが初。本イベントの重大さが伝わる。合間合間にイラン軍の子供たちによる。シュレッダーにかけた写真の復元が進んでいるシーンが入り緊迫感を煽る。出発前、彼は本名と素性を6人に明かす。
メンデスは6人とイランの担当者とバザールを歩くが、6人は密かに顔写真を撮られている。そして、店の写真を勝手に撮ったことで騒ぎを起こす。一方、カナダ大使館では客がいつからいるかイラン軍に聞かれた家政婦が嘘をつく。緊迫感の煽り、他場所でシーンを積み重ねていく。
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「上司オドネルから計画は中止と言われる」オドネルから電話がかかってくる。(メンデスの転換ポイントはオドネルからの電話)軍が救出するので、偽映画作戦は中止という勧告である。メンデスは怒りをあらわにする。6人を街に連れだして顔を晒した後だからだ。「彼らに対して責任がある」というメンデスに、「命令に従う義務がある」というオドネル。一方で電話を切った後、オドネルも作戦中止に対して怒りを隠しきれない。メンデスは他者のために感情を爆発させるタイプ。かつCCとして「責任感」があると明確にわかる。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「一人カナダ大使館を去るメンデス」事情を知るカナダ大使に促され。メンデスは一人大使館を去る。一方で、国外脱出できることに喜び祝杯をあげる6人。ホテルで一人、メンデスは眠れぬ夜を過ごす。作戦中止は本国の偽映画事務所の仲間にも伝えられる。6人を危険に晒し、責任を果たせない。しかし、彼は命令に従わなければならない。
BBビッグバトル:「7人で出国する決意をするメンデス」「何かがあれば誰かが責任を負う」自分が責任を負って6人を出国させるとメンデスはオドネルに伝える。メンデスの覚悟を知ったオドネルは本国で動く。7人が空港でパスポートチェックを受けている時、イラン軍側ではシュレッダーで復元された顔写真とロケハン時に撮られた写真が照合される。
ツイストで搭乗前の最終審査後に7人は小部屋に移される。空になったカナダ大使館にイラン軍が襲撃する。搭乗口を通過するもバスのエンジンがかからない。など、小刻みに危機の連続。
image2「ファイナルイメージ」:「7人を乗せた飛行機が離陸、イラン国外へ」7人を乗せた飛行機は滑走路を走るが、気づいたイラン軍が車で追いかける。しかし、それを振り切り飛行機は飛び立つ。イラン国外に出たというアナウンスが航空機内に響き渡る。喜ぶ関係者たち。メンデスの口が一瞬だけにこりとするところに不器用な彼のキャラクター性が出ている。
エピローグ:彼らを守った家政婦サヘルもイラクへ脱出。脱出した6人とカナダは大喝采を浴びる。一方でメンデスはCIAスター勲章を授与されるが隠密作戦のため極秘扱いですぐに返還する。妻の住む家を訪れたメンデスを妻は抱き締める。仕事と家族関係、双方ハッピーエンド。
【感想】
「好き」4点「作品」4点「脚本」5点
本作品は見方によれば、いわゆる職業ヒーローものとも言えるのだろうか。CIA捜査官という主人公の肩書きは、強いネームバリューがある。
本編に関しては、冒頭の設定説明部分でペルシャからイランへ、そして内戦となっていく複雑な国の歴史を、アニメーションも用いてうまく説明している。史実を元にしている以上、この前提条件の理解度がある種キーとなるので重要なパート。
主役メンデスは内向的で感情表現が乏しいながらも、CCとして「強い責任感」を感じさせ、WANTの「救出作戦成功」にむける行動力や決断力を通して筋が通った行動線がみえる。ストーリーにプラスワンするならば、敵側に強力な個性を持つヴィランキャラがいると面白いのではないか。ただそうすると、スーパーヒーローものに近くなってしまうのだろう。事実ベースのストーリーであるからこそ。これくらいの無個性さが良いヴィラン設定なのかもしれないとも思う。
この映画の面白さは、緊迫シーンの巧みな積み重ねにある。例えばクライマックスの飛行機に乗るまでのシーン。86分時点、飛行機に予約がない→CIA本部にカーターからの承認メール→CIAで航空券準備→予約確認チケット発券→CIA本部映画事務所に待機準備依頼するも、閉鎖依頼済み→パスポート照合→イランの子供により顔の復元がほぼ完了。ここまでたったの2分。目新しい煽りシーンではないが、スピード感と±の揺さぶりが大事だと思い知らされる部分。
鑑賞感も爽快で裏切り者もいない。イラン国内にわずかに残虐シーンはあるものの、比較的安心して面白かったねと見られる映画であると思う。
(月三、2023/6/20)