ショットの要素:概略(演出6)

「ショットの要素」の記事:
概略
1:「トーン」
2:「フレーミング」
3:「キャラクター」
4:「ムーブ」
5:「タイム」
6:「トランジション」
7:「サウンド」
まとめ

ショットの構成要素

前回の記事では補足的に「感情移入」について書きました。

今回は演出の話に戻ります。

前々回の記事「視覚」と「聴覚」と(演出4)で書いたうちの「視覚」についてを深掘り。

具体的なショット分析の前提となる「ショットを構成している要素」を考えていきます。

映像だけで伝えるということ

映像の効果は考えるとき「サイレント映画」をイメージするのは有効です。

今では昔の映画にもBGMが付けられていることが多いですが、全くの無音として見るイメージです。

あるいは現代の映画でもミュートにして見てみる。

すると、強い映像と弱い映像がわかります(音楽がいかに助けているかもわかります)。

セリフが聞こえず、設定や状況など正確な「情報」はわかりませんが、強い映像では「印象」が伝わってきます。

例えば「男女が座って会話しているだけのシーン」を考えてみます。

ケンカとかラブラブとか、わかりやすい「印象」は役者の表情だけでもわか明らかですし、コメディのような戯画的な演出であれば簡単に伝わります(手塚治虫のマンガのような)。

繊細な感情を描くときはどうでしょう?

「顔では笑っているけど、心の中では悲しんでいる」とか「無表情だけど、内心は動揺しているポーカーフェイス」とか、顔と裏腹な感情は戯画的な表現では伝えられません(リアリティがなくなりチープになる)。

そういう繊細な感情を伝えるには、巧みな演出が必要です。

基本としては物理的なセオリーに基づく「印象」があります。

例えば、アオリという見上げるようなショットでは、映っている対象が大きく映ります。

ビルを地上から見上げるように映せば、大きさや高さがでて威圧感が出ます。これは人間の身体的な認知に基づきます。

ですが、人間の感情や社会性に基づくものは、単純な物理的なセオリーには置き換えられません。

「男女の関係」を「こう撮れば、こう伝わる」といったセオリーはないのです。

補足しておきますが、例えば男女の座っている位置を離すことで、二人の距離感を表すといったことは物理的なセオリーの範疇です。

関係性を物理的なセオリーに置き換えて表現しているのです。

言うなれば、それは演劇での演出と同じです。

この記事で扱っているのは、その物理的な演出(男女が座っている位置)は決まったとして、その上で、どういうショットに収めることで「印象」を強めるかという演出です。

これには、トップシーンから観客に定義付けていく必要があります。

ストーリーのアクト1がセットアップのように、映像でも「この作品では、こういう時は、こう映します」といったショットのセットアップをしていくのです。

観客は無意識的にパターンを感じます(物事から法則を読み取ろうとするのは人間の本能的な処理です)。

前半ではいつも決まった撮り方をしていたのに「そうではないショット」が出てくると、観客は「あれ?」と感じるのです。

もちろん、そのタイミングは脚本上のキャラクターの変化と一致させることで引き込まれます。

ストーリーの変化とショットの変化が一致することで、意識的(ストーリー)にも、無意識的(ショット)にも観客を引きこんでいくのです。

ストーリーとは無意味に変化をつけても、没入感を阻害するだけです(ただしストーリーの質が悪く単調な場合は演出をした方が良い場合もある。それは脚本が悪い)。

ショットの明確な方向付けをしていくのは、監督の演出としての仕事です。方向付け=direction、だからディレクターなのです(演出以外にも現場を回すという現場監督しての意味合いもるが)。

監督、脚本、編集までを一人の人が行っていると、その統一感がとりやすいことは多いのは言うまでもありません。

ショットの意義

監督やカメラマンの気持ちになって考えていきましょう。

ショットを決めるとき(絵コンテを描くでも同じ)には「何を映すか?」という選択があります。

例えば「そこが学校である」と伝えるために「学校の外観を撮る」とします(脚本には「〇学校・外観」とあるでしょう)。

「何を映すか?」が決まれば、次は「どう映すか?」です。

カメラマンには「綺麗に」「バランス良く」映すという基本技術があります。そこは素人との違いです。

特別に伝えるべき「印象」がない場合は、それだけで良いかもしれません。ショットは安定はするでしょう。

ですが、特別な印象を与える必要のないショットなどあるのか?という疑問もあります。

「印象」を与えないのであれば「情報」を与えるだけ、つまり「説明的なショット」と言えそうです。

ストーリー上、伝えなくてはいけない「情報」はあるし、下手にセリフでごちゃごちゃ言わせるよりも「説明的なショット」を一つ入れる方が良い場合はたくさんあります。

ですが「説明的なショット」は必須なのか? そこで説明しておく必要があるのか? などは考える余地があるでしょう。

脚本の例をいくつか示していきます。

例1:
〇小学校・外観
 ごく平凡な小学校である。

〇小学校・3年B組の教室・内
 休み時間で生徒たちが騒いでいる。

あなたが監督だとしたら「何を「どう」撮りますか?

自分なりの絵コンテを想像してみてください。

たいていは「校庭か校門あたりから校舎を映す無難なショット」が浮かぶでしょう。

校庭に桜の木でもあれば、一緒に映せば「綺麗」でしょう。

ですが、それは効果的なショットになるでしょうか?

この脚本であれば、外観ショットはなくても、次のシーンの教室のシーンで「小学校」であることは伝わります。

ましてや「ごく平凡な」といったト書きは、そのショットが「あってもなくてもいい」と言っているようなものです。

無意味なので脚本段階でカットしていいし、脚本にあっても演出家が無視していいでしょう。

ト書きを変えてみます。

例2:
〇私立小学校・外観
 由緒正しい小学校である。

「私立」「由緒正しい」という言葉で学校の「印象」が脚本から伝わります。

先程のショットで「由緒正しい」という「印象」は伝わるでしょうか?

演出家が、脚本を読み込む力に長けていれば「由緒正しい」という印象を表現する方法を考えるでしょう。

読解力のない現場を回すだけの監督だと「由緒正しい」を無視して「綺麗に」「バランス良く」撮ってしまうかもしれません。

映像では「ごく平凡な小学校」に映ってしまう可能性もあります。演出できていないのです。

脚本が悪いか? 演出家が悪いか?

両者の関係性にもよりますが「この監督なら読みとってくれるはず!」とか「ここは、ぜひ監督のセンスに任せたい!」というときは、こんな書き方の脚本も許容されるでしょう。信頼関係ができているのです。

信頼関係がないのであれば、脚本のイメージ不足とも言えます。

演出家のイメージを刺激するようなト書きを書いた方がいいでしょう。

例3:
〇私立小学校・外観
 由緒正しい小学校である。閉じられた校門は生徒を閉じ込める檻のようにも見える。

こんな書き方では、どうでしょう?

浮かぶ映像は人それぞれだと思いますが、少なくとも「門」を「閉塞感がある」ように撮ってくれという「印象」が脚本から伝わってきます。

ここまで書いて読みとれないのであれば監督の読解力は低いかもしれません。

脚本家がショットの指定までするのは踏み込みすぎの可能性があります(※昔はそういう脚本もあったし、監督兼脚本であれば、そういう書き方もありでしょう)。

実際問題として、どういうショットにするかを決めるのは監督やカメラマンの範疇ですが、脚本上はしっかり伝えることが大事です。

言うまでもありませんが「生徒を閉じ込めるような檻のように見える門」を「印象」づけるのは、その後に出てくる展開の予兆になっていなければなりません。

例4:
〇私立小学校・外観
 由緒正しい小学校である。閉じられた校門は生徒を閉じ込める檻のようにも見える。

〇小学校・3年B組の教室・内
 休み時間で生徒たちが騒いでいる。

となるよりも、

例4:
〇私立小学校・外観
 由緒正しい小学校である。閉じられた校門は生徒を閉じ込める檻のようにも見える。

〇小学校・3年B組の教室・内
 休み時間なのに生徒たちは席で自習している。

という方が、しっくりくるでしょう。

このようにトップシーンから、全てのシーンが連なって、物語の世界に引きこむようにしなければなりません。脚本も演出も。

ショットの要素

では「生徒を閉じ込める檻のような」校門という「印象」を伝えるために、どういった部分に気を配っていくか?

ショットを構成している要素から考えてみます。

・トーン(色・彩度・明度)

・フレーミング(構図、何をどの距離、どの角度から撮るか)

・キャラクター(人物、役者の表情、仕草、声)

・ムーブ(動き、ショット内での動き、カメラの動き、スピード)

・タイム(間、時間)

・トランジション(次シーンとの繋ぎ、関連性)

・サウンド(BGM、SE)

今後の記事で、各項目について、ひとつずつ考えていこうと思いますが、今回は一例として「学校の外観」ショットで考えてみます。

トーン:「生徒を閉じ込める檻」の印象は、暗くて重い印象。色としては刑務所などを連想させる黒や灰色。

フレーミング:檻のかんじをだすため、校門の縦の棒が強調されるような構図。檻に入れられているようなアップから入るなども良い。

キャラクター:外観のショットなので人物はなしにしておく。感情を伝える意味ではキャラクターをどう撮るかは最重要とも言えますが、情報量が多いと考えづらくなるので、ここでは割愛。アイデアとしては看守を思わせるような教師の歩き方とかあるが、次シーン、廊下などで見せてもいい。外観ショットに入れる必要はない。

ムーブ・タイム・トランジション:檻に見えるようなアップから始まったとして、そこからカメラが動いて「学校の校門だとわかる」(ムーブ)とか「ショットが変わって引きの画に繋げる」(トランジション)など選択肢はあるが、いずれにせよ、檻、刑務所のイメージでいえば、重い印象が伝わるゆっくりとした繋ぎ方が良いだろう。

音響:ショットを抜き出して考えているが、画が見えてくると、どういう音響が相応しいかも見えてくるだろう。刑務所であれば、無音に近いような静かさや、静かさゆえに小さな音が際立っているなどの表現もある。

あくまで、どういう「ショット」がベストかに答えはありません。

演出家のセンスが大いに反映されるし、そこに好き嫌いの好みもあります。

ですが、意図的に演出しているのか、ただ「綺麗に」「バランス良く」やっているだけなのかは、見慣れてくればはっきりわかります。

脚本を分析するように、ショットや音響を分析すれば、プロットタイプのような基本的なパターンが掴めるし、特定の監督の個性的なスタイルを盗むこともできるようになるでしょう。

緋片イルカ 2024.1.3

次:ショットの要素1:「トーン」(演出7)

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