全6回に渡ってスキーマ療法の理論部分を引用してまとめていきます。
ざっくり読書6①『スキーマ療法入門』伊藤絵美(生得的気質について)
ざっくり読書6②『スキーマ療法入門』伊藤絵美(中核的感情欲求と5つのスキーマ領域について)
ざっくり読書6③『スキーマ療法入門』伊藤絵美(18の早期不適応的スキーマ)
ざっくり読書6④『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマの作用「持続」と「修復」)
ざっくり読書6⑤『スキーマ療法入門』伊藤絵美(コーピングスタイルとコーピング反応)
ざっくり読書6⑥『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマモード)
ヤングは、早期不適応的スキーマに対するその人なりのコーピング(対処反応)を、「コーピングスタイル(coping style)」と「コーピング反応(coping response)」という概念にまとめた。コーピングスタイルとは、その人が自らの早期不適応的スキーマに対処するための全般的なコーピングのパターンのことであり、コーピング反応とは、個々の場面における個別の対処反応のことである。コーピングスタイルはその人の特性(trait)。コーピング反応はそのような性格を持った人のその時々の具体的な反応(state)ということになる。
前回、物語でいえば、早期不適応的スキーマは主人公が抱えている問題と話しましたが、コーピングスタイルはその人の日常での振る舞いや態度、リアクションに関連します。コーピング反応は「キャラクターの言動決定要素」でいうところの「テンション」に近いものがあります。
スキーマの持続につながるようなコーピングスタイルのことを「不適応的なコーピングスタイル」という。ヤングは「スキーマへの服従(surrender)」「スキーマの回避(avoidance)」「スキーマへの過剰補償(overcompensation)」という3種類の不適応的コーピングスタイルを定式化した。これらは有機体が脅威に対して示す基本的な3つの反応である、「闘う(fight)」「逃げる(flight)」「麻痺する(freeze)」に、「スキーマへの過剰補償」「スキーマの回避」「スキーマへの服従」がそれぞれ該当するということである。
やや長くなりますが、大変わかりやすい例が載っていて、キャラクターの参考にもなるので引用していきます。
スキーマに服従するということは、スキーマの「言いなり」になるということである。「スキーマへの服従」というコーピングスタイルを持つ人は、活性化された自らのスキーマをただそのまま鵜呑みにし、スキーマに従ったり、スキーマを確証するような行動を取ったりする。
例1:「見捨てられスキーマ」を持つある女性は、休日に恋人と会えないことに対して(恋人は上司から休日出勤を要請されていた)、「これは自分が見捨てられる兆候だ」「彼は私を見捨てようとしている」と思い込み、悲嘆にくれた。
例2:「失敗スキーマ」を持つある男性は、大学の課題を目の前にして、「どうせ自分にはできっこない」「どうせ失敗するなら、まじめに取り組んでも意味がない」と思い込み、いい加減なレポートを提出し、実際に落第した。
スキーマを回避するということは、スキーマに直面したり、スキーマが活性化されたりしないよう、常に用心するということである。コーピングスタイルとして「スキーマの回避」を用いる人は、スキーマが活性化することも、スキーマに関わる思考や感情などを体験することも避け続け、あたかもそのスキーマが存在しないかのように振る舞い、万が一活性化されそうになったら、すばやくその状況や自らの反応を抑え込もうとする。
例3:「損害と疾病に対する脆弱性スキーマ」を持つある男性は、大地震が起きることをひどく恐れており、地震のニュースや速報がテレビで流れると、すぐにチャンネルを変えたり、テレビを切ったりする。新聞や雑誌でも地震の記事を見ると、さっと読み飛ばしてしまう。
例4:「欠陥/恥スキーマ」を持つある女性がアルバイトを始めたが、休憩時間にアルバイト同士でお茶を飲みながら雑談をする習慣があることを知り、雑談で自分のことを少しでも話したら「ダメ人間」であることがばれてしまうと思い、すぐにアルバイトを辞めてしまった。
スキーマに過剰補償するということは、スキーマと正反対のことがあたかも事実であるかのように振る舞うことを通じて、スキーマと闘おうとすることである。「スキーマへの過剰補償」というコーピングスタイルを持つ人は、自らのスキーマを意識的あるいは無意識的に厭い、そういうスキーマを持つ自分とは全く違う存在であろうとする。
例5:「社会的孤立/疎外スキーマ」を持つある男性は、インターネットで知り合った同じ趣味を持つ人たちのオフ会に参加して、あたかも自分が参加者の全てを知っているかのように振る舞い、会の中心的人物でいようとし続けた。
例6:「服従スキーマ」を持つある女性は、職場の上司がごく普通に業務上の指示を出しているにもかかわらず、それらの指示に対して、「何で私がそんなことをしなくちゃいけないんですか?」などと反発し、上司の指示をことごとく無視した。
物語のキャラクターを描く際にも、表面的なセリフだけでなくサブテクストを考えるには、こういったコーピングスタイルまで捉えておく必要があります。
緋片イルカ 2019/08/22
次回は……ざっくり読書6⑤『スキーマ療法入門』伊藤絵美(コーピングスタイルとコーピング反応)
●書籍紹介
スキーマ療法入門 理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用
伊藤絵美が書き下ろす渾身の入門書。本書を通して、伊藤絵美と共に学び、実践する仲間になる。スキーマ療法とは,米国の臨床心理学者ジェフリー・ヤングが提唱した認知行動療法(CBT)の発展型である。認知の中でもより深いレベルにあるスキーマ(認知構造)に焦点を当て,CBTを中心に力動的アプローチほか非常に統合的な心理療法を組み合わせてスキーマ療法を成した。本書は入門テキストと事例集の二部構成となっており、特に日本でスキーマ療法を習得し,治療や援助に使いたいという方に向けて書かれた待望の書である。(Amazon商品紹介より)
専門書ですがスキーマ療法の提唱者ヤング自身の本はこちらです。
スキーマ療法―パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ
スキーマは,その人の認知や長年培われてきた対処行動などを方向づける意識的・無意識的な「核」であり,〈中核信念〉とも訳される。本書は,幼少期に形成されたネガティブなスキーマに焦点を当て,その成長が健康的ではなかった境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害をはじめとするパーソナリティの問題をケアしていくスキーマ療法の全貌を述べたものである。
人には5つのスキーマ領域からなる18のスキーマがあるとされ,それぞれに際立ったコーピングやモードがあり,幼少期から周囲の環境に応じてパーソナリティを形づくる。こうして固まったパーソナリティの問題は,認知行動療法だけでなく,多くの心理療法や薬物療法でさえ,万全なケアができるとは言いがたい状況にある。スキーマ療法は,こうしたニードから生まれた統合的な認知行動療法アプローチであり,体験療法やエンプティ・チェアなどのゲシュタルト療法,精神力動的な方法といったさまざまな心理療法を加え,基礎的な心理学の知見をも加味して生まれてきたものである。
本書は,リネハンの弁証法的行動療法とともに,パーソナリティ障害をはじめとする人格の問題にアプローチする最良の方法の一つであり,理論的な入口の広さから多くの心理臨床家,精神科医,心理学者などに読んでもらいたい1冊である。(Amazon商品紹介より)
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